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緻密な音楽づくり、豊かな色彩感 バッティストーニ×仙台フィル

4月には再びカルロ・フェリーチェ劇場やバイエルン国立歌劇場へ登場するなど、勢いが止まらないバッティストーニ=写真提供:仙台フィルハーモニー管弦楽団

 仙台フィルの2016年度のシーズン最後の定期演奏会に、イタリア生まれの若き指揮者、アンドレア・バッティストーニが登場した。プログラム前半はロッシーニの「どろぼうかささぎ」ほかイタリア・オペラの序曲を、また後半はプッチーニの「交響的前奏曲」やムソルグスキー(ラヴェル編曲)「展覧会の絵」を組み合わせた色彩豊かな内容。関係者席を除きチケットは完売し、ロビーにあふれる人、満席となった会場の熱気も、注目の高さをうかがわせた(3月18日・イズミティ21)。

 快活な風貌でイタリア生まれ、オペラも得意なことから情熱的で開放的な音楽づくりを連想するが、今回の演奏は微に入り細を穿(うが)つ音楽づくりが際立った。それでいて支配的に作りこみすぎず、歌うようにごく自然な音楽をオーケストラから引き出すことができる。バッティストーニが聴き手の支持のみならず協演する弾き手の信頼を得られるのは、そうした彼の音楽づくりゆえではないだろうか。「どろぼうかささぎ」序曲ではそれが顕著に表れ、序曲それだけでオペラの魅力を味わわせてくれた。各音をポルタメント気味に重ねた冒頭や、多用される3連符の音型ひとつひとつに神経が通い、粒立ち、雑に弾き流されることがない。そのために、ロッシーニ特有の息の長いクレッシェンド(通称ロッシーニ・クレッシェンド)が効果を発揮し、モーツァルトのような軽妙さをたたえつつも、引き締まった印象を作り出していた。

 美しい旋律が木管から弦へ受け継がれて始まるプッチーニの「交響的前奏曲」でも、フレーズの細部にまで神経が行き届き、息の長い旋律の美しさが際立った。エネルギーを内包しつつ微細なデュナーミクを重ねて山場まで歌い紡がれるさまに、思わずこちらの歌心も追随してしまう。グレン・グールドほどではないが、時折自身の歌声も旋律に乗って漏れ出てしまうほど、バッティストーニは“歌う”という事を強く意識している様子が見て取れる。楽器なら音への意識を持たずとも鳴らすこと自体は可能だが、歌は意識しなければ発することすらできない。歌声漏れる指揮姿はもちろんのこと、細部にまで意識が及ぶバッティストーニの音楽づくりには、まさにその“歌う”行為と共通するものが多々感じられるのだった。

バッティストーニは本公演が仙台フィル初登場となった=写真提供:仙台フィルハーモニー管弦楽団

 「展覧会の絵」では、バッティストーニの研ぎ澄まされた和声感覚を聴くことができた。もともとラヴェルの手による管弦楽版はピアノ版より色彩豊かと言われるが、筆者は今回改めて、題材が“絵画”すなわち“色彩の織りなすもの”だと再認識することになった。プロムナードでは和音それぞれが曇ったり鮮やかに響いたりと和声固有の色を放ち、どのような音色、色味を響かせたいのか目に見えるようだ。オーケストラもこれによく応え、前述の「交響的前奏曲」同様に、ふっと管弦楽が音色を変える感度の良さは特筆に値した。もっと食いつくようなアグレッシブな部分があっても良かったかもしれないが、その分微細な表現は際立ったように思う。標題やタイトルを持つ作品は、たとえ演奏が大味であっても聴き手の想像力を借りればそれらしく聴こえるだろう。しかし今回の演奏は、音色や表現への明確な要求を持ち、緻密なつくりを幾重にも重ねることで、豊かな味わいを生み出していた。指揮者の持ち味を如実に映し出す仙台フィルだけに、再度の共演を期待したい。(正木 裕美)

公演データ

【仙台フィルハーモニー管弦楽団 第308回定期演奏会】

3月18日(土)15:00 イズミティ21

指揮:アンドレア・バッティストーニ

ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」序曲

ロッシーニ:歌劇「どろぼうかささぎ」序曲

ヴェルディ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲

プッチーニ:交響的前奏曲

ムソルグスキー/ラヴェル:組曲「展覧会の絵」

筆者プロフィル

 正木裕美(まさき・ひろみ) 国立音楽大学(音楽教育学)、同大学院(音楽学)修了。クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災発生後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材に力を入れている。

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