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アンコール

粋で柔らかなハリウッド スラトキン&リヨン管「ジョン・ウィリアムズの映画音楽」

写真提供:サントリホール

グレイテスト・ヒッツ:ジョン・ウィリアムズの映画音楽

 米国の名指揮者レナード・スラトキンが音楽監督を務めるフランス国立リヨン管弦楽団を率いて日本公演を行った。今回注目されたのはクラシック音楽のプログラムの演奏会に加えて、スラトキンと深い信頼関係にある映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズの名作を集めた「グレイテスト・ヒッツ:ジョン・ウィリアムズの音楽」と題した公演を東京(6月29日、NHKホール)と大阪(27日、フェスティバルホール)で開催したことだ。ヨーロッパのそれもフランスのオーケストラが、米国・ハリウッドの映画音楽のみを集めたプログラムを海外公演で披露するのは異例。しかし意外にもこのプログラムによってフランスのオーケストラならではの美点が、浮き彫りにされて聴衆に伝わる結果となった。取材したのは29日、NHKホールでの公演。ラジオDJのサッシャが司会を務め、スラトキンへのインタビューで各作品に関するエピソードやウィリアムズの言葉などを紹介しながら演奏が進められた。

 世界中の映画ファンに親しまれているウィリアムズの映画音楽だが、これまで筆者は実演、CDともにボストン・ポップス・オーケストラ(ボストン交響楽団を母体とするポップス・オケ。ウィリアムズも1980~93年、常任指揮者を務め、現在も桂冠指揮者の肩書を持つ)をはじめとする米国の楽団による演奏で聴く機会が圧倒的に多かった。今回、スラトキン指揮リヨン管弦楽団の演奏で聴いてみると、これらの作品から従来とは少し違った音楽性や表情を感じ取ることができた。

 その理由の第一は各パートの音が米国のオーケストラに比べると柔らかく、ハーモニーがより美しく響いたことである。ウィリアムズの音楽は一見単純明快に感じられるが、譜面を見てみると現代音楽の要素も取り入れた高度な和声法が随所に散りばめられているほか、技巧的な変拍子などがさりげなく登場したりもする。これをスラトキンとリヨン管は、勢いで演奏していくのではなく和音、フレーズのひとつひとつを丁寧に処理しながら、美しい響きにまとめ上げていたのである。こうした演奏に接すると「スーパーマン」や「インディ・ジョーンズ」の勇壮なテーマの中にも叙情的な要素が数多く内在していたことが分かる。

 次に印象に残ったのは管楽器プレイヤーの卓越した個人技である。フランスのオーケストラといえば昔から管楽器、特に木管セクションに優秀なプレイヤーをそろえている、との評価が一般的であったが、そうした伝統は現在のリヨン管にも受け継がれているのであろう。聴き慣れた「スター・ウォーズ」の響きの中からオーボエやフルートなどによるソロが鮮やかに現れ、こんなに音楽的な作品だったのか改めて気付かされることが何度もあった。これも〝パワープレイ〟と〝組織的な集団戦〟を得意とする米国のオーケストラの演奏とはひと味違う、フランスの楽団らしい特色が成せる業ということができるだろう。

 また、スラトキンは「E.T.」に関する知られざる裏話も披露した。映画の完成直前にウィリアムズはラストシーンの映像と自らの音楽の整合性に違和感を覚えて、スティーブン・スピルバーグ監督に「音楽を作り直したい」と申し出たのだという。これに対してスピルバーグ監督の答えは「あなたの音楽は実に素晴らしいので、本編の方を作り直したい」というものだった。その結果、生まれたのがETを自転車の前カゴに乗せて空を飛ぶ、あの有名なシーンだったそうである。スラトキンが明かしてくれたこうした新鮮な裏話の数々に客席からは何度も「ヘェー」との驚きの声が上がっていた。また、「スター・ウォーズ」組曲〝ダースベーダーのテーマ〟では客席から小学生をステージに招き上げて、ライトセーバーで指揮をさせる楽しい演出も行われ会場を沸かせていた。

 なお、スラトキンはロサンゼルス出身。両親ともにハリウッドの映画音楽界で活躍した音楽家。スラトキンはハリウッドに生まれて、映画と映画音楽に囲まれて育った指揮者だけにウィリアムズとの親交が深いことでも知られている。

写真提供:サントリホール

レナード・スラトキン指揮 フランス国立リヨン管弦楽団演奏会

 翌30日にはサントリーホールでムソルグスキー(ラヴェル/スラトキン編)の組曲「展覧会の絵」をメーンに、ルノー・カプソンをソリストに迎えて、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番、ブラームスの「悲劇的序曲」を演目としたコンサートが開催された。

 「展覧会の絵」はオーケストラ版のスタンダードとなっているラヴェルのオーケストレーションをベースにスラトキンが一部、補足・改訂した珍しいバージョンによる演奏であった。最大の違いは冒頭の「プロムナード」が中間部でもほぼ同じ形で再現されること。さらに「ビドロ・ポーランドの牛車」ではピアノ(弱音)で始まり次第にフォルテ(強音)になっていくのではなく、いきなりフォルテで始めたことである。ここでは音量を補強するためか、冒頭のユーフォニューム(チェロと同音域の小さなテューバのような金管楽器)のソロにホルンを重ねて吹かせていた。スラトキンはムソルグスキーのオリジナルであるピアノ版の雰囲気により近づけることを目指して、こうした措置を施したのだという。

 全体としては前夜のウィリアムズ作品の公演と同様に管楽器の柔らかなサウンドと弦楽器のしなやかな旋律処理によってフランスらしい〝粋〟や〝軽やかさ〟を感じさせてくれるコンサートであった。

(宮嶋 極)

写真提供:サントリホール

公演データ

【グレイテスト・ヒッツ:ジョン・ウィリアムズの映画音楽】

6月29日(水)19:00 NHKホール

指揮:レナード・スラトキン

管弦楽:フランス国立リヨン管弦楽団

MC:サッシャ

 

ジョン・ウィリアムズ:

「フック」から〝ネヴァーランドへの旅立ち〟

「ジュラシック・パーク」から〝テーマ〟

「ジョーズ」組曲

「シンドラーのリスト」から〝テーマ〟

「インディ・ジョーンズ~レイダース 失われたアーク」から〝レイダース・マーチ〟

「E.T.」から〝地上の冒険〟

オリンピック・ファンファーレとテーマ

「ハリー・ポッターと賢者の石」から〝ハリーの不思議な世界〟

「未知との遭遇」から

「スーパーマン」から〝スーパーマン・マーチ〟

「スター・ウォーズ」組曲

【レナード・スラトキン指揮 フランス国立リヨン管弦楽団演奏会】

6月30日(木)19:00 サントリーホール

指揮:レナード・スラトキン

ヴァイオリン:ルノー・カプソン

管弦楽:フランス国立リヨン管弦楽団

 

ブラームス:悲劇的序曲Op.81

ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲ト短調Op.26

ロソルグスキー(ラヴェル編):組曲「展覧会の絵」

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) スポーツニッポン新聞社勤務の傍ら音楽ジャーナリストとして活動。スポニチ紙面、Webにおける取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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