メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

アンコール

東北を代表するクラシック音楽の祭典「仙台クラシックフェスティバル」

 「せんくら」こと「仙台クラシックフェスティバル」が今年も楽都・仙台で行われ、9月30日から10月2日まで、市内ホールや街なかの会場を、紅葉よりも一足先にクラシックの音色で彩った。

 今回は10月2日を中心に、ソロ、デュオ、アンサンブル、協奏曲の各公演を聴いて回った。一つ目は楽しみにしていた成田達輝(ヴァイオリン)と萩原麻未(ピアノ)のデュオ。公演は、かわいらしい旋律にどこか哀愁漂うドヴォルザーク「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ」で始まり、両者は冒頭から息の合った演奏を聞かせた。特に第2楽章では、双方が弱音の旋律を丁寧に紡ぎ、その美しく静謐(せいひつ)な響きの中に、ホールが引き込まれるような感覚を覚えたほどだ。成田はどこか肩の力が抜け、重心が下がり、音色がよりストレートに伝わるようになった。それでいて、持ち前の巧みな弓遣いは変わらない。内面の音楽を吐露するような萩原の持ち味と相まって、続くブラームスのハンガリー舞曲やサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」では、丁々発止のアンサンブルで聞き手を魅了した。アンコールのウィリアム・クロール「バンジョーとフィドル」では、成田がヴァイオリンをバンジョーに見立ててかき鳴らすなど、遊び心も加えてみせた本公演。その濃密な時間に、聞き手も感嘆と割れんばかりの拍手を送っていた。

息の合ったアンサンブルで魅力した成田達輝(左)と萩原麻未

[PR]

 続いては、「せんくら」初登場の朴葵姫(パク・キュヒ)のギター公演を聴いた。会場となった日立システムズホール・パフォーマンス広場は、普段は学生が楽器を練習したりダンスをしたりする、吹き抜けの自由な空間だ。椅子を並べてつくった会場は、だからこそラフな雰囲気を醸し出し、毎回演奏家のトークを楽しめる公演も多い。朴は名曲中の名曲、タレガ「アルハンブラの思い出」や「椿姫の主題による幻想曲」ほかを甘くストレートな音色で響かせ、最後にヒナステラのギター・ソナタを披露。猫パンチと呼ばれる第4楽章での奏法について、「指から血が出てしまうのですが、先輩たちに聞くと『血を流さないと弾けない曲だ』と言っていました」とこぼれ話を披露しつつ、躍動感たっぷりに演奏してみせた。また、演奏後、「ぜひ弾きたい曲がある」と朴が選んだのは、東北ゆかりの「花は咲く」だった。プログラムを調整してまで今回演奏したかったという朴の思いは、筆者のみならず、多くの聞き手に届いたに違いない。

せんくら初登場の朴葵姫(パク・キュヒ)

 成田や萩原、そして朴と、若手の演奏を聴いてきたが、同じく若手として活躍を見せる牛田智大(ピアノ)と大江馨(ヴァイオリン)による協奏曲2本立ては、完売するほど注目度が高かったようだ。牛田といえば、その音色は必ず美しさの範ちゅうにあり、丁寧に旋律を歌いつなぐスタイルが思い起こされる。しかし仙台フィル(指揮・高関健)とともに奏でたリストの「死の舞踏」(「怒りの日」によるパラフレーズ)では、俊敏でダイナミックな打鍵、むき出しの強音を響かせ、さらに表現の幅を広げた感があった。モスクワへ渡りロシアのピアニズムを学ぶ牛田だが、そこでの糧を、早くも自身の音楽づくりへ生かしているのが見てとれた。また、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を披露した大江は、粗削りながらスピード感のある弓運びで、情熱と若さにあふれた演奏を熱演。伸びしろを感じさせるフレッシュな演奏に、聞き手からは温かい拍手が送られた。

さらに表現の幅を広げた牛田智大
フレッシュな演奏を聴かせた大江馨

 若い奏者ならではの魅力も良いが、ベテラン奏者によるアンサンブルは、作品の持ち味そのものを深く味わわせてくれる。公演順は前後するが、スヴェトリン・ルセフ(ヴァイオリン)、井野邉大輔(ヴィオラ)、原田哲男(チェロ)、助川龍(コントラバス)、津田裕也(ピアノ)による、シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」は、安定感に身を任せられる、良演だった。非・常設型の室内楽にもかかわらず、音色までもが調和し合い、かみ合う歯車のごとく息の合ったアンサンブル。それもそのはず、津田を除き、彼らは皆オーケストラに在籍、あるいはかつて在籍しており、個を出し、引き立て、駆け引きをする術にたけている。また津田の室内楽での抜きんでた力量と信頼は、これまでのさまざまな協演者の顔ぶれからも明らかだ。ルセフが歌い、津田が応え、原田が寄り添い、井野邊や助川が支え、違和感なく紡がれるアンサンブル。それは、繰り返される転調のもとでの微細な移ろいをつぶさに捉え、作品の美しさをより一層際立たせていた。

(左から)スヴェトリン・ルセフ、津田裕也、原田哲男、助川龍、井野邉大輔によるピアノ五重奏

 移動の際、地下鉄駅ではコンサートが行われ、たくさんの人が足を止めて聴き入っていた。また東北にフィーチャーした公演、安価な価格設定による旬の音楽家の公演は、クラシック音楽の垣根を一段下げ、結果としてさまざまな人が足を運んだようだ。託児サービスや幼児も聴ける公演もあり、子育て世代も楽しめる。欲張ればキリがないが、「フェスティバル」の名のとおり、誰もが楽しめる「お祭り」として、これから10年、20年と、クラシック音楽を楽しませてほしいと願っている。(正木 裕美)

ふらりと楽しむことができる地下鉄駅でのコンサート

公演日程とプログラム

【仙台クラシックフェスティバル】

9月30日(金)~10月2日(日) 日立システムズホール仙台(青年文化センター)、イズミティ21ほか、仙台市内各会場にて開催

■成田達輝・萩原麻未 ―情熱の「ツィゴイネルワイゼン」―

10月2日(日)11:45 日立システムズホール仙台

ヴァイオリン:成田達輝

ピアノ:萩原麻未

 

ドヴォルザーク:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ

ブラームス:ハンガリー舞曲集より 第1番、第2番、第5番、第6番

サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン ほか

 

■朴葵姫(パク・キュヒ)「ギター・フェイバリット・セレクションⅡ」

10月2日(日)13:30 日立システムズホール仙台(パフォーマンス広場)

ギター:朴葵姫(パク・キュヒ)

 

タレガ:アルハンブラの思い出

タレガ:椿姫の主題による幻想曲

ヒナステラ:ギター・ソナタ ほか

 

■「仙台ゆかりの名手たちが贈る室内楽の悦び」

10月2日(日)14:30 日立システムズホール仙台

ヴァイオリン:スヴェトリン・ルセフ

ヴィオラ:井野邉大輔

チェロ:原田哲男

コントラバス:助川龍

ピアノ:津田裕也

 

ヘンデル:ハルヴォルセン:パッサカリア ト短調

シューベルト:ピアノ五重奏曲イ長調「ます」Op. 114, D. 667

 

■未来へ羽ばたく若き才能! リストとチャイコフスキーの華麗なる響き

10月2日(日)17:15 イズミティ21

指揮:高関健

ピアノ:牛田智大

ヴァイオリン:大江馨

客演コンサートマスター:スヴェトリン・ルセフ

管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団

 

リスト:死の舞踏(「怒りの日」によるパラフレーズ)

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 

筆者プロフィル

 正木裕美(まさき・ひろみ) 国立音楽大学(音楽教育学)、同大学院(音楽学)修了。クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災発生後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材に力を入れている。

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 100歳、歩行者はねる 「気がついたら歩道に」 新潟

  2. 地下アイドルに強制わいせつ致傷容疑 26歳ファン逮捕 自宅前で待ち伏せ

  3. 本人名義の出演も 西川貴教さんが語る「イナズマロックフェス」とふるさと滋賀

  4. 高齢者事故「娘の死は殺人」 発生3年、母が制度改正訴え活動

  5. 池袋暴走 元高級官僚だから? 「なぜ運転手が逮捕されないのか」疑問の声噴出

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです