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注目のペトレンコ初来日 得意のワーグナー~バイエルン州立歌劇場日本公演:歌劇「タンホイザー」

「タンホイザー」より(C)Wilfried Hoesl

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 芸術の秋、海外からオーケストラや歌劇場、著名アーティストの来日公演が相次ぐシーズンの到来である。中でも今秋、最も注目されるのがバイエルン州立(主催者表記は国立)歌劇場の日本公演であろう。というのも同歌劇場音楽総監督のキリル・ペトレンコが初来日し、得意のワーグナー作品を指揮するからである。ペトレンコといえば、2019年にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者兼芸術監督に就任することなどで、今、世界中の音楽ファンの熱い注目を集める存在。そこでペトレンコの魅力と彼が指揮する歌劇「タンホイザー」の聴きどころ、見どころを紹介する。(宮嶋 極)

 2015年6月、キリル・ペトレンコがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者兼芸術監督に選出された、とのニュースが日本に伝わった時、専門家も含めて多くの人が「ペトレンコって誰?」「なぜ、ペトレンコ?」という反応を示したことに筆者はとても残念に思えた。なぜなら、彼が指揮したバイロイト音楽祭における「ニーベルングの指環(リング)」を2013年から3年連続で取材し、カルロス・クライバー以来の天才肌の指揮者出現に驚き、その素晴らしい音楽作りについて事あるごとに紹介してきたつもりであったが、力及ばす、十分浸透していないように感じたからである。

「タンホイザー」より(C)Wilfried Hoesl

 ペトレンコが指揮したバイロイトの「リング」はフランク・カストロフ演出によるプロダクションで今年、最終年を迎えた。音楽の聴かせどころで本筋とは関係のない動きや集中力をそらすような映像の投影が行われるなど批判も多かったのだが、ペトレンコによる音楽は、そんなマイナスを補っても余りあるほどの素晴らしいものであった。

 彼の音楽作りの一端を知っていただくために、当時、スポニチ・アネックスに掲載したバイロイト・リポートの拙稿の一部を再録する。

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「タンホイザー」より(C)Wilfried Hoesl

 ペトレンコを中心とした音楽面は、当初の期待を大きく超えるほどの充実ぶりであった。ワーグナーの音楽のキーポイントとなるライトモティーフを室内楽のように明快に浮き上がらせる一方で、重厚かつ力強い響きが全体を支配する。緩急、強弱の変化のつけ方も巧みで、「ラインの黄金」最終盤、「ノートゥングの動機」が初めて金管楽器で強奏された際のメリハリのつけ方など、思わずハッと息をのむほどの素晴らしさであった。「ジークフリート」や「神々の黄昏」でオーケストレーションが複雑になるにつれて、弦楽器はうねるように響き、木管は清らかな透明感をもって雄弁に語る。ブラスは少し割れるようなサウンドで輝かしく鳴る。ペトレンコが紡ぎ出すサウンドは遠近感や立体感を感じさせるもので、それはバイロイト祝祭劇場の特殊なアコースティックを理解し、うまく活用してこそ実現できたものである。私の少年時代、往年の巨匠らによるバイロイトのライブ録音を聴いて頭の中に思い描いていた理想のワーグナー・サウンドが、現実のものとして耳に届いたようにすら思えた。現在、バイロイト祝祭劇場の特殊なアコースティックを十分に活用できる指揮者はクリスティアン・ティーレマンだけかと思っていたが、ペトレンコはまったく違ったアプローチで劇場全体をひとつの楽器のように鳴らしてみせた。これはただ者ではない。終演後は4作を通して、どの歌手よりも大きな喝采とブラボー、バイロイト名物の木の床を踏み鳴らす轟音(ごうおん)を巻き起こしたのは当然の結果であろう。

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 今読み返すといささか興奮気味のリポートであるが、実際、興奮させられたのである。ペトレンコの音楽作りは年を経るごとに完成度を増し、彼の最終年となった2015年には、バイロイトにおいて今世紀に入ってからどの指揮者、どの歌手よりも盛大な喝采とブラボーの嵐を巻き起こす驚異的な成功を収めたのである。この成功が彼を“帝王の座”ともいえるベルリン・フィル首席指揮者のポストに押し上げる大きな要因となったことはドイツの音楽関係者の多くが認めるところである。

「タンホイザー」より(C)Wilfried Hoesl

 また、ペトレンコの音楽の特徴について、当サイトの連載コラム「時にはぶらりと音楽を」の中で、筆者の遠藤靖典・筑波大学教授がとても的確で分かりやすい紹介をしていたので、一部を抜粋して再録する。

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 近年のバイロイトで振って素晴らしい棒と感じたのはティーレマンと、一昨年まで「指環」を振っていたペトレンコだけであり、それは彼等がピットに入ってきたときのみオケから拍手が沸き上がることからも分かった。ティーレマンの作る音楽は雄弁で素晴らしい。また、ペトレンコは、緻密さとスケール感という、一見相反する感覚が両立する音楽を作る。ティーレマンが草書ならペトレンコは楷書であろう。

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 そのペトレンコがついに日本の音楽ファンの前でその実力を初めて披露することになったのが、今月21日から始まるバイエルン州立歌劇場との日本公演である。それも十八番のワーグナー作品とあって彼のすごさを体感する絶好の機会となることは間違いないだろう。さらにペトレンコはベルリン・フィルの首席指揮者就任に伴いバイエルン州立歌劇場音楽総監督のポストを2019/2020シーズンをもって退任するため、同劇場を率いての日本公演はこれが最初で最後となる。

 今回上演される「タンホイザー」は“舞台美術と演出における魔術師”の異名を持つイタリア出身のロメオ・カステルッチによる今年5月にプレミエ上演されたばかりのプロダクション。現地で大きな評判を呼んだ新演出のイメージについては、主催者である日本舞台芸術振興会(NBS)のホームページに動画がアップされていることから、そちらを参照いただきたい。

http://www.nbs.or.jp/blog/bayerische2017/topmenu/post-5.html

クラウス・フロリアン・フォークト(c)Harald Hoffmann
エレーナ・パンクラトヴァ(C)Vitaly Zapryagaev

 一方、歌手陣も目を引く顔触れである。ワーグナー作品上演の総本山とされるバイロイト音楽祭で活躍中の旬の歌手をズラリとそろえているからだ。

アンネッテ・ダッシュ (C)Daniel Pasche

 題名役のクラウス・フロリアン・フォークトは日本でも人気の高いヘルデン・テノール。透明感と伸びのある美声に定評があり、今年、バイロイトで新制作上演された「ニュルンベルクのマイスタージンガー」(フィリップ・ジョルダン指揮、バリー・コスキー演出)でもヴァルターを歌い、その実力をいかんなく発揮していた。領主ヘルマンを演じるゲオルク・ツェッペンフェルトはバイロイトにおいて今、最も活躍している歌手である。今年も「パルジファル」のグルネマンツ、「ワルキューレ」のフンディング、「マイスタージンガー」の夜警を掛け持ちし、それぞれのキャラクターを見事に演じ分ける演技と歌唱で高い評価を得ている。さらにヴェーヌスのエレーナ・パンクラトヴァは「パルジファル」のクンドリを好演。同じく癖のある役どころであるヴェーヌスにも期待が高まる。さらにエリーザベト役のアンネッテ・ダッシュは2011年からの「ローエングリン」でエルザを歌い大好評を博したことは記憶に新しい。さらにヴォルフラム役のマティアス・ゲルネは、オペラ、リートの両面で幅広く活躍していることでも知られ、深みを感じさせる歌唱表現を駆使して同役を得意としている。ワーグナーに定評のスター歌手が、ここまでそろうのは珍しい。

マティアス・ゲルネ(C)Marco Borggreve1

 なお、バイエルン州立歌劇場(バイエルン・シュターツオーパー)は、ドイツ・バイエルン州の州都ミュンヘンにあるオペラ劇場で、18世紀の開場以来、ワーグナーやリヒャルト・シュトラウスら大作曲家とも関係が深く、ブルーノ・ワルターやハンス・クナッパーツブッシュ、カール・ベーム、クライバー、ヴォルフガング・サヴァリッシュといった往年の巨匠たちが指揮台に立ち、伝統を紡いできたヨーロッパを代表する名門歌劇場のひとつ。来日公演は2011年以来で、今回は「タンホイザー」のほか、同歌劇場における伝説の名プロダクションといわれるアウグスト・エファーディンク(主催者表記・エヴァーディング)演出によるモーツァルトの歌劇「魔笛」もアッシャー・フィッシュの指揮で上演される。

ゲオルク・ツェッペンフェルト

公演データ

【バイエルン州立(国立)歌劇場日本公演 ワーグナー:歌劇「タンホイザー」全3幕ドイツ語上演日本語字幕付き】

9月21日(木)15:00/25日(月)15:00/28日(木)15:00 NHKホール

指揮:キリル・ペトレンコ

演出・美術・衣装・照明:ロメオ・カステルッチ

振付:シンディ・ヴァン・アッカー

合唱指揮:ゼーレン・エックホフ

 

領主ヘルマン:ゲオルク・ツェッペンフェルト

タンホイザー:クラウス・フロリアン・フォークト

ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハ:マティアス・ゲルネ

エリーザベト:アンネッテ・ダッシュ

ヴェーヌス:エレーナ・パンクラトヴァ

合唱:バイエルン州立歌劇場合唱団

管弦楽:バイエルン州立歌劇場管弦楽団

 

【バイエルン州立(国立)歌劇場日本公演 モーツァルト:歌劇「魔笛」全2幕ドイツ語上演日本語字幕付き】

9月23日(土・祝)15:00/24日(日)15:00/27日(水)18:00/29日(金)15:00 東京文化会館

指揮:アッシャー・フィッシュ

演出:アウグスト・エファーディンク(エヴァーディング)

改訂演出:ヘルムート・レーベルガー

美術・衣装:ユルゲン・ローゼ

照明:ミヒャエル・バウアー

振付:ベアーテ・ヴォラック

合唱指揮:ゼーレン・エックホフ

 

ザラストロ:マッティ・サルミネン

タミーノ:ダニエル・ベーレ

夜の女王:ブレンダ・ラエ

パミーナ:ハンナ・エリザベス・ミュラー

パパゲーノ:ミヒャエル・ナジ

パパゲーナ:エルザ・ベノワ

合唱:バイエルン州立歌劇場合唱団

管弦楽:バイエルン州立歌劇場管弦楽団

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ)スポーツニッポン新聞社勤務の傍ら音楽ジャーナリストとして活動。スポニチ紙面、ウェブにおける取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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