
国際報道に優れたジャーナリストに贈られる「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞した、高尾具成編集委員のコラム。
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80億人目の子どもたち=高尾具成
2022/8/1 16:01 946文字1987年、世界人口が約50億人を超えたのを機に設けられた世界人口デー(7月11日、90年に国連総会で制定)。国連はこの日にあわせ、11月には80億人を突破し、来年にもインドの人口が中国を抜いて最多になると発表した。 思い起こすのは二十数年前、世界の人口が60億人を「突破」した時のことだ。ボスニア
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ハスの花をめでながら=高尾具成
2022/6/27 15:28 955文字文豪や歌人も記しているハスの開花する音を一度聞いてみたいと思っている。科学的に解明はされていないそうだが、折を見て、もしやと思い、夜明け前からハス池に出かけては期待をしてしまう。 古里・静岡の実家近くにはこの時期、ハスの花に満たされる池があった。中高生時代に毎日のように走った周囲約1・5キロの「蓮
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奇縁の島国を思う=高尾具成
2022/5/30 15:27 962文字満月の晩、インド亜大陸南端沖に浮かぶ島国スリランカを思う。スマトラ沖大地震・インド洋大津波(2004年12月に発生)後の被災地取材で初めて訪れた。北西部を除くすべての沿岸部が被災し、3万人以上が犠牲となった。 遺族の話を聞きながら面積が北海道の約0・8倍という島を巡った。被災1カ月後の満月の夕は印
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平和を願う「子守歌」=高尾具成
2022/5/2 15:12 954文字最近、ラジオからよく流れてくるこの歌を口ずさむことができるのは中学2年の1981年、英語担当でもあった担任の女性教諭が教えてくれたからだ。ガリ版(謄写版)印刷による英詩を配ってくれ、授業やホームルームで何度も歌った。「いつか分かる時がくるから」と教諭は言った。「花はどこへ行った」(原題Where
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母子像のまなざし=高尾具成
2022/4/4 15:23 958文字東日本大震災の被災地、福島県双葉町を訪ねた。東京電力福島第1原発事故の影響で、今も全住民が町外で避難生活を送る。 JR常磐線双葉駅周辺など、町面積の約15%にあたる「復興拠点」では、6月にも予定される避難指示解除に向けての整備が進む。その一角の高台にある双葉北小学校の校門に、町を見守るような「母子
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食い違う「あたりまえ」=高尾具成
2022/2/28 15:32 953文字空に向けて親指を立て、他の指を結んだ「サムズアップ」のサインが気になって仕方がない。英語圏を中心に広がった「賛同」「承認」を示すジェスチャーだが、SNS(ネット交流サービス)上でもその図案があふれている。 だが、国によっては侮蔑を込めた意で用いられる。以前、イランで取材の終わりにこの仕草をしかけた
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食で紡ぐ平和と団結=高尾具成
2022/1/31 15:09 970文字南アフリカ・ヨハネスブルク郊外のソウェト地区にノーベル平和賞受賞者2人を「輩出した」通りがある。先月26日、90歳で逝ったデズモンド・ツツ元大主教=1984年に受賞=と、94年の民主化後の初代大統領だったネルソン・マンデラさん(2013年12月、95歳で死去)=93年に受賞=の両氏だ。 ともにアパ
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語り、伝え命をつなぐ=高尾具成
2021/12/20 15:08 946文字11月末の深夜、神戸市長田区で木造2階建ての民家火災があった。神戸市消防局によると消防車19台が出動し、消火活動の末、約1時間半後に火は消えた。原因は調査中だが、周辺住民らの話では火の気もなく、家人が買い物で外出中、大切に飼育していたカメの水槽にあったヒーターから発火した可能性があるとのことだった
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元大統領 最後の謝罪=高尾具成
2021/11/22 15:26 965文字「名誉白人」。かつて南アフリカに駐在する日本人会社員やその家族らに付与された処遇であり、名称だ。1961年4月、南ア連邦国会で野党議員の質問に「日本人は人種的にはアジア人に属するが、居住地や施設に関する限り、白人と見なして扱う」と内相が述べたことに始まる。答弁者は11日、85歳で逝ったフレデリク・
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民主主義の成熟度を問う=高尾具成
2021/10/25 15:03 950文字こちら側が正規の手続きを経て、取材許可証を持っていたとしても、政府のガバナンス(統治)が脆弱(ぜいじゃく)だったり、独裁色が強かったりする国々では、相手当局者の虫の居所や運が悪いと拘束される時がある。アフリカのとある国で海外記者と一緒に、軍部に5時間ほど身柄拘束をされた時のことだ。 荷物や撮影写真
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大海原を渡る知恵と誇り=高尾具成
2021/9/27 15:06 982文字飼い犬に「道案内」を受けることが度々ある。嗅覚や聴覚と場所を結びつけた記憶に加えて、地磁気や太陽、星の位置などを感知しているともいわれる。サケや渡り鳥――生物に組み込まれた能力には頭が下がるばかりである。 さて人間はどうだろうか。海図や羅針盤も使わずに、星や潮流、島と波のうねりの関係性などを頼りと
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平和をかみしめて=高尾具成
2021/8/23 15:07 950文字東京オリンピックサッカー男子日本代表の森保一監督はメキシコとの3位決定戦を控えた前日の記者会見で、時に声を詰まらせながら伝えた。 「8月6日に広島に原子爆弾が落とされて、多くの人の尊い命が失われ、町が破壊され、今も傷ついている方が多くいることを知っていただきたい。8月9日は長崎にも世界で二つ目の原
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「一番若い国」の選手たち=高尾具成
2021/7/19 16:24 949文字「シャンパンの栓は開いたばかりですよ。噴き出し、はじける泡は、口あたりの良いものばかりではないでしょう」。1989年11月、「ベルリンの壁」が崩壊し、祝意を伝えようと、前年に訪れた東ベルリンの友人に国際電話をかけた際の反応だ。喜び半分。30年以上を経た今も解消されてはいない旧東西ドイツの格差是正の
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小さな命を救った「親切」=高尾具成
2021/6/21 16:21 948文字六甲山系ふもとの借家に暮らして7年ほどになるが、久しぶりにフクロウの鳴き声を耳にした。先月の愛鳥週間のことだ。9年前に他界した父はこの野鳥が好きで幼少期、よく一緒に鳴き声を聞いた。想像以上に遠くまで響き、その晩も2時間ほどホーホーと何かをしらせるように鳴いていた。欧州では「知性の神様」と言われるが
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自然の営みに生かされて=高尾具成
2021/5/24 15:25 930文字新型コロナウイルスの感染拡大により、インドの医療現場で「酸素不足」の深刻化が伝えられ、日本からも医療用の酸素濃縮器や人工呼吸器が支援されている。酸素投与が救命に欠かせない治療方法の一つであると、これほどまで意識したのは初めてだ。 コロナ禍前から医療用酸素の備蓄が不十分なことから、特に途上国などで「
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女性の命と健康のために=高尾具成
2021/4/19 15:14 952文字米国のバイデン政権の発足から4月末で100日を迎える。外交、環境などさまざまな政策がトランプ前政権時代から転換されたが、通称「グローバル・ギャグ・ルール」(GGR=口封じの世界ルール)の撤回もその一つだ。 1984年、メキシコシティであった国際人口会議で共和党のレーガン大統領(当時)が導入を発表。
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孫は今も6歳のまま=高尾具成
2021/3/22 15:28 943文字11日夕、三陸取材からの帰路の途中、携帯電話が鳴った。岩手・釜石に暮らす70代の男性からだった。「いやあ、今日も仕事に行ってましてね」。玄関先に残した書き置きに気づき連絡をくれたのだ。 発生翌年から2年間赴任していた地だ。当時、津波避難場所ではないのに、避難訓練などで利用されていたため、多くの周辺
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人々の声に耳を傾け=高尾具成
2021/2/22 15:33 932文字2月初めのミャンマー国軍によるクーデター以降、市民の抗議デモが内外で続いている。国軍側はインターネットを遮断し、抗議の輪の封じ込めをはかったが、邪気を払う金物の音や口コミの力は人々の思いを乗せているから強い。 約10年前の「アラブの春」を思い起こす。民主化を求める市民がソーシャルメディアを駆使し、
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「精神の連鎖反応」は続く=高尾具成
2021/1/25 15:41 948文字核兵器禁止条約が22日に発効した。思い浮かんだのは、広島平和記念公園で何度もお話を伺った、原爆被爆者で広島大名誉教授の倫理学者、森瀧市郎さん(1994年に92歳で死去)だ。核実験に抗議し、原爆慰霊碑前の最前列で座り込みを続けた。背広にネクタイ姿で背筋をしゃんとし、静かに座る姿は威厳に満ちあふれてい
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「神の子」に魅せられて=高尾具成
2020/12/21 16:01 960文字ブエノスアイレス・ボカ地区は先月60歳で逝ったサッカーの元アルゼンチン代表で母国の監督も務めたディエゴ・マラドーナさんの故郷といっていい。ラプラタ川河口に面する港町にはタンゴ酒場の外でも踊る市民がおり、その「天才」の名や肖像があふれている。 一角にあるクラブ「ボカ・ジュニアーズ」の本拠地ラ・ボンボ
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