
季節折々の句を紹介します。
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秋草の野にある心活けられし
2023/9/27 02:01 182文字◆昔 ◇秋草の野にある心活(い)けられし 稲畑汀子 秋の草花がいけられている。その草花は「野にある心」のままだ、というのだろう。兵庫県伊丹市の市立伊丹ミュージアムでは「稲畑汀子と宇多喜代子 女性の時代の俳句」展が開かれている(10月22日まで)。昭和の終わりごろから平成にかけて、俳句の世界の大半が
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魂も乳房も秋は腕の中
2023/9/26 02:01 172文字◆今 ◇魂も乳房も秋は腕の中 宇多喜代子 この句のポイントは「秋」。たとえば夏には魂も乳房も腕の中になかった。奔放にあちらこちらにあったのだろう。でも、秋には自分の腕の中にそれらはある。この句の主人公は、自分の魂や乳房をかばってやらねば、という気分になっている。以上は今日の句の一つの読み方。さて、
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天高し雲行くままに我も行く
2023/9/25 02:02 177文字◆昔 ◇天高し雲行くままに我も行く 高浜虚子 1944年の雑誌「ホトトギス」から。虚子は後に「雲行く方に」と直して句集に入れたが、「雲行くままに」の自在な気分が私は好きだ。私の歌集「雲の寄る日」(ながらみ書房)には「雲の寄る窓辺があってたまにだがそっと来ているキース・ジャレット」という一首がある。
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天高くみんなで道をまちがえる
2023/9/24 02:01 182文字◆今 ◇天高くみんなで道をまちがえる 火箱ひろ みんなで~すれば怖くない、という常とう句があるが、秋空の高い日に「みんなで道をまちがえる」のは怖くないどころか、とっても楽しくてわくわくするだろう。句集「えんまさん」(2011年)から。京都市に住むこの作者、私の若い日からの俳句仲間。現在は闘病中で句
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空澄めば飛んで来て咲くよ曼珠沙華
2023/9/23 02:00 199文字◆昔 ◇空澄めば飛んで来て咲くよ曼珠沙華(まんじゅしゃげ) 及川貞 昨日は明治時代の不景気にかかわる事件を話題にしたが、かつてマンジュシャゲは飢饉(ききん)の際などの救荒作物だったという。水にさらして毒抜きをし、りんけいのでんぷんを食べたらしい。彼岸花とも呼ばれるこの花は、今では各地の公園、堤防、
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いしぶみに飢饉の二文字曼珠沙華
2023/9/22 02:00 205文字◆今 ◇いしぶみに飢饉(ききん)の二文字曼珠沙華(まんじゅしゃげ) 井出野浩貴 柳田国男の「山の人生」(1925年)に西美濃で炭を焼く男の話がある。不景気極まり炭がまったく売れなくなったある日、13歳くらいの2人の子が夕日のさす炭焼き小屋の入り口でおのをとぎ、「おとう、これで殺してくれ」と言って寝
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空耳に彼岸のぞめき日もすがら
2023/9/21 02:01 184文字◆昔 ◇空耳に彼岸のぞめき日もすがら 中村真一郎 この句の彼岸はあの世の意味の彼岸だろうが、強引に秋彼岸の句として引いた。「ぞめき」はさわがしさ。耳鳴りが一日中して、それがまるであの世の音みたいなのだ。「俳句のたのしみ」(新潮文庫)から引いたが、小説家として著名なこの作者は、彼岸のぞめきに身をまか
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まつすぐに来て鯉の浮く秋彼岸
2023/9/20 02:01 183文字◆今 ◇まつすぐに来て鯉(こい)の浮く秋彼岸 山西雅子 今日は彼岸の入り。この句のコイ、もしかしたら彼岸からやってきた? 「角川俳句大歳時記」から引いたが、この本では「彼岸」は春の彼岸をさし、秋は「秋彼岸」「後の彼岸」と呼んで区別する、と解説している。わが家ではこの夏、小さな墓地を買った。まだ無住
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顏つつむ敬老の日の蒸タオル
2023/9/19 02:00 188文字◆昔 ◇顏つつむ敬老の日の蒸(むし)タオル 水原秋桜子 この蒸しタオル、家族が敬老の日を祝って作ってくれた? 私は先日、理容院でひげそりの前に包んでもらった。散髪は家でヒヤマさん(妻)にしてもらっていたが、この夏から50年ぶりに理容院通いを再開した。外とのかかわりをできるだけ持つべきだ、というヒヤ
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敬老日他人ごとでは無くなって
2023/9/18 02:00 191文字◆今 ◇敬老日他人ごとでは無くなって 吹野仁子(きみこ) 内閣府の2023年版高齢社会白書によると、22年10月1日時点で総人口の29%が65歳以上だが、74歳までは心身の健康が維持されており、75歳以上を高齢者(老人)とする新しい定義が提案されているという。ちなみに75歳以上の人口比は15・5%
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肩先に泊てきつちきつちかな
2023/9/17 02:02 185文字◆昔 ◇肩先に泊(とまつ)てきつちきつちかな 小林一茶 きっちきっちはキチキチバッタ(精霊バッタ)。このバッタ、飛ぶ時にきちきちと音をたてる。一茶はそのバッタと遊んでいる? 「精霊ばつた草にのぼりて乾きたる乾坤(けんこん)を白き日がわたりをり」は若い日に覚えた高野公彦さんの短歌。乾坤は天地の間、す
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一ぴきもとれないくさむらばったとり
2023/9/16 02:01 189文字◆今 ◇一ぴきもとれないくさむらばったとり 油谷侑良(ゆたに・ゆら) 「第15回佛教大学小学生俳句大賞入賞作品集」(2022年)から。作者は作句当時、愛知県碧南市の日進小学校1年生だった。逃げられたのか、それとも、いなかったのか。多分すばやく逃げられたのだろう。今から20年くらい前、碧南市の小学校
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十団子も小粒になりぬ秋の風
2023/9/15 02:01 190文字◆昔 ◇十団子(とおだご)も小粒になりぬ秋の風 森川許六(きょりく) 江戸時代、東海道の宇津ノ谷峠(静岡市と静岡県藤枝市の境)の茶屋で売られていた団子が十団子。10個の団子を麻糸でつないで数珠のようにして売ったらしい。この句、秋風が吹くころはこころなしか団子が小さくなった気がする、というのだが、菓
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秋の風みえないけれどあじがする
2023/9/14 02:01 186文字◆今 ◇秋の風みえないけれどあじがする 久保結(ゆい) 秋風の味はどんな味だろうか。先日、窓を押し上げて舌をぺろぺろしたら、なんとなく酢漬けのラッキョウの味がした。それはともかく、この句の作者は作句当時、高知県土佐市の高岡第一小学校2年生だった。久保さんがなめた秋風は何味だった? 太平洋の潮の味だ
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妻がゐて子がゐて孤独いわし雲
2023/9/13 02:02 179文字◆昔 ◇妻がゐて子がゐて孤独いわし雲 安住敦 広い空に広がったいわし雲を見ていたら、世界にぽつんと自分だけがいる気分になった。実際は妻子がいるし、俳句の仲間などもいるのだが。以上のようなこの句の孤独感、とっても大事だ、と私は思っている。孤独をふと感じると、なぜか涙がにじむが、その涙も大事だろう。涙
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海のよう心がゆれるいわし雲
2023/9/12 02:00 177文字◆今 ◇海のよう心がゆれるいわし雲 伊藤仁那(にな) 作者は作句当時、大阪府吹田市の古江台小学校3年生だった。この句、第15回佛教大学小学生俳句大賞の低学年の部で最優秀賞を得た。「入賞作品集」(2022年)の講評で私は、この句の心は「いわし雲の下の海そのもののように静かにゆれて広がっているのです。
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これだけの菊を咲かせて怠け者
2023/9/10 02:01 174文字◆昔 ◇これだけの菊を咲かせて怠け者 和田悟朗 この見事な菊を作っている人は、怠け者だと思われている。時間があれば菊の世話ばかりをしている。自分でも、私は怠け者ですから、と言うのが口癖。でも、その人の咲かせた菊を目にしたら、怠け者が片手間に作るような菊ではない。だが、その人は一見したところ怠け者。
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菊を作るな好々爺にはなるな
2023/9/9 02:01 187文字◆今 ◇菊を作るな好々爺(こうこうや)にはなるな 仲寒蝉(かんせん) 今日は重陽。菊の節句だが、私はこのごろ、菊を作る老人はすごい、と思っている。菊花展で大賞を得るような老人は並ではないだろう。もしかしたら、一見好々爺に見えながらも、実はしたたかなのかも。句集「全山落葉」(ふらんす堂)から。作者は
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蜩や今朝は外山の霧に啼く
2023/9/8 02:00 195文字◆昔 ◇蜩(かなかな)や今朝は外山(とやま)の霧に啼(な)く 北原白秋 外山は連山の端の山、村里に近い山などを言う。蜩(ヒグラシとも呼ぶ)も霧も秋の季語、つまり季重なりだが、この季重なりは秋らしくなったことを強調している感じがする。ともあれ、霧中のカナカナを聞いてみたい。「蜩が二つ啼きまた一つがこ
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ひりひりとかなかなかなかなのひりひり
2023/9/7 02:01 186文字◆今 ◇ひりひりとかなかなかなかなのひりひり 夏井いつき 「伊月集 鶴」(朝日出版社)から。この句集、50歳代の句を集めている。夏井さんはテレビで大人気だが、その実作は実験的、いわば試行している。この句のヒグラシの声の「ひりひり」感、分かるだろうか。「秋の蟬(せみ)ぎゆいぎゆい鳴いた寺焼けた」もい
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