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アンコール

圧倒的な存在感を放ったタメスティ アントワン・タメスティと日本の俊英たち

(C)Taira Tairadate

 フランスの若手ヴィオラ奏者、アントワン・タメスティを中心に、指揮・オルガン・チェンバロの鈴木優人、横浜シンフォニエッタ、トロンボーンの中川英二郎、ソプラノの小林沙羅という実力派が顔をそろえる演奏会が12月2日、横浜みなとみらいホール(大ホール)で開かれた。バッハとシュニトケでスケールの大きな演奏を聴かせたタメスティの存在感が際立った一夜となった。

 まずは開演前のプレコンサートでバッハのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ第3番が演奏された。アペリティフ(食前酒)にしては何とぜいたくなプログラムだろう。表情豊かにたっぷりと歌うタメスティのヴィオラと、鈴木のチェンバロのシャープな表現の対比がスリリングで、これから始まるコンサートへの期待感をかき立てた。

 そして幕開けは鈴木のオルガン独奏によるバッハの幻想曲「ピエス・ドルグ」(オルガンのための作品、の意味)。天上から降り注ぐ光のような高音の輝かしい響きで始まり、やがてパイプオルガンの機能全開とばかりに重厚な和音がホールを満たし、祝祭的な気分を盛り上げた。ここで小林が登場、バッハのクリスマス・オラトリオのアリアを歌った。筆者は2015年、野田秀樹演出の「フィガロの結婚」のスザンナ役を聴き、優れた歌唱力、演技力に感心したが、新年2月に挑戦する「カルメン」のミカエラ役に備えての調整か、オーケストラを突き抜けて響く声はボリュームたっぷりだった。

(C)Taira Tairadate

 ここでプログラムはモーツァルトの作品に移り、まずは鈴木の指揮で横浜シンフォニエッタが交響曲第35番「ハフナー」を演奏。みずみずしい生気にあふれたモーツァルトを聴かせた。続いて小林がモーツァルトの2曲――「フィガロの結婚」のケルビーノのアリア、コンサート・アリア「誰がわが恋人の苦しみを知ろう」を歌い、コンサート前半を華やかに締めくくった。

(C)Taira Tairadate

 後半は一転、シュニトケ(1934~98年)の作品が2曲演奏された。1曲目はオルガンとトロンボーンの組み合わせによる「音響と反響」。今日の感覚からすればこの二つの楽器の組み合わせは珍しく感じられるが、古くから教会音楽では、トロンボーンはよく用いられていたらしい。この作品でも、オクターブの跳躍をベースにしたトロンボーンのゆっくりとした音の運動と、時折ホワイトノイズのようにもきこえるオルガンの響きがあわさり、神秘的な音響空間を生んでいた。そして当夜のメインプログラムともいうべき「モノローグ」。冒頭にヴィオラが静かに奏でる憂いを帯びた旋律が印象深い。虚無感とともに、消えることのない人間の情念のようなもの――すなわちこの曲の「核」が、冒頭で明示されているように思えた。以後約20分間、ヴィオラとオーケストラは異様な緊張をはらみながら、沈滞と高揚を繰り返す。モノクロームの響きの世界に、冒頭の旋律が、色を添えるように繰り返し現れるが、それはモノクロームの緊張を和らげるどころか、影の深さをますます際立たせる。現代の世界そのものを象徴的に表しているような、重苦しい雰囲気に終始する作品に、親近感を覚えるのはなぜだろうか。消えるように曲が終わった後の深い沈黙は、この演奏に立ち会った聴衆、そして演奏者全体の共感を表していたように思った。

(C)Taira Tairadate

 アンコールは、タメスティと鈴木によるバッハのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタの第1番の3楽章。鈴木が「この曲は偽終止で終わる。偽終止とは音楽上のクエッション。クエッションを持ち帰ってください」とコメント。タメスティは鈴木のチェンバロの椅子の端に一緒に腰掛けて演奏。息がぴたりと合った小粋なアンサンブルが、シュニトケの緊張から聴衆を解放してくれた。

 バッハであれ、シュニトケであれ、共演者をぐいぐいとリードするタメスティのヴィオラが圧倒的な存在感を示した演奏会。キリスト教の教会音楽家(カントル)よろしく、オルガン、チェンバロ、指揮と八面六臂(ろっぴ)の活躍を見せた鈴木にも大きな拍手を送りたい。二人の共演は今後も続くとのこと、さまざまな曲目での丁々発止の「競演」が楽しみだ。【野宮珠里】

(C)Taira Tairadate

公演日程とプログラム

12月2日(金)19:30 横浜みなとみらいホール 大ホール

指揮・オルガン・チェンバロ:鈴木優人

ヴィオラ:アントワン・タメスティ

ソプラノ:小林沙羅

トロンボーン:中川英二郎

オーケストラ:横浜シンフォニエッタ

 

J.S.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ第3番ト短調 BWV 1029(プレコンサート)

J.S.バッハ:幻想曲ト長調 BWV 572「ピエス・ドルグ」

J.S.バッハ:クリスマス・オラトリオ BWV 248より アリア「彼の手の一振りが人間の力を倒す」

W.A.モーツァルト:交響曲第35番ニ長調K.385「ハフナー」

W.A.モーツァルト:オペラ「フィガロの結婚」K.492より アリア「恋とはどんなものかしら」

W.A.モーツァルト:コンサート・アリア「誰がわが恋人の苦しみを知ろう」K.582

A.シュニトケ:「音響と反響」(オルガンとトロンボーンのための)

A.シュニトケ:モノローグ(ヴィオラと弦楽のための)

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