
毎日新聞デジタルの「毎日歌壇」ページです。最新のニュース、記事をまとめています。
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水原紫苑・選
2023/9/25 02:01 480文字ねむるって決めてから寝る 亀がいる わたしはきっと海をしている 東京 奥山いずみ<評>夢の中で「海をしている」ことのあかしが、「亀がいる」という唐突な3句めの面白さ。夢とは舞台でもあるのか。真二つにせんと林檎(りんご)に当てたれば刃(やいば)は深き紅を映せり 京都市 小池ひろみ<評>刃とはすなわち鏡
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伊藤一彦・選
2023/9/25 02:01 460文字字にすれば「数十年」も一言で言い得てしまう処理の憂鬱 筑紫野市 桂仁徳<評>「処理水」の放出完了まで何十年かかるのか。「数十年」と口では一言だが、実に長期間だ。「憂鬱」の語が重たい。雨音が耳の底にはのこってるもういないひとがいたときの音 東京 奥山いずみ<評>雨音を聴きながら部屋で語らった相手との濃
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米川千嘉子・選
2023/9/25 02:01 470文字部下全員ロボットなのでストレスは皆無とファミレス店長語る いわき市 吉田健一<評>ストレス「皆無」はいいけれど、協力して働く喜びとかお客さんの評判はどうなのか。誰も人間を求めていない?ひらがなにわが名ささやく朝空の母を見上げてこころを立たす 垂水市 岩元秀人<評>一音一音に思いを込めて名前を呼んでく
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加藤治郎・選
2023/9/25 02:01 483文字厨房(ちゅうぼう)でレンゲ重ねる音がする閉店前の足音やさし 東京 新井将<評>中華料理店だろう。もうじき営業が終わる。洗ったレンゲを重ねている。足音は店員か、お客か。味わい深い音の描写だ。恋しくてただ会いたくて君のいる盛岡行きのバス乗り場にいる 西東京市 佐々木節子<評>切ない恋心である。夜行バスだ
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水原紫苑・選
2023/9/18 02:00 482文字曼殊沙華(まんじゅしゃげ)人間みたいに群れていて散歩をすこし孤独にさせる ふじみ野市 雨雨雨汰<評>マンジュシャゲは詩歌人に愛される花だが、確かに群れて咲くことが多い。マンジュシャゲと人間、どちらが真に孤独か。水道の蛇口捻(ひね)ればねっとりとなま温かい星の体液 古賀市 砂山ふらり<評>星の体液の薄
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加藤治郎・選
2023/9/18 02:00 490文字爪のばすひとはなにかに導かれきれいなものをのせている 横浜市 大原香花<評>ネイルアートを思った。陶酔するほどの深い美に導かれているのだろう。結句の5音でリズムを変えた。少しさめている。生活苦じっと手を見る人いたが俺は薬の山を見ている 大阪市 吉田昌之<評>石川啄木である。思えば啄木の時代に薬の山は
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伊藤一彦・選
2023/9/18 02:00 477文字民主主義人種差別を超えられず建国よりの業(ごう)の根深さ 松戸市 加賀昭人<評>かつて民主主義国と理想化していた米国の反民主主義的な社会の現実を「業」と詠む。改めて民主主義とは何かを問う作。傷跡が少し残れば叩(たた)かれる人の世界を映し出す桃 駒ケ根市 市山利也<評>結句に「桃」を置いたのが見事。生
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米川千嘉子・選
2023/9/18 02:00 488文字悪夢だった?現実だった 手作りのフェイスシールドプラゴミに出す 大阪市 小熊光子<評>コロナ禍当初、慌てて作った物だ。今また感染者は増えているが、当時の緊張はウソのよう。上句の自問自答が印象的だ。何度まで耐えられるのか人類の命削りてこの夏もゆく 名古屋市 外山雪<評>数年前は体温超えで驚いていたはず
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米川千嘉子・選
2023/9/12 02:00 450文字就活は楽しむものと言う人のスーツに皺(しわ)を探してしまう 京都市 小池ひろみ<評>勝敗よりもまず楽しむこと。スポーツなどでもよく聞くが就活もそう? その人の苦労や疲れの跡を探してしまう作者。わが猫を合同墓に納めれば東京都のゾウも同じ天国 東京 河野多香子<評>猫を葬った動物霊園には都の動物園の生き
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加藤治郎・選
2023/9/12 02:00 467文字穴のないドーナツ好きと自己紹介 季節はずれに転校した日 東京 新井将<評>印象的な自己紹介である。誰にもこうは語れない。ドーナツと転校の季節どちらも自由な一人の人間が感じられる。新しいノートの匂いがする貴方(あなた) やっぱり好きだな忘れられない 横浜市 荒田絵里子<評>清潔で誠実な人間性まで伝わっ
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水原紫苑・選
2023/9/12 02:00 457文字あのひともあのひとの後悔も老いる絵画のそとの異国のように 花巻市 永汐れい<評>絵画の外側を異国と見て、絵画の中の永遠に飛び込もうとする魂の垂直性が痛ましく美しい。店員のひざまずく所作うつくしく裾上げを待つわたくしは塔 千葉市 芍薬<評>日常の中で、ふと存在が人間を離れて厳然とそびえ立つ瞬間がある。
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伊藤一彦・選
2023/9/12 02:00 461文字百年の計を論じる番組に割り込んでくる豪雨情報 南魚沼市 木村圭<評>もはや「地球沸騰」の今、悠長に「百年の計」など語っている余裕はないと。下の句のリアルな表現が見事に生きている。傷口から絶え間なく滲(にじ)む浸出液のやう永久凍土とけゆく 鹿嶋市 大熊佳世子<評>「傷口から」で始まる上の句の鋭く巧みな
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伊藤一彦・選
2023/9/4 02:01 450文字ミットからこぼれた球が転がって彼らの夏の句点になった。 沼田市 山崎杜人<評>「夏の句点」の表現が出色だ。悔し涙を流した捕手や選手らにとっては今後の人生の貴重な「句点」になるに違いない。サイダーの瓶からサイダーあなたからあなたの言葉こぼれるように 東京 石川真琴<評>率直で爽やかな「あなた」の言葉と
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加藤治郎・選
2023/9/4 02:01 453文字待ち合わせできる気がする君となら夢の西口改札前で 横浜市 友常甘酢<評>そこはどこの駅なのだろう。夢のシーンであることはわかる。きっと君は西口改札前に現れる。ふたりにはわかるのだ。言葉より先に涙がやってきて身体がいつも間違っている 所沢市 神田望<評>感情が言葉になる前に涙があふれる。そうあってほし
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米川千嘉子・選
2023/9/4 02:01 459文字半世紀磨きつづけた大鏡理容の客もわれも老いたり 糸魚川市 田鹿靜夫<評>長く理容業を営んできた作者。半世紀のたゆみない仕事ぶりを表す曇りない鏡があり、それが映す時の流れがある。約束が二回流れし旬日に友は逝きたり熱中症とう 福知山市 阪梨義春<評>熱中症による死は遠いニュースの中の事ではなかった。記録
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水原紫苑・選
2023/9/4 02:01 472文字死をとほい国の舞踊のやうにいふ少女に語る出(しゅつ)埃及(エジプト)記(き) さいたま市 青木喩<評>死が遠い国の舞踊なら少女はダンスシューズを履いているかもしれない。彼女に十戒が必要だろうか。寝ていないひとの寝顔をながめつつ煉獄(れんごく)にふる雨をおもった 花巻市 永汐れい<評>魂の浄化を待つれ
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水原紫苑・選
2023/8/28 02:00 483文字目を閉じて(ロシュ限界はもう既に壊されていて)口づけをした 京都市 よだか<評>惑星や衛星がその主星に近づける限界距離という「ロシュ限界」が一首のポイントである。人類は星々の心を持つのか。白壁にただ一匹の黒蟬(くろぜみ)は夏季限定の李禹煥(リウファン)である 大阪市 川田ゆかる<評>自然は芸術を模倣
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伊藤一彦・選
2023/8/28 02:00 459文字予報士の外るる天気許せるも真実隠す報道の罪科 伊丹市 岡本信子<評>天気予報の外れはともかく、報道の真実と自由は社会に絶対に必須。それが失われたときの罪科は計り知れないと訴える。光だけ見つめて立った向日葵(ひまわり)は自分の影を知ることがない 札幌市 橘晃弘<評>自らの影、自らの社会の影の部分を知る
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米川千嘉子・選
2023/8/28 02:00 517文字かぼちやと茄子(なす)の炊いたん真つ暗なかまどから手摑(てづか)みした疎開児 生駒市 奥田充子<評>皆が夜寝静まった頃、かまどの鍋の煮物を食べた。空腹に耐えられなかった疎開時の記憶は具体的で生々しくつらい。虫を許し獣を許したる祖父は林檎(りんご)を盗む人を許さず 京都市 小池ひろみ<評>虫や獣による
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加藤治郎・選
2023/8/28 02:00 473文字二人して塾の授業を抜け出してアイスを食べる あ、夏っぽい 東京 吉川黎<評>ジュの音が絡んでくる。息苦しい。解放された夏のイメージにアイスはふさわしい。晴れやかなアの音に展開している。深夜2時急(せ)かす人もない信号の点滅だけが私の居場所 東京 秋月六花<評>ひとりぼっちの深夜である。ささやかな居場
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