
連載
毎日俳壇
毎日新聞デジタルの「毎日俳壇」ページです。最新のニュース、記事をまとめています。
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小川軽舟・選
4/13 02:02 350文字春寒し綵花(さいか)洗へば色戻る 東京 阿部千保子<評>綵花とは造花。ほこりをかぶって薄汚れていたが、洗ったらきれいな色が戻った。それがかえって寒々として見える。啓蟄や土に足裏を押す力 取手市 杉野寵児<評>春の柔らかな土が足裏を押す感触。地虫が地面をもたげていると思うとなお楽しい。草餅やシャッター
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西村和子・選
4/13 02:02 339文字あと幾度この坂のぼる彼岸寺 松山市 井上保子<評>遺(のこ)された者の実感だ。急な坂を上りつつ体力や余命を考えてしまうのは、やがて自分も入るべき墓が坂の上にあるからだ。煮魚に味醂(みりん)たつぷり春の月 福岡 中山恵美子<評>味覚に訴えてくる句。魚はメバルかタイか。甘辛い煮付けの匂いも食欲を誘う。遠
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井上康明・選
4/13 02:02 330文字逆光の空の一点ひばり鳴く 八街市 山本淑夫<評>空高く雲雀(ひばり)が鳴く。太陽がまぶしく、雲雀はなかなか見つからない。逆光の中に一点の影として捉えることができたのである。三月の雲の集まる保育園 久留米市 持地恒美<評>幼子たちが遊ぶ保育園に、3月の真っ白い雲が集まってくる。清潔であたたかい春の雲で
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片山由美子・選
4/13 02:02 337文字鳥の巣を隠すともなく隠す枝 川口市 高橋さだ子<評>完全に隠れてしまうような場所では出入りしにくいに違いない。程よく隠してくれる枝を利用している鳥の知恵。寄宿舎の鍵をかへして卒業す 羽生市 柴﨑加代子<評>大学の寮だろう。部屋を明け渡すべく片付け終えて、鍵を返すのが卒業の日の最後の仕事。太陽の塔の見
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井上康明・選
4/5 02:21 364文字天蚕の日誌引継ぎ卒業す 津市 中山いつき<評>天蚕はヤママユガ。その飼育日誌を後輩に引き継いで卒業した。中学校の生物部を想像した。天蚕は緑色の美しい繭を紡ぐ。蛇穴を出づ青空に欠伸(あくび)して 郡山市 寺田秀雄<評>春、冬眠から覚めて穴を出て来た蛇は、まだ寝ぼけまなこ。青空に欠伸し全身を伸ばしている
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西村和子・選
4/5 02:21 349文字春風や悲鳴の回る遊園地 東久留米市 夏目あたる<評>悲鳴とは物騒な響きだが、下五まで読むと怖さを楽しんでいることがわかる。省略が効いていて、季語が動かない。本家より先に分家へつばめ来る 霧島市 久野茂樹<評>本家、分家は、ツバメには関わりのない人間界の事情。助詞の用い方がごく自然で、適切。駅長の挙手
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片山由美子・選
4/5 02:21 355文字しばらくは風受け蝶(ちょう)の動かざる 西宮市 吉田晶子<評>羽化したばかりの蝶を思った。すっかり開いた翅(はね)はもう飛べそうに見えるが、少しの間風をやり過ごしているのである。かたかごの花の吐息に〓(かが)みけり 川口市 高橋さだ子<評>実際に吐息を吐くわけはないが、かたかご(カタクリ)の花はそう
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小川軽舟・選
4/5 02:21 341文字雪解や頭出す墓出さぬ墓 青森市 小山内豊彦<評>豪雪地帯なのか雪解けが進んでようやく墓が頭を出す。小さな墓はなかなか出て来ない。わが家の墓はいかに。春寒し絞り出したるマヨネーズ 横浜市 山田知明<評>どんな時に春寒を感じるか。残り少ないマヨネーズを絞り出す時という答えも悪くない。小走りに軒から軒へ菜
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西村和子・選
3/29 02:03 343文字図書館に我が指定席春日差す 神戸市 岸下庄二<評>指定席は比喩だが、そこに春の日が差すようになると、それだけで心が明るくうれしくなる。ささやかな季節の感情。地球儀と時計片寄せ雛(ひな)飾る 東大阪市 山尾サトミ<評>子供部屋だろうか。片寄せただけで飾れる雛はつつましやかなもの。そのことが心惹(ひ)か
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片山由美子・選
3/29 02:03 326文字一瞬の風に畦火(あぜび)の走り出し 和歌山市 北野惠美子<評>わずかな風をとらえて勢いを得た火の生き物のような動き。ときには制御不能となるエネルギーを思わせる。艇庫より流るる校歌水温む 尾張旭市 古賀勇理央<評>レガッタのシーズン到来。艇庫から聞こえてくる校歌はチームの士気を上げるかのよう。耳澄ます
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井上康明・選
3/29 02:03 342文字触るるものみな柔らかき春の雨 浦安市 上村実川喜<評>あたたかい春の雨が降る頃、指先に触れるものは豊かな柔かさに満ちてゆく。人肌や布、草木あるいは空も風も。春を称(たた)える一句。大仏の半眼に春兆すなり 熊本市 加藤いろは<評>東大寺か、鎌倉の長谷の大仏か。うっすらと開く目に、これからやって来る春が
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小川軽舟・選
3/29 02:03 331文字春の夜や岸田今日子の語り口 所沢市 井出昇<評>亡くなって十数年、ふとあの語り口を思い出すのに春の夜は似合う。人名が記憶に呼びかけるユニークな作品。校長の大きな机ヒヤシンス 東大阪市 三村まさる<評>校長室の大きな机は子供にとって威厳そのもの。そこにヒヤシンスがあるのがよい。三鬼忌や古書肆(こしょし
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井上康明・選
3/22 02:06 324文字神々の恋は奔放ミモザ咲く さいたま市 橋本遊行<評>ギリシャ神話の神々は、奔放な恋を繰り広げる。黄色のミモザの花が満開に咲く様子からの連想である。オーストラリア原産。友の死を知りたる朝の薄氷 東京 福島隆史<評>薄氷が悲しみと空しさを伝える。療養中だったのかもしれない。寒暖の交差する春先である。流氷
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西村和子・選
3/22 02:06 340文字禿筆(ちびふで)も使ひやうなり良寛忌 東京 望月清彦<評>毛先のすり切れた筆は流麗な筆致には不向きだが、独特の味わいが出ることも。良寛忌は旧暦1月6日、その歌を記したか。受験終へ壁に貼紙一つなし 加古川市 中村立身<評>眼前の壁には何も無いのに眼裏(まなうら)には標語や文法表、化学式などあらゆる努力
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小川軽舟・選
3/22 02:06 345文字早春の畦(あぜ)てんぷらの種探す 姫路市 板谷繁<評>ふきのとうをはじめとして、揚げればうまいものはいろいろあるのだろう。食いしん坊には至福の早春なのだ。妻の折る板チョコバレンタインデー 市川市 高野厚夫<評>板チョコを折って夫婦で一緒に食べるのが、わが家の飾らぬバレンタインデー。アパートは路地のど
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片山由美子・選
3/22 02:06 327文字白鳥の風に呼ばれて帰りけり 大阪 池田壽夫<評>白鳥は帰るべき時がきて北方へ旅立ったのであるが、思いを残しつつ帰って行ったかのような詩情を感じさせる。栞(しおり)挟み下車する少女花ミモザ 横浜市 延沢好子<評>降車直前まで本を読んでいたと分かる省略の効いた表現。ミモザの花に雰囲気がある。テーブルに何
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片山由美子・選
3/16 02:01 355文字アラームの小鳥の声や春眠し 尾道市 山口恭子<評>目覚まし時計のアラームが本物の囀(さえず)りのような心地よさで、なかなか起きられずにいるというのがユーモラス。イーゼルを立ててしばらく蓬(よもぎ)摘む 加古川市 中村立身<評>絵を画くために春の野へやってきたのに、柔らかそうな蓬に目が行ってしまったの
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西村和子・選
3/16 02:01 334文字搔(か)き終へて笠木の雪は残しおく 秋田市 神成石男<評>笠木とは鳥居や門の上にわたす横木。この一語で場所柄が見えてくる。具体的に描いて想像の世界を広げる手法が巧みだ。東にも春夕焼の雲一つ 坂戸市 浅野安司<評>東の雲ひとつを描いて、西空を染める春夕焼の雄大な様をゆったりと述べる句調も効果的。いつの
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井上康明・選
3/16 02:01 337文字山笑ふ蕩蕩(とうとう)として露天風呂 鎌倉市 高橋暢<評>広々とした露天風呂に浸かりながら周囲の春の山々を眺めている。山は親しく笑っているようだ。「蕩蕩と」は広くて大きい意。春光や水車は休むこと忘れ 名古屋市 久野洋子<評>春光に包まれ、水車が回っている。水しぶきは日差しを跳ね、水車は休むことなく回
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小川軽舟・選
3/16 02:01 333文字大陸は落暉(らっき)のかなた菜の花忌 芦屋市 瀬々英雄<評>菜の花忌は2月12日、司馬遼太郎の命日だ。海の向こうの大陸を望んで歩んだ島国日本の歴史に思いをはせる。月曜の朝の靴音冴返(さえかえ)る 国分寺市 多治見千恵子<評>週の始まる通勤、通学の靴音の緊張感。週末ののんびりした靴音とは違うのだ。貝寄
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