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アンコール

オペラ・シーズン幕開け 飯守泰次郎こん身の《ラインの黄金》

撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場

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撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場
撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場
撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場

新国立劇場 ワーグナー:楽劇《ラインの黄金》新制作上演

 新国立劇場オペラ芸術監督就任2シーズン目を迎えた指揮者、飯守泰次郎が手掛けるワーグナー作曲《ニーベルングの指環(リング)》のツィクルス上演が始まった。今年は序夜《ラインの黄金》、ここから3年がかりで全4作の上演を完結させるという。演出はドイツの名演出家ゲッツ・フリードリッヒが1996年から亡くなる前年まで手がけたヘルシンキのフィンランド国立劇場で上演されたもの。いわば制作されてほぼ20年の時を経て東京でよみがえった舞台である。

     音が出る前に舞台上ではアルベリヒ(トーマス・ガゼリ)が芝居を始めている。いかにも演劇的な始まりだが、観客の気持ちが舞台に集中した静寂の中から音楽がスタートした瞬間は、ワーグナーの総本山バイロイト祝祭劇場に居るかのような錯覚に見舞われた。シンプルな舞台装置と現代風でありながらも奇をてらうことのない衣装をまとった歌い手たちを配する演出は、ワーグナーの台本の世界に忠実だ。

     異彩を放ったのは、通常、道化的な動きでヴォータンやアルベリヒを操る火の神ローゲが弁護士のような立派なスーツに赤いマントというスタイルで描かれていたことだ。初めてのローゲ役というステファン・グールドは神々の長ヴォータンと対等な立場で悪計を働く策略家としての存在感を放つ。こういう演出だからこそ、グールドが敢えてこの役に挑んだのだと得心がいった。

     ヴォータン役のユッカ・ラジライネンは感情をあまり表さない権力者でありながら、家族の長としての責務を果たす人間らしい側面を強調する。フライアが巨人族の人質に取られる窮地の時も、無事に解放され困難を乗り越えた時も、不思議な円陣を神々が組む様子は、彼らにとって何よりも大切なものが家族を守り、人を愛することだという極めて人間的なことを訴えているようだった。

     この演出は、ロンドン(1974年〜76年)、ベルリン(84年)、ヘルシンキ(96年〜99年)と生涯3度にわたる《リング》の演出を手がけたゲッツ・フリードリッヒの遺言のようなものかもしれない。

     2001年から04年にかけて新国立劇場が制作した「トーキョー・リング」(キース・ウォーナー演出)のような、舞台上の仕掛けを読み解いていく興奮よりも、いろいろなものをそぎ落とすことで作品の本質に迫る今回のような演出の方が、《ニーベルングの指環》という長大なスケールの作品に初めて触れる方には物語と音楽が一体となっている分、受け入れやすいだろう。

     さらに音楽的にも素晴らしい出演者が集い、素晴らしいワーグナーを聴かせたことは飯守泰次郎というオペラ芸術監督を得た意義の深さを物語る。前述のラジライネンやグールドといったバイロイト音楽祭でも活躍中の歌手はもちろんだが、日本人歌手たちも世界レベルのワーグナーを聴かせた。巨人族・ファーゾルト役の妻屋秀和やフライアの安藤赴美子、ラインの乙女たちの増田のり子、池田香織、清水華澄、ドンナーの黒田博、フローの片寄純也、世界レベルの歌手たちによるワーグナーと一体化して素晴らしい。

     管弦楽の東京フィルハーモニー交響楽団は飯守のタクトから生まれるライトモティーフに感情を込めて歌う音楽作りを精緻に行い、オーケストラ全体が壮大な歌となってワーグナーらしいスケール感を表現していた。昨年のパルジファルからさらに進化したマエストロと東京フィルのワーグナーが聴けたことで、来年以降の公演にも大いに期待できるだろう。

     今回、ローゲ役のステファン・グールドは来年の《ワルキューレ》ではジークムントを、17年の《ジークフリート》と《神々の黄昏》ではジークフリートを歌うことが予定されており、《リング》全4作を制覇するという世界的ヘルデン・テノールの大きな挑戦も聞き逃せない。(毬沙 琳)

    公演日程及びスタッフ&キャスト

    【新国立劇場 ワーグナー:《ニーベルングの指環》序夜 楽劇《ラインの黄金》新制作上演(全1幕 ドイツ語上演、日本語字幕付き)】

    新国立劇場オペラパレス

    10月1日(木)19:00/4日(日)14:00/7日(水)14:00/10日(土)14:00/14日(水)19:00/ 17日(土)14:00

    指揮:飯守泰次郎

    演出:ゲッツ・フリードリッヒ

    美術・衣裳:ゴットフリート・ピルツ

    照明:キンモ・ルスケラ

    演出補:イェレ・エルキッラ

    ヴォータン:ユッカ・ラジライネン

    ドンナー: 黒田 博

    フロー:片寄 純也

    ローゲ:ステファン・グールド

    ファーゾルト:妻屋 秀和

    ファフナー:クリスティアン・ヒュープナー

    アルベリヒ:トーマス・ガゼリ

    ミーメ:アンドレアス・コンラッド 

    フリッカ:シモーネ・シュレーダー

    フライア:安藤 赴美子

    エルダ:クリスタ・マイヤー

    ヴォークリンデ:増田 のり子

    ヴェルグンデ:池田 香織

    フロスヒルデ:清水 華澄 

    管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

    筆者プロフィル

    毬沙琳(まるしゃ・りん) 大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。

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