
国際報道に優れたジャーナリストに贈られる「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞した、高尾具成編集委員のコラム。
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9・11=高尾具成
2023/9/11 13:35 939文字日本人24人を含む2977人が死亡した米同時多発テロ(9・11)から22年になる。一定年齢以上の多くの人たちは、ニュース映像などを通じて向き合ったその日をよく覚えていると思う。 旅客機4機が国際テロ組織「アルカイダ」のテロリスト19人にそれぞれハイジャックされ、うち2機がニューヨークの世界貿易セン
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寒山拾得=高尾具成
2023/9/4 13:06 965文字手元に1面の扇子がある。先日、京都に友人のバンド演奏を見に行った夜のことだ。演奏終了後、私が首に巻く汗まみれのしわくちゃな手拭いを見て、「それいいねえ」という高齢の男性がいた。「汚いですが良かったらどうぞ」と差し出すと、一緒にいた女性から「では、これを」と扇子を手渡されたのだ。 わずかな時間だった
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支え合い「転重軽受」を=高尾具成
2023/8/28 13:05 937文字災害後の被災地では、宗教施設がことのほか大事になる。遺族や被災者らの祈りの場としての重要さはもちろん、集い語らう場としての役割も大きいからだ。 米ハワイ州マウイ島で8日に発生した未曽有の山火事は、多くの犠牲者を出し、住民の暮らしに深刻な被害をもたらしている。1868(明治元)年に始まるハワイへの日
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気候難民=高尾具成
2023/8/21 13:09 909文字喫茶店に立ち寄り、久しぶりにかき氷を堪能した。清少納言が記した随筆「枕草子」にも登場するかき氷は、平安時代からの歴史ある食べ物とはいえ、昨今の猛暑で、ますます「あてなるもの」(貴重なもの、上品なもの)となってきた実感がある。 「あてなるもの(中略)削り氷(ひ)にあまづら入れて、新しき金椀(かなまり
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敗戦前夜の空=高尾具成
2023/8/14 13:33 945文字太平洋戦争敗戦前日の1945年8月14日から15日にかけ、国内10カ所以上で空襲があり、2300人以上が犠牲となっている。 14日午後11時半ごろ、米軍爆撃機B29が埼玉県熊谷市上空に飛来し、翌15日未明にかけて焼夷(しょうい)弾の雨を降らせた。「熊谷空襲」だ。市街地の74%が焼失、少なくとも26
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艦砲射撃と釜石と=高尾具成
2023/8/7 13:14 944文字78年前、約20万人が犠牲になった沖縄戦。「鉄の暴風」と呼ばれた米軍による無差別攻撃の一つに艦砲射撃があった。本州にも艦砲射撃で壊滅した地があると知ったのは東日本大震災(2011年3月11日発生)後の取材時だった。 岩手県釜石市は1945年7月14日、本州で最初の艦砲射撃の標的となり、米軍により長
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大川べりにて=高尾具成
2023/7/31 13:07 950文字日本三大祭の一つとされる大阪天満宮の天神祭が新型コロナウイルス禍前の形で、4年ぶりに開催された。本宮(25日)の夜。大阪市中心部を流れる大川では、川面に映るかがり火やちょうちんの明かりを揺らしながら、100隻もの船が行き交う神事「船渡御(ふなとぎょ)」が営まれた。 すれ違う船同士が、互いに「大阪締
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手拭いに物語=高尾具成
2023/7/24 13:21 956文字手拭いを重宝している。汗を拭うだけでなく、水に浸し、首に回しかけては涼を取る。速乾性もあり、なにより手軽なのがいい。 魅力を教えてくれたのは兵庫県川西市内で画廊シャノワールを営む佐野恵美子さん(76)だ。父の浮田光治さん(2001年、88歳で他界)は手拭いの絵師もした製作者で明治期からの希少な品々
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一森育郎さん、パリに死す=高尾具成
2023/7/10 13:29 919文字重厚な金属を優しく温かみのあるデザインに仕上げ、花々や草木、果実などをモチーフとした色彩豊かな作品が印象に残る。半世紀以上、フランスに暮らしながら創作活動を続けた国際的なジュエリーデザイナー、一森育郎(いくお)さんが3月29日、パリで死去した。76歳だった。 日本人唯一のフランス工芸家協会正会員と
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チャリ=高尾具成
2023/7/3 13:10 961文字大阪コリアタウン(大阪市)で念願の「チャリ」を食べる幸運に恵まれた。韓国・済州島(チェジュド)の名物だ。初夏から盛夏に旬を迎える。同タウンには済州島にルーツを持つ在日コリアンも多く、「帰郷時に必ず食べる美味」と聞いていた。 手のひらに乗る10センチ前後の灰褐色の魚。和名のスズメダイだった。スズメの
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リオデジャネイロ発=高尾具成
2023/6/26 13:05 928文字ブラジル・リオデジャネイロ。イパネマ海岸にも近いかつてのバー「ベローゾ」はボサノバの代表曲「イパネマの娘」ゆかりの地だ。歌のヒット後、店名はポルトガル語で曲名を言う「ガロータ・デ・イパネマ」に変わった。 ここに出入りしていた音楽家アントニオ・カルロス・ジョビン(1994年、67歳で死去)と外交官や
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ホロズ=高尾具成
2023/6/19 13:01 926文字夜明けに時を告げることなどから霊鳥として古くから重宝されてきた長鳴鶏(ながなきどり)。古事記や日本書紀に登場し、現在も愛好家らにより育成され、神事や鳴き合わせ会などが継承されている。 トルコにも縁起を担ぎ、長く鳴くように大事に育てられている鶏があると聞き、西部の街デニズリを訪ねたことがある。トルコ
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幼児生活団=高尾具成
2023/6/12 13:35 927文字就学前の子どもたちを対象に自主性を尊重する教育の場として、80年以上の歴史を培ってきた「神戸友の会幼児生活団」(神戸市)が3月、活動に区切りをつけた。 家庭を基盤とする社会改革を唱えた教育者、羽仁もと子さん(1873~1957年)が「よく教育するとは、よく生活させること」との理念で自由学園幼児生活
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復活記念碑=高尾具成
2023/6/5 13:02 937文字東日本大震災の被災地の一つ、福島県双葉町。東京電力福島第1原発事故後の放射能の影響により、今も町の約85%のエリアが「帰還困難区域」にある。同町の浜野行政区にある中野八幡神社(2021年に再建)前に、住民らの協力により、あずまやと復活記念碑が完成し、4日、式典が営まれた。 中野、中浜両地区でつくる
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ハルツーム=高尾具成
2023/5/29 13:03 936文字アフリカ北東部スーダンで4月半ばに発生した正規軍と準軍事組織「即応支援部隊」の武力衝突がやまない。30年近く軍事独裁体制を敷いたバシル大統領が、市民の抗議デモなどを受けて2019年4月に退陣。その後の軍部の台頭に対しても、若者や女性らが中心となり、粘り強く民主化運動を続け、念願だった民政移行を間近
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補助犬法 成立21年=高尾具成
2023/5/22 13:11 937文字兵庫県宝塚市のJR宝塚駅の改札近くにラブラドルレトリバー(犬種)の銅像がある。介助犬「シンシア」だ。待ち合わせ場所にも活用され、なでていく人も多い。その姿を見た子どもが「『介助犬』って書かれたケープ(胴着)を着ている時は、お仕事中だから触ったらだめなんだよ」と大人に説明している姿を見たこともある。
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艦砲ぬ喰ぇー残さー=高尾具成
2023/5/15 13:33 959文字沖縄県読谷村楚辺の海辺に「艦砲ぬ喰(く)ぇー残(ぬく)さー」の歌碑が建つ。2013年の「沖縄慰霊の日」に地元有志がこしらえたものだ。太平洋戦争末期、沖縄本島は米軍により、「鉄の暴風」と形容される艦砲射撃を受け、地上戦にも見舞われて焦土と化した。 碑の脇にあるボタンを押すと歌が流れてくる。<うんじゅ
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オットセイとラッコ=高尾具成
2023/5/8 13:01 925文字岩手県大槌町赤浜地区の沖に浮かぶ蓬萊(ほうらい)島は、作家の故井上ひさしさんらによる人形劇「ひょっこりひょうたん島」のモデルとされる。島の神社には弁才天像がまつられ、豊漁と航行安全の守り神として、大槌湾を行き交う漁船が立ち寄ってゆく。 東日本大震災(2011年3月)の大津波は、町のシンボルだった赤
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大阪・猪飼野に資料館=高尾具成
2023/5/1 13:10 973文字JR大阪環状線鶴橋駅の南東約1キロに広がる「大阪コリアタウン」。その一角に4月29日、「大阪コリアタウン歴史資料館」(大阪市生野区桃谷4)が開館した。 一帯は、古くは百済などからの渡来人を迎え入れて栄えた。その頃の港を示す「猪甘(いかい)の津」の名に由来する地名「猪飼野(いかいの)」には、日本統治
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脱線事故=高尾具成
2023/4/24 13:19 937文字乗車中、今もその場を通過する時、速度や音に敏感になる。兵庫県尼崎市で2005年4月、乗客106人と運転士が死亡し、562人が負傷したJR福知山線脱線事故はあす、発生18年を迎える。 JR西日本は大阪府内の社員研修センターに事故車両を保存する計画を進めている。マンションに衝突し、複雑に変形した車両を
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