
毎日新聞デジタルの「毎日歌壇」ページです。最新のニュース、記事をまとめています。
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伊藤一彦・選
2022/8/15 02:01 483文字蜩(ひぐらし)の日暮れに鳴ける「来(こ)な来(こ)な」は平和呼び寄す声に聞える 仙台市 小野寺健二<評>ヒグラシは普通「カナカナ」だが作者は「コナコナ」と聞く。平和よ来い来いと聞くところに作者の心があふれている。世界には飢えと暴力溢(あふ)れてる情けなくなる生きているのも 東松山市 巣田新一<評>人
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米川千嘉子・選
2022/8/15 02:01 454文字少年、たけしゆん、ヒデ、ぽむ、ミヤコ、めぐめぐ、みんな息子のともだち 千曲市 中村美樹<評>「少年」というのも息子の友達の呼び名だ。息子と息子につながる一人一人の世界を慈しむ気持ちがこもった一首。新聞に固定電話も止めていた 子の生活をスマホが握る 札幌市 佐々木さと子<評>作者にとっては生活に必須の
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加藤治郎・選
2022/8/15 02:01 464文字君にもし僕の記憶を渡せたら雨の終わりを見た日をあげる 大津市 世田夏雪<評>僕の記憶を渡したい。それは最後の雨の風景なのだ。今はもう荒れ果てた地上である。近未来の歌であるがリアルだ。巡視で古老の居室眺めれば物やめちゃくちゃの密林と化す 須崎市 野中泰佑<評>介護の現場である。居住環境が崩壊している。
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篠弘・選
2022/8/15 02:01 466文字出版の記念会には後半にベリーダンスを織り込まんとす 川崎市 大平真理子<評>楽しい趣味として、華麗に腰を振るダンスにいそしむ作者。結句には度胸のよいことに、実技を見せるためらいが潜む。逃げ水を追ひて走れば路(みち)の端(は)の凌霄花(のうぜんかずら)が鬼火のごとし 東京 庄野史子<評>夏の暑い盛りに
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篠弘・選
2022/8/9 02:21 466文字楽園に眠れるやうに黄揚羽(きあげは)の模様がみどりの芝に横たふ 川口市 渡辺栄治<評>キアゲハの幼虫はセリ科の植物の葉を食べて育つ。成虫は美しい派手髪をきそい、栄養素として花の蜜を吸い続ける。どれ程の視聴者が理解できるのかアナウンサーのカタカナことば 久留米市 荒木由紀子<評>取材先で出てくる専門家
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伊藤一彦・選
2022/8/9 02:21 470文字去年まで見ていた夢と今年ではまるで違うねウクライナの人 大阪市 吉田昌之<評>2月下旬以降、生活が根底から変わったウクライナの人。それは彼らに限らず起こり得る今の世界だと作者は考えている。もし色紙を頼まれることあったなら「バカ正直」と堂々と書く 春日市 伊藤亮<評>今の世をあえて「バカ正直」で生きた
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米川千嘉子・選
2022/8/9 02:21 477文字年金は減額されてもささやかにさくらんぼ買うわが桜桃忌 河内長野市 苫廣陽子<評>物価高騰の折り、年金減額はいっそう厳しい。それでも、太宰治の忌日にはさくらんぼを。作者にとっての豊かさだ。親ガチャと思われていた事を知るかなしけれども諾(うべな)う今は 大分市 野上ノブコ<評>子育ての頃をはるかに過ぎた
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加藤治郎・選
2022/8/9 02:21 504文字あかねさすMoon dressed as Saturn.紫野飛び標野(しめの)飛ぶ鳥 摂津市 石少山裏裏<評>月が土星のように輪がかかって見えた。あかねさすという枕詞が紫野にかかる。万葉集の世界だ。時空を超えた作品である。紫陽花(あじさい)とつぶやいたのに逢(あ)いたいと聞こえたようで抱きしめてくる
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加藤治郎・選
2022/8/1 02:01 462文字みりん 今みりんになった(みりん)ほらこの世の果てを見てるみたいに 東京 古都梨衣子<評>みりんという音韻が浮遊する。自分の意識と一体化する。自由な気分だ。私はとても遠いところまで来たのである。戦争の映像でした。スタッフがこのあときれいにかたづけました。 八王子市 芹澤雨<評>ニュースだろうか。フィ
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篠弘・選
2022/8/1 02:01 452文字無言館へ行ってきたこと伝うるに友の二人も既に観(み)ており 上尾市 清水昇一<評>長野県上田市に1997年に開設された美術館。大戦で没した画学生を追悼する役割を持ち、収蔵品は六百余点に及ぶ。金曜は生ごみの日と知りたるか仲間呼ぶかにカラス群れ鳴く 豊中市 水野正明<評>目ざとく生ごみが出るのを察知し、
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伊藤一彦・選
2022/8/1 02:01 462文字暑中見舞い丁寧に書く絵葉書の紫式部に助言を求め 札幌市 住吉和歌子<評>発想がユニーク。何と書こうかと思ったときに紫式部ならどんな文章をつづるかと。結句「助言を求め」が面白い。「カレンダーに丸してゆけ」と言う祖母に軽く手を振り別れた夕暮れ 国立市 佐藤建<評>祖母は次に来る日に丸をせよと言ったのだろ
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米川千嘉子・選
2022/8/1 02:01 464文字七夕の日暮れ短冊が風に揺る 願ひを託す生き方は嫌 坂戸市 納谷香代子<評>願うしかない時もあるけれど、まずは自分で努力し動くことで道は切り開きたい。作者の潔い生き方が思われる。コロナ禍の考へ方に違ひあり止めても止めても夫は働く 高崎市 樋浦マサエ<評>第四句に心情がこもる。コロナ第7波、考え方の違い
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伊藤一彦・選
2022/7/26 02:02 464文字慄(ふる)ひつつ十字切る媼(おうな)いたはるはライフル負へる年若き兵 堺市 芝田義勝<評>ウクライナの戦場の映像を見ての歌か。作者が心に深く残った映像を、一枚の写真のごとく31文字で伝えてくれる。夫も子も我に天気を問うてきて専業主婦も予報士になる 奈良市 久保祐子<評>家族はテレビの天気予報より作者
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篠弘・選
2022/7/26 02:02 456文字耳疎き母にはっきり聞こゆる音七十数年前の爆音 伊丹市 岡本信子<評>いうまでもなく米国の高性能の大型爆撃機。全長約30メートル。日本各地に出撃し、特に焼夷(しょうい)弾約476万を投下。半生の貧乏暇なしコロナ禍に財布造りを持て余すとは 香取市 嶋田武夫<評>もっぱらコロナ禍に際し、自宅で財布づくりに
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加藤治郎・選
2022/7/26 02:01 463文字海見ずに死ぬ人いれば山見ずに死ぬ人もいてどちらも見て死ぬ アルメニア 人子一人<評>日本という国に居るから海も山も見て生涯を終える。海を見ない、山を見ない一生もあり得る。海外に住んで得た実感だ。日報に赤いペンにて「梅雨入り」と書いて始まる緊張の日々 春日市 伊藤亮<評>職場の歌である。雨量を警戒する
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米川千嘉子・選
2022/7/26 02:01 461文字九十歳しみと皺(しわ)なる手をながめつまりは戦死の父が恋しき 大阪市 下川佳子<評>長く生きていろいろな出来事があったはずだが、一言で言えば「戦死の父」を恋した一生なのだと。痛切な一首だ。三代のわが親子にも格差あり一票を手に投票へ行く 豊中市 福井敏光<評>祖父である作者、子、孫の3代。格差は世代や
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米川千嘉子・選
2022/7/18 02:01 479文字母ちゃんのスマホでユーチューブ見たく母ちゃんに「寝て」と促す幼ら 宇陀市 牧野文子<評>幼子はそこに楽しいものが入っていることを知っている。そうさせたのは大人なのだが。リアルで複雑な思いを誘う。ヒトとして肩甲骨にふれてくる笑う課長の「あとはまかせた」 四日市市 早川和博<評>たぶんヒトとしての信頼ゆ
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加藤治郎・選
2022/7/18 02:01 481文字どこまでもあなたとは他者 唐揚げにレモンかけてもいいですか、他者 神戸市 若杉有紀<評>結句の他者が冷ややかに響く。唐揚げにレモンをかける様子には親しさが感じられる。それを打ちのめす他者なのだ。恋人の実家の犬が亡くなってわたしの夢でも走らせてやる 京田辺市 小川空<評>犬が夢に出てくる。広い草原を想
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伊藤一彦・選
2022/7/18 02:01 457文字あきらめていいのかしらと見つめてるフェルメールの真珠の少女 仙台市 小野寺寿子<評>北のモナリザとも言われる少女の僅かに口を開いた表情。上の句の表現に作者の今の心が読み取れる。絵画を歌った秀作。曇りなき笑顔で列に割り込んだ子どもたちから草の香がする 富里市 宇井香夏<評>無邪気で元気な子らが作者に元
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篠弘・選
2022/7/18 02:01 477文字境内の石に刻める迢空(ちょうくう)の筆はしなやか指になぞりぬ 神奈川 大久保武<評>石川県羽咋市の気多大社にある歌碑。「気多の村若葉くろずむ時に来て、遠海原の音を聴きをり」で、自らの死を悼む歌。再検査終へたる妻の「ただいま」がわが家の明かりを一気に点(とも)す 相模原市 栗原公也<評>下句は電灯の点
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