
毎日新聞デジタルの「毎日俳壇」ページです。最新のニュース、記事をまとめています。
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片山由美子・選
2022/7/4 02:00 362文字舟虫の散りてわが影残りたる 和歌山市 中筋のぶ子<評>人の気配に驚いたフナムシが、飛び散るように逃げ去ったのだ。その後の自分の影を「残りたる」と即物的にとらえた。翅音(はおと)して蛍袋のひと揺らぎ 豊田市 松本文<評>飛んできた虫がホタルブクロの中へ入ったのを花の動きに見た。無駄のない表現が効果的。
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小川軽舟・選
2022/7/4 02:00 336文字校庭に全校生徒更衣(ころもがえ) 東京 小栗しづゑ<評>夏の制服に替わったばかり。朝礼台から全校生徒の涼しげな服装を見渡せば、衣替えの季節の到来がまぶしいほどだ。先代はカイゼル髭(ひげ)や夏座敷 鯖江市 木津和典<評>座敷のかもいから先代の肖像が見下ろす。カイゼルひげの威容に思わず居ずまいを正す。故
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西村和子・選
2022/7/4 02:00 352文字旅に買ひ旅に忘れし夏帽子 茅ケ崎市 古田哲弥<評>今は手元にない帽子。夏の旅の写真の数々に写っていることだろう。愛着のものほどなくしやすい。そしてこの句が残った。父の日やシベリアのこと聞かぬまま 松山市 井上保子<評>下五に至って今は亡きお父さんであることがわかる。戦争体験を聞かなかったのも思いやり
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井上康明・選
2022/7/4 02:00 364文字キリン死す緑の大地夢見しか 周南市 岡村賴子<評>新緑の頃のキリンの死。子供たちに愛されたキリンは、生まれ育ったアフリカの緑を夢見ながらあの世へ行っただろうか。考えてゐる明日のこと夏みかん 姫路市 板谷繁<評>きょうはとりあえず無事に過ぎたが、明日はどうなるか。目の前にみずみずしい夏みかん。若き日の
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片山由美子・選
2022/6/27 02:00 375文字郭公(かっこう)の鳴くや一山耳澄ます 川崎市 久保田秀司<評>静かな山中にカッコウの声が響き渡っているのだが、その静けさを山が耳を澄ますと擬人化してユニークな一句に。さしあたりバケツに入るる子亀かな 臼杵市 村上玲子<評>子どもが捕まえてきたのか、急に水槽をというわけにもいかず、「さしあたり」が楽し
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小川軽舟・選
2022/6/27 02:00 338文字何もかも話すと決めてビール注(つ)ぐ 東京 鈴木真理子<評>何を切り出すのか、のっぴきならぬ場面である。相手はまだ何も知らずに機嫌よくビールをつがれている。退屈を蠅(はえ)一匹と分かちをり 高知 渡辺哲也<評>部屋にハエが一匹、時々思い出したように飛ぶ。こいつも自分と同類だと思えてきた。自転車の新任
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井上康明・選
2022/6/27 02:00 343文字悠久の一滴としてしたたれる 川越市 峰尾雅彦<評>「したたる」は岩や葉から水が落ちる様子を表わす夏の季語。したたる水は、永遠へつづく時間を凝縮するように一滴となる。がうがうとダムの放水緑さす 尾張旭市 小野薫<評>新緑が美しく映え、巨大なダムから音をたてて放水が行われる、視覚と聴覚の交響の一句。交番
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西村和子・選
2022/6/27 02:00 369文字きのふけふ襖(ふすま)の重き梅雨(つ)入(いり)かな 東大阪市 三村まさる<評>木の引き戸などに比べて重いものではないが、湿り気による微妙な感覚。日常のふとした時に覚える季節感をすくい上げた句。大仏の百会(ひゃくえ)かすめて夏つばめ 東京 榎並しんさ<評>百会とは脳天のこと。大仏だからこそこの語が生
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西村和子・選
2022/6/20 02:00 321文字初夏の回転扉回りすぎ 武蔵野市 渡辺一甫<評>押す力が強すぎたか、季節の風の力か。人が通った後も回っている扉に夏の訪れを感じ取った。ガラス扉に街の光が映える。紅花を摘む乙女らは紅ささず 武蔵野市 相坂康<評>化粧をせずとも若い頰は紅潮し、唇も艶やかであろう。彼女らに紅花摘みは楽しそう。でいご咲く学校
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井上康明・選
2022/6/20 02:00 342文字ひと雨に声の満ちたる雨蛙(あまがえる) 東久留米市 夏目あたる<評>田植えの終わった田んぼだろう。雨が降るともなく降ると、カエルが鳴き始め、やがて田んぼ全体へ鳴き声が響き渡る。双子座はわが絆星風薫る 富士市 後藤秋邑<評>双子座への強い思い入れは、兄弟との絆や、誕生日の星座を想像させる。薫風が爽やか
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片山由美子・選
2022/6/20 02:00 359文字尾根よりも低き雨雲朴(ほお)の花 町田市 枝澤聖文<評>今にも雨をこぼしそうな雲が低く垂れこめている様子が目に浮かぶ。高々と咲くホオノキの花が視線を空へと誘ったのである。真白にたたむタオルや夏の空 さいたま市 根岸青子<評>からりと乾いたタオルの白さと、晴れ上がった夏空の青さのコントラストがすがすが
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小川軽舟・選
2022/6/20 02:00 354文字戦争のニュース見ているこどもの日 土浦市 今泉準一<評>こどもの日だとだけ言ってニュースの内容には何も触れていない。俳句らしい省略が読者に考えることを促す。玉葱(たまねぎ)の暖簾(のれん)くぐるや牛舎なり 茅ケ崎市 加藤西葱<評>収穫したタマネギを干し連ねて牛舎が見えないほど。雑多な匂いがむっと迫っ
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小川軽舟・選
2022/6/14 02:04 320文字飛魚(とびうお)や対馬は見えず波高し 唐津市 梶山守<評>「対馬は見えず」で船から眺めた大海原の広がりが感じられる。高波を切るようにトビウオの飛ぶのがすがすがしい。薫風や一機飛び立つ滑走路 島根 百合本暁子<評>便数の少ない地方空港を想像する。1機飛び立つと、あとは薫風が吹き抜けるばかり。春帽子八百
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西村和子・選
2022/6/14 02:04 362文字衣更(ころもが)へ妻に強気のもどりけり 下妻市 神郡貢<評>衣服を夏物にかえて身軽になったせいか、最近弱気な言葉が目立つようになった妻が心身ともに活発になった。安心感の句。蓴(ぬなわ)摘み水も汚さず音立てず 枚方市 門川清秀<評>たらい舟を傾けてひとつずつジュンサイを摘み取る作業の、細やかさと静けさ
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井上康明・選
2022/6/14 02:04 346文字雲が雲吐きつづけをり夏燕(なつつばめ) 北本市 萩原行博<評>吐き出されるように、夏の雲は次から次へ湧き上がる。雲の前後をくっきりと軌跡を描きながら、夏ツバメが飛び交っている。みな仰ぐ大樹ありけり青嵐 青森市 小山内豊彦<評>誰もが、青々と茂った大樹を感嘆の声とともに見上げている。強い南風があたり一
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片山由美子・選
2022/6/14 02:04 353文字手術日の明日(あした)に迫り草むしる 津山市 岡田邦男<評>事前に入院を要するような手術ではないとはいえ不安があるのだろう。手を動かして気持ちを落ち着けるための「草むしり」。新しき駅よりつづく山法師 東京 山口照男<評>開発が進んでいる地域を想像する。新しい駅から伸びる道に真っ白な花がよく似合う。鉄
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片山由美子・選
2022/6/6 02:01 339文字鹿の子の覗(のぞ)く春日の巫女溜(みこだまり) 東京 徳原伸吉<評>春日大社にやってきた鹿の子が、みこたちを見つめているという奈良らしい光景。好奇心旺盛なのは人間の子ばかりではない。時計なき腕の涼しさ画集繰る 加古川市 中村立身<評>外出モードからの解放感を涼しさと表現。くつろいで画集を開く様子が心
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小川軽舟・選
2022/6/6 02:01 357文字釣り堀にネクタイ垂らす二人かな 東京 野上卓<評>けだるい夏の昼下り。同僚と仕事をさぼって来たのか。釣り糸ではなくネクタイを垂らすとしたのがユーモラス。リムジンに映る若葉の副都心 東京 菊池和正<評>高級リムジンに副都心のビル群と街路樹の若葉が映る。都会の初夏をさっそうと捉えた。ふくよかなる魚板の音
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西村和子・選
2022/6/6 02:01 354文字デスク兼食卓に注(つ)ぐ新茶かな 大分市 久冨豊治<評>仕事のためのデスク、食事のための食卓だが、在宅勤務が奨励される昨今の情景。休息の間のささやかな季節感。菓子皿を選ぶ愉(たの)しみ葛桜(くずざくら) 志木市 谷村康志<評>透明な衣のくず桜だからこそ皿の色も吟味したい。和菓子はつくづく視覚でも味わ
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井上康明・選
2022/6/6 02:01 347文字万緑や全力で泣く赤ん坊 加古川市 伏見昌子<評>周囲の緑は、十重二十重に押し寄せて来る。その緑に応えるかのように、赤ん坊が全身で泣いている盛夏のひととき。目印は噴水前のベレー帽 奈良市 上田秋霜<評>噴水に憩う人々のなかに、ベレー帽の女性を探す。親しい人との待ち合わせを簡潔に描く。貝殻のまじる砂場や
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