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アンコール

精妙に敬虔にブルックナー0番…オケ退場後も止まぬ拍手

ミンコフスキ(C)堀田力丸

マルク・ミンコフスキ指揮 東京都交響楽団定期演奏会

 12月15日、サントリーホールで行われたミンコフスキ指揮、東京都交響楽団定期演奏会Bシリーズを聴いた。

     ブルックナー交響曲第0番、第1楽章の冒頭。ミンコフスキがタクトを上げてからしばし静寂が流れる。タクトに合わせてビオラ、チェロ、コントラバスの弱音にヴァイオリン、木管がパートごとに加わっていき、身体に染み込んでいくかのように美しく響く。精妙な弱音に耳を澄ませるのが、なんとも言えず心地よい。ノン・ヴィブラートを軸にした古楽奏法を用いていたわけではないのだが、弱音にもかかわらず都響の音がよりいっそうピュアに感じられる。初めて生で聴く0番は第1楽章から第4楽章まで、コラールのような主題、甘美な調べ、敬虔な響き、自身が書いたアヴェ・マリアの引用など、ブルックナーらしさが詰まった秀作だった。“0番”でさえなければもっと演奏される機会が多い曲のはずだ。ミンコフスキと都響が見事に多彩で情感豊かに描いてみせてくれたからこそ、そう思えたのだろう。ブルックナーが交響曲第1番の後に書いたこの作品を第0番としたのは、自信を失くしたからお蔵入りにさせたのだという。終演後、ミンコフスキはスコアを掲げて万雷の拍手に応えた。そんなブルックナーにこの会場の拍手をささげるかのように。オーケストラも退場した後も拍手が鳴り止まず、ミンコフスキが再び呼び出される。都響に限らず、在京オーケストラの定期公演ではあまり見られない光景だった。

    (C)堀田力丸

     2014年8月に開催された同じ組み合わせの公演ではビゼーのローマ交響曲と「アルルの女」組曲の2曲で華麗にオーケストラをドライブさせて、会場を熱狂させたミンコフスキ。今回は別の角度からのアプローチで都響の潜在能力を開花させていた。ミンコフスキの引き出しの多さには驚かされるばかりだ。さらに言えば、矢部達哉コンサートマスターを核とした都響が世界で活躍する指揮者たちと多様なプログラムに真摯(しんし)に挑み続けている成果でもある。都響は集客が見込めるようなメジャーな曲ではなく、日本ではまだまだ知られていない作品に積極的に取り組んでいるように思える。実際、私自身、生で初めて聴く曲というのは、かなりの確率で都響の定期公演であることが多い。

     そして、冒頭で記したように演奏本編ばかりではなく、演奏が始まる前の静けさにも感動した。サントリーホールという音響に優れたホールで音が無いという状況に、私はまるでシーンという音に包まれたような感触を覚えた。東日本大震災後の復興支援のコンサートで黙とうをした時(ダニエル・ハーディングと新日本フィルハーモニー交響楽団によって、エルガーのエニグマ変奏曲から「ニムロッド」が犠牲者にささげられた)以来2回目の体験であった。演奏会は観客が作るものでもある。改めて都響ファンの意識の高さも感じることができた。

     前半のルーセルのバレエ音楽「バッカスとアリアーヌ」についても記しておきたい。ミンコフスキは激しく吹き荒れる金管楽器や幻想的に響く木管、なまめかしい弦楽器、地鳴りのような打楽器を自ら踊るように指揮し、ぐんぐんと邁進する。第2楽章の「アリアーヌの踊り」ではその全てが渾然一体となり、燦然(さんぜん)と輝く圧巻の幕切れを迎えた。こちらも私にとっては、生で聴くのは初めてであったが、新古典主義の香りを感じつつドラマチックで聴きやすい曲だと感じた。(小平 和美)

    (C)堀田力丸

    公演日程とプログラム

    【マルク・ミンコフスキ指揮 東京都交響楽団定期演奏会Bシリーズ】

    12月15日(火)19:00 サントリーホール

    ルーセル:バレエ音楽「バッカスとアリアーヌ」op.43

    ブルックナー:交響曲第0番二短調 WAB100(ノヴァーク版)

    筆者プロフィル

     小平和美(こだいら・かずみ) インテリア・ブランドのプレス、FM放送局の広報を経て、TBSのデジタル&インターネット・ラジオのOTTAVA開局時から広報を務めた。デザイン、アート、ファッションなどの分野でPRディレクターとしても活躍。08年4月にスポニチ紙面とスポニチ・アネックス、OTTAVAの3媒体連動による「クラシック・コンシェルジェ」連載スタート以来、公演リポートを担当した。現在は大手デパートのインテリア関連の仕事の傍ら音楽の取材・執筆活動も行っている。

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