
季節折々の句を紹介します。
-
法師蟬この次来れば柿甘し
2022/8/18 02:01 194文字◆昔 ◇法師蟬(ぜみ)この次来れば柿甘し 相島虚吼(きょこう) 今、ここではツクツクボウシが鳴いている。こんどここへ来るときには、柿がきっと熟れているだろう、という句。わが家には次郎柿の木が1本ある。地植えするだけの庭の広さがないので、鉢植えにしているが、なんだか柿の盆栽という気配になっている。2
-
濁音は使わずにいるつくつくし
2022/8/17 02:00 191文字◆今 ◇濁音は使わずにいるつくつくし 久保純夫 「つくつくし」はツクツクボウシ、すなわち法師ゼミ。この句、句集「動物図鑑」(儒艮(じゅごん)の会)から引いたが、ツクツクボウシの鳴き声はたしかに濁音でなく清音だろう。ついこの前までけたたましいばかりに鳴いていたクマゼミはもっぱら濁音という感じだったが
-
踊る人月に手を挙げ足を上げ
2022/8/16 02:00 184文字◆昔 ◇踊る人月に手を挙げ足を上げ 高浜年尾(としお) 「月に手を挙げ足を上げ」がいいなあ。踊りの手足が地球を超えて月に届いている気がする。地球上の私たちは民族とか国をめぐって争っているが、その一方で、この句のように一挙に国を超えることができる。盆という行事にしてもあの世につながっているのだからす
-
アフリカに人は始まる盆踊り
2022/8/15 02:01 181文字◆今 ◇アフリカに人は始まる盆踊り 寺田良治 私たち(ホモ・サピエンス)はアフリカ大陸で誕生し、6万年前(この年代には諸説がある)にアフリカを出て世界に広がったと考えられている。俳句選集「あの句この句」(創風社出版)から引いた今日の句は、盆踊りのようすにアフリカ、すなわち人類のはるか昔の故郷を感じ
-
生身魂七十と申し達者なり
2022/8/14 02:00 194文字◆昔 ◇生身魂(いきみたま)七十と申し達者なり 正岡子規 かつて盆の間の年長者を敬意をこめて「生身魂」と呼んだ。子規のいた明治時代だと人生は50年、70歳だと立派な生身魂だった。この生身魂という季語、つい先年まで私には抵抗感があった。あの世に近い感じだから。でも、当年78歳の私は、生身魂はいい言葉
-
-
生身魂海より鯛のとどきけり
2022/8/13 02:00 194文字◆今 ◇生身魂(いきみたま)海より鯛(たい)のとどきけり 松本ヤチヨ 季語「生身魂」は盆の間の年長者を指す。かつて存命する尊属(父母、祖父母、叔父、伯母など)、あるいは親しい老人を生身魂と呼び、贈り物をし、感謝の会食をしたらしい。今日、生身魂という語は季語としてのみ生きている感じだが、私たちの心の
-
夏果ての男は乳首のみ老いず
2022/8/12 02:01 184文字◆昔 ◇夏果ての男は乳首のみ老いず 能村登四郎 「夏果ての男」は盛りを過ぎた老人だが、自分の乳首をいじり、鏡に映して点検している男を想像すると、なんだかおかしいなあ。いや、今ふうに言えばキモイかも。ある集まりでこの句を紹介したら、老眼鏡をかけ忘れて見ているのではないか、という見解が示された。眼鏡な
-
行く夏の尻のあたりをわしづかみ
2022/8/11 02:00 186文字◆今 ◇行く夏の尻のあたりをわしづかみ 芳野ヒロユキ 季語の世界は立秋(8月7日)から秋だが、私の実感としては今はまだ晩夏が続いている。近年、夏がうんと長いと思う。今日の句、句集「ペンギンと桜」(2016年)から。晩夏の感触を、たとえば走り回る子の裸の尻をわしづかみした感じ、と表現したのだろう。「
-
朝夕の涼しさ誰も言ひ初めし
2022/8/10 02:00 185文字◆昔 ◇朝夕の涼しさ誰も言ひ初めし 前田美千雄 季語「涼し」は夏の暑さの中に感じる涼しさ。作者は1945年にフィリピンで戦死したという。享年31。日本画家で俳句好きだった彼は、絵と俳句入りのはがきを毎日のように戦地から妻や家族に出した。兵庫県伊丹市の市立伊丹ミュージアムでは「戦場から妻への絵手紙」
-
胸ポケットにICカード星涼し
2022/8/9 02:04 191文字◆今 ◇胸ポケットにICカード星涼し 越智友亮 季語「星涼し」は夏の星がきれいに見える快さ。その快さ、胸のICカードと照応し、空と地を清涼感がつないでいる。句集「ふつうの未来」(左右社)から。「通り雨だろうタピオカミルクティー」「テレビ越しに花火は映えて餃子(ギョーザ)に酢」も1991年生まれのこ
-
-
広島や卵食ふ時口ひらく
2022/8/7 02:02 178文字◆昔 ◇広島や卵食ふ時口ひらく 西東三鬼 口が生卵に迫っている。いや、ゆで卵に赤い唇の口が近づいているのかも。スクランブルエッグを迎え入れている口を想像してもよい。要は、卵を前にして開いている口という現代アート的な構図がこの句の見どころ。季語のない句だが、被爆した広島を私はこの句の構図に感じる。今
-
手付かずのダイナマイトを抱く晩夏
2022/8/6 02:00 186文字◆今 手付かずのダイナマイトを抱く晩夏 櫂未知子 「手付かずのダイナマイト」とは、どうにも処置のしようの無い、つまり手に負えないダイナマイトだろう。それを身内に抱えたまま晩夏に至ったという句。今日は広島に原爆が投下された日だが、世界には約1万3000の核兵器があるという。私たちは手付かずの巨大な爆
-
隣人の水打ち呉るる夕されば
2022/8/5 02:00 185文字◆昔 ◇隣人の水打ち呉(く)るる夕されば 石塚友二 「夕されば」は夕方が来ると。「さる」は今はもっぱら「去る」だが、古くは「来る」の意味にも用いた。今日の句、夕方になると隣人がわが家の前にも水を打ってくれるというのである。ちなみに、打ち水は朝や夕方が効果的、2度くらい気温をさげるという。日ざしの強
-
打水や水の神呼ぶ風の神
2022/8/4 02:00 195文字◆今 ◇打水(うちみず)や水の神呼ぶ風の神 北村峰月 打ち水をすると微風が立つ。その微風の生まれるとき、風の神が水の神を呼ぶ。風神と水神がたわむれて、打ち水が涼しい時空を開く。ほぼ以上の意味の句であろう。「水の神呼ぶ風の神」が打ち水のようすだ。句集「多作多捨」(文学の森)から。作者は京都市伏見区に
-
西日中電車のどこか摑みて居り
2022/8/3 02:00 194文字◆昔 ◇西日中電車のどこか摑(つか)みて居(お)り 石田波郷 先だって、広島で久しぶりに路面電車に乗った。20代の日に親しんだ京都の市電がまだ走っていて、なんだか感傷的になった。それはともかく、広島の路面電車はクーラーがよくきいており、走行もなめらか、たとえ西日の中を走ったとしても快適だろう。今日
-
-
大西日焦げ臭くゐる爺でした
2022/8/2 02:01 201文字◆今 ◇大西日焦げ臭くゐる爺(じい)でした 星野昌彦 季語「大西日」は強い西日。今日の句、その西日の中にいるじいが焦げ臭い感じだった、というのである。じいを回想した句だが、もしかしたら、作者が自分の生涯を客観視した句かも。この作者は1932年生まれ、当年90歳。この句は出たばかりの句集「九十歳」(
-
投げ出した足の先なり雲の峰
2022/8/1 02:02 186文字◆昔 ◇投げ出した足の先なり雲の峰 小林一茶 たとえば縁側。足を投げ出したら、その先のかなたに雲の峰(入道雲)がそびえている。地上と天上がつながったというか、足の先が雲に直結した感じが快い。以上を近所にいる高校生の孫に話したら、「雲が迷惑かもよ。じーじの足、汗くさいもん」と言いおった。「蟻(あり)
-
散らばって増える家族や雲の峰
2022/7/31 02:00 188文字◆今 ◇散らばって増える家族や雲の峰 陽山(ひやま)道子 私は淡交という言葉が好き。人との付き合いは淡交がのぞましい、と思ってきた。親子や兄弟、師弟の付き合いなども淡交がよい。先だって、郷里の町で初めてのいとこ会があった。郷里に住む私の弟などが設営した。淡交主義の私としてはやや気が重かったが、会は
-
一匙のアイスクリムや蘇る
2022/7/30 02:00 186文字◆昔 ◇一匙(ひとさじ)のアイスクリムや蘇る 正岡子規 人力車で高浜虚子の家を訪ねた子規は、アイスクリームをふるまわれた。虚子にあてた子規の謝礼の手紙によると、2杯のアイスクリームをむさぼるように食べたらしい。「近日の好味」だったとも書いているが、とってもうまく、病人の子規は蘇生する気分になったよ
-
草食系男子代表心太
2022/7/29 02:01 193文字◆今 ◇草食系男子代表心太(ところてん) 山本たくや 草食系男子代表のような若者がところてんを食べている風景。上品につるりと食べているのだろうか。もちろん、ところてんもまた草食系男子向きの食品だ、とこの句は主張しているのだろう。作者は大学生時代、私のゼミにいた。ひ弱な印象だったが、どうしてどうして
-