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音楽徒然草

ティーレマンはオペラがお好き

シュターツカペレ・ドレスデン(c)Matthias Creutziger

 あれは2012年10月22日の夜のこと。NHK音楽祭にクリスティアン・ティーレマンがシュターツカペレ・ドレスデンを率いて来日し、ブラームスの交響曲を3番、1番の順で披露した。手の内にあるレパートリーとあって聴いていても安心感があったが、正直言うと、あの日のコンサートで最も心奪われたのはアンコールで演奏された「リエンツィ」序曲だった。

 ワーグナーが1840年に作曲し、2年後の42年10月20日にドレスデンのザクセン宮廷歌劇場で初演されたと記録が残る全5幕のオペラ。その序曲を振るティーレマンの楽しそうなことといったらなかったし、そのまま第1幕に突入しそうな勢いを感じた。

 「この人はやっぱりオペラが好きなんだ」

 改めてそう思わせる力の入った演奏だった。

 そのティーレマンが11月18日に東京・赤坂のサントリーホールに登場した。ザルツブルク・イースター音楽祭 in Japanと銘打ち、ワーグナーの楽劇「ラインの黄金」をホール・オペラ形式で上演。もちろんオケは2012/13年シーズンから首席指揮者を務めるシュターツカペレ・ドレスデンだ。ティーレマンは13年から同音楽祭の芸術監督を務めており、それ以来、同オケもレジデントを務めている。ザルツブルクからそのまま〝出張〟してくれたのだから、何ともぜいたくな一夜となった。

 ステージ後方の客席、いわゆるPブロックに舞台がしつらえられた。高所恐怖症の歌い手なら、ちょっと尻込みしてしまうのではないかと心配したほどの高さ。この特設ステージを見上げる形でティーレマンが舞台祝祭劇「ニーベルングの指環」序夜の幕を開けた。

 1幕4場で、およそ2時間半。休憩はない。ふだんは照明が落とされてオーケストラ・ピットの様子は見えないが、そこはホール・オペラ。楽団員の熱い演奏ぶりも目にすることができておもしろかった。

 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」「トリスタンとイゾルデ」などなど、スタミナも必要とされるワーグナー楽劇の歌い手にはいつも感心するが、今回も皆、力強かった。神々の長ヴォータンを演じたミヒャエル・フォッレをはじめ、ニーベルング族のアルベリヒ役のアルベルト・ドーメン、巨人族の兄弟にふんしたゲアハルト・シーゲルとシュテファン・ミーリンクらがほれぼれする声を聴かせてくれた。そして日本が誇るメゾ・ソプラノ藤村実穂子。ヴォータンの妻で婚姻の女神フリッカを貫禄で演じきって、あっぱれだった。

 1959年4月1日が誕生日のティーレマン。筆者と同世代の〝アラ還〟だ。休憩なしの2時間半といえば、そこそこ長い映画を1本見る感じ。「体力的にかなりしんどそうだぞ」と勝手に不安視していたが、全くの杞憂(きゆう)に終わった。1548年に創設された世界でも類を見ない歴史を誇るシュターツカペレ・ドレスデンから極上の音を引き出して魅せたマエストロ。互いの信頼感のなせる業だろう。伝統の深い音だけでなく、時にからりとした軽快なサウンドもメリハリたっぷりに効かせて、それこそ〝黄金〟のコンビぶりを見せつけた。それにしても、ステージ上手(かみて)に並べられた6台のハープは壮観。楽団員に3人の日本人の名前も見つけてうれしくなった。

 京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターでは11月29日から12月25日のクリスマスまで、東ドイツ映画の特集上映会が催される。ヨーロッパで最も古いバーベルスベルク撮影所を拠点に1946年から90年までに製作された7000本以上の劇映画やアニメーション、ドキュメンタリーの中から厳選した作品が回顧上映される初の試みだ。ドイツの音を堪能した後は、ドイツの映像を楽しみたい年の暮れだ。

(佐藤 雅昭 スポーツニッポン新聞社編集委員)

筆者プロフィル

 佐藤雅昭(さとう・まさあき) スポニチ文化社会部編集委員。映画、音楽、落語をこよなく愛する。毎日新聞・日曜版で「深読みエンタ」を連載中。

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