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アンコール

ロマン派の傑作 《エリヤ》に挑んだ山田和樹×仙台フィル

ソリスト左から、安井陽子(ソプラノ)、手嶋眞佐子(アルト)、大槻孝志(テノール)、小森輝彦(バス)

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 指揮棒から繰り出される豊かな音楽と人柄ゆえの求心力で、聴き手や弾き手の心をつかんで離さない山田和樹。その山田が、ミュージックパートナーを務める仙台フィルとともに、メンデルスゾーン晩年の傑作、《エリヤ》を取り上げた(1月23日、日立システムズホール仙台)。ゆうに2時間を超える演奏時間や、題材がなじみのない旧約聖書であることなど、さまざまな理由により全曲通して国内で耳にする機会は極めてまれだろう。それが今回仙台の地で上演されたことは、仙台フィル、合唱、そして指揮者・山田の情熱と、それを表現し得る彼らの力が発信される、好機となったに違いない。

    ミュージックパートナーとして、仙台フィルとさまざまな取り組みを発信する山田和樹

     《エリヤ》は19世紀オラトリオの中でももっとも素晴らしい作品のひとつとして挙げられるが、先ほども触れたように、演奏機会には恵まれない。旧約聖書のひとつ、「列王記」の一部を台本としており、おもにエホバの神を信仰する預言者エリヤの登場から昇天までが描かれている。紀元前9世紀、イスラエルの王アハブはフェニキアからイゼベルを王妃に迎え、同時にその信仰する神バアルの信仰を持ち込む。本来のイスラエルでは邪教であるはずのバアル神を信仰し、また民衆にこれを強いる王や王妃。彼らに対し、エリヤは毅然と立ち向かい、信仰すべきはエホバであることを示していく物語である。

     宗教としてなじみがないと、やや難しく感じられるが、物語ではエリヤとアハブ王やバアルの神の預言者たちとの対決、嵐の到来、扇動される民衆たちの怒りなどが、レチタティーヴォやアリア、合唱により次々と描写される。音楽の力でドラマティックに肉付けされたこの《エリヤ》を、山田は華美になりすぎることなくまとめあげていた。

    エリヤを務めた小森輝彦

     ときにロマンティック、ときにドラマティックでありながら、オペラのように開放的ではない。管弦楽は、こうしたドイツ語によるオラトリオ特有の緊張感や崇高さを、常に意識していたように思う。エリヤはドイツ作品の白眉、小森輝彦が務め、揺らぐことのないエリヤの信念をとうとうと歌いきった。小森は昨夏、やはり山田の指揮した《椿姫》でジェルモンを演じ、好評を博している。また、特別編成の合唱団(グリーン・ウッド・ハーモニーや仙台放送合唱団ほか仙台の合唱団に、山田率いる東京混声合唱団の一部メンバー)も、おおいに健闘した。作品中、例えば2幕の有名なアリア「聞け、イスラエルよ、主なる神の声を聞け」※に続く合唱や、終盤の合唱「その時、主が通り過ぎて行かれた」など、壮麗で美しいコーラスもこの作品で大きなウェイトを占めている。劇的な場面で人々の感情を吐露させる効果は当然大きく、合唱の出来が作品の印象を左右しかねない。歌心を常にたたえた山田の指揮は、大所帯の合唱をスマートにまとめあげ、美しく響かせていた。合唱に対しても管弦楽に対しても、山田はド派手なデュナーミクを指示することなく、音楽を過度にまくしたてることはない。それが逆にハーモニーの美しさや場面の移り変わりを引き立たせ、終始音楽へと惹きつけられるひとときをもたらしてくれた。

    (正木裕美)

    (※各曲のタイトルは本演奏会の歌詞対訳に準拠しました)

    舞台上に曲番号が掲示されたり(写真右)内容を短くまとめた手引きを配布したりと、聴き手への配慮も見られた

    公演日程とプログラム

    【仙台フィルハーモニー管弦楽団第297回定期演奏会】

    1月22日(金)18:30、23日(土)15:00 日立システムズホール仙台

    指揮:山田和樹

    ソプラノ:安井陽子

    アルト:手嶋眞佐子

    テノール:大槻孝志

    バス:小森輝彦

    共演:東京混声合唱団メンバー

    合唱:仙台フィル「エリヤ」合唱団

    管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団

     

    メンデルスゾーン:オラトリオ《エリヤ》op.70

    筆者プロフィル

     正木裕美(まさき・ひろみ) 国立音楽大学(音楽教育学)、同大学院(音楽学)修了。クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災発生後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材に力を入れている。

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