メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

アンコール

力強くみずみずしいピアノの響き 今も 柳川守ピアノ・リサイタル2016

(C)Yuichi KITAHARA

 1932(昭和7)年生まれのピアニスト、柳川守は、1949年に17歳で第18回音楽コンクール(現・日本音楽コンクール)の第1位特賞を受賞。パリ国立高等音楽院ピアノ科、室内楽科を卒業後もフランスで研さんを続け、演奏活動は60年を超える大ベテランである。11月20日に東京で行われたリサイタルでは、ベートーヴェン、ショパン、ラヴェルの作品を披露。気迫のこもったスケールの大きな演奏に圧倒された。

 プログラムの1曲目はベートーヴェンのソナタ第28番。まず筆者が驚いたのは、84歳という年齢を感じさせない打鍵の力強さだ。ピアノを無理なく豊かに響かせる技術は、まさに長年の鍛錬のたまものだろう。特に左手の低音部がたっぷりと響き、音楽全体に安定感をもたらしているように感じた。この作品で柳川は、前半の室内楽的な雰囲気と、建築物のように揺るぎないベートーヴェンの音楽の構造美、そしてロマン派を先取りするような叙情性を調和させ、大きな広がりを持った音楽を作り上げた。

 前半の残りのプログラムはオール・ショパンの作品。共通して感じたのは、旋律とハーモニーがバランスよく響き、それぞれの楽曲が見通し良く示されていること。ショパンといえばメランコリックで線の細い音楽、といった印象があるが、柳川の奏でるショパンは、むしろ若々しい情熱や健やかな歌心に満ち、その特徴はバラードの1番やノクターン第13番、あるいはスケルツォの2番でいかんなく発揮された。安定感のあるテンポ設定で、音楽の大きな流れを提示、旋律の歌いぶりもおおらかだ。が、決して単調ではない。大きなスケールを維持したまま一気になだれこんでいくクライマックスへの運び方はスリリングでダイナミック。鬼気迫るような瞬間もあった。

(C)Yuichi KITAHARA
(C)Yuichi KITAHARA

 後半はラヴェルの「クープランの墓」。ここで、柳川は前半とはまったく違った音をピアノから引き出して見せた。硬質で透明感のある音で紡がれた第1曲「プレリュード」は、レース編みのような繊細な美しさに満ちていた。第3曲の「フォルラーヌ」のユーモア、第5曲「メヌエット」の優雅な美しさも心に残った。柳川は長らくフランスで研さんを積んだ人、やはり真骨頂はフランス音楽にあるのかもしれない。その思いを強くしたのが、アンコールの1曲目に弾いたシャミナード(1857~1944年)の「森の精」。シャミナードはフランスの女流作曲家で、サロン用のピアノ曲や歌曲を多く残している。はじめて聴く曲だったが、甘美な旋律を伴ったしゃれた小品を、細部まで繊細に表現。「自家薬籠(やくろう)中の曲」といった趣で、当日の白眉(はくび)だった。最後はバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻の第1曲、ハ長調のプレリュードで静かにしめくくられた。

 柳川の演奏は、「円熟」とか「枯淡の境地」といった決まり文句の枠に収まらない魅力がある。精神の若々しさ、みずみずしい感性、そしてたゆまぬ研さんのなせる技だろうか。音楽と謙虚に向き合い、自らの表現をひたむきに追求する姿勢に何より感動した。【野宮珠里】

公演日程とプログラム

2016年11月20日(日)14時 東京文化会館小ホール

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第28番 イ長調 作品101

ショパン:バラード 第1番 ト短調 作品23

     マズルカ 第36番 イ短調 作品59の1

       同  第37番 変イ長調 作品59の2

     ノクターン 第13番 ハ短調 作品48の1

       同   第14番 嬰ヘ短調 作品48の2

     スケルツォ 第2番 変ロ短調 作品31

ラヴェル:「クープランの墓」

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 街頭演説 麻生氏「人の税金で大学に」 東大卒市長批判
  2. 健康対策 米、メントールたばこ禁止方針
  3. 選抜高校野球 21世紀枠、推薦46校出そろう
  4. ガンバレルーヤ・よしこさん 病気のため一時休養を発表
  5. 橋爪功 「まんぷく」を朝ドラと知らず出演快諾 「泥臭く人間臭いドラマになれば」と

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです