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アンコール

ヤノフスキ「ヴァルキューレ」緊密なまとまり~2017バイロイト音楽祭リポート③

「ヴァルキューレ」でジークムントとジークリンデを好演したクリストファー・ヴェントリスとカミラ・ニールント(C)Bayreuther Festspiele/Enrico Nawrath

 バイロイト音楽祭2017のリポート最終回は再演演目であるフランク・カストロフ演出による「ニーベルングの指環」から「ヴァルキューレ(ワルキューレ)」のステージについて報告します。(宮嶋 極)

【バイロイト音楽祭2017「ニーベルングの指環」再演~楽劇「ヴァルキューレ(ワルキューレ)」】

 2013年から上演されてきたフランク・カストロフ演出による「ニーベルングの指環(リング)」は今年が最終年。20世紀以降の石油争奪戦が読み替え演出のコンセプトとされてはいたものの、その実態は音楽面の聴かせどころで本筋(読み替えのコンセプトも含めて)とはほとんど関係のない舞台上の動きや映像によって観客・聴衆の集中力をそぐ場面が頻発する奇抜な演出であり、批判も多かった。もちろん、評価する専門家やファンもおり、賛否両論渦巻くいかにも最近のバイロイトならではのプロダクションであった、といえよう。

 プレミエから3年間はキリル・ペトレンコが指揮を務め大きな注目を集めた。ワーグナーの楽劇のキーポイントとなるライトモティーフ(示導動機)を明快に浮かび上がらせる一方で、力強い響きを構築し緩急、強弱を巧みに変化させながら大きな盛り上がりを作っていくペトレンコによる音楽は各方面から絶賛され、他の演目も含めてどの出演者よりも大きな喝采とブラボーの歓声を集めていた。バイロイトでの大成功が彼をベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の次期首席指揮者兼芸術監督に押し上げる大きな要因となったことは多くの音楽関係者が認めるところである。

堂々たるブリュンヒルデに成長したキャスリーン・フォスター 「ジークフリート」第3幕から(C)Bayreuther Festspiele/Enrico Nawrath

 2016年からはペトレンコに代わって「東京春祭ワーグナー・シリーズ」などで日本の音楽ファンにもなじみの深いマレク・ヤノフスキが指揮を担当。ヤノフスキは過剰な表現を一切排した質実剛健な音楽作りで自らのスタイルを貫く一方で、歌手の呼吸や動きにも配慮した柔軟なアプローチで、この奇抜なプロダクションの上演を巧みにまとめ上げ、オペラ指揮者としての手腕の確かさを示した。カーテンコールでは盛大な拍手を集め、普段はめったに笑わない彼がうれしそうな笑顔を見せていたことも印象的であった。

 ペトレンコ、ヤノフスキとタイプはまったく異なる指揮者ではあるが、譜面から音楽の魅力を十二分に引き出し聴衆に強く訴えかける音楽作りが行われた結果、舞台上で繰り広げられる奇抜な演技や映像はさほど気にならなくなった、と感じたのは筆者だけではないはずだ。実力ある指揮者によってワーグナーの音楽に魂が吹き込まれたとき、演出を超えた大きな力の宿ることが実証されたプロダクションでもあった(もし、カストロフの真の演出意図がそこにあったとしたら驚くべきけい眼ではあるが……)。

「ジークフリート」第3幕終盤の聴かせどころでは、舞台にワニが登場。年を経るごとに子ワニが増えていったことも話題を集めた(C)Bayreuther Festspiele/Enrico Nawrath

 最終年の今年は8月18日に単独上演された「ヴァルキューレ」のみを取材したが、ヤノフスキの堅実な指揮ぶりが一層さえわたり、演出面のドタバタを補っても余りあるほどの緊密なまとまりを感じさせるステージに仕上がっていた。

 歌手陣では今年からヴォータンをイアン・パターソン(ラインの黄金)、ジョン・ラングレン(ヴァルキューレ)、トマス・ジェイ・マイヤー(ジークフリート、さすらい人)の3人が分担する異例の態勢になった。「ヴァルキューレ」では、ジークムント役のクリストファー・ヴェントリス、ジークリンデを演じたカミラ・ニールントの健闘などが光った。

 プレミエ時からブリュンヒルデを演じているキャスリーン・フォスターは、最初のうちは声量については十分ではあるものの、少し粗削りな面も散見された。しかし、年を経るごとに歌唱・演技両面で深みと安定感が増していき、今年は堂々たるブリュンヒルデを披露。5年間のバイロイトでの経験が彼女を現代の代表的なワーグナー歌手のひとりに育て上げた形となった。

「神々の黄昏」第3幕、ブリュンヒルデの自己犠牲の場面では、ニューヨーク証券取引所のセットがヴァルハル城に代わって炎上する(C)Bayreuther Festspiele

【バイロイト音楽祭2018のラインアップ】

 来年のバイロイト音楽祭は7月25日に「ローエングリン」の新制作上演で開幕し、8月29日までの間、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」(フィリップ・ジョルダン指揮、バリー・コスキー演出)、「パルジファル」(セミョーン・ビシュコフ指揮、ウーヴェ・エリック・ラウフェンベルク演出)、「トリスタンとイゾルデ」(クリスティアン・ティーレマン指揮、カタリーナ・ワーグナー演出)、「さまよえるオランダ人」(アクセル・コーバー指揮、ヤン・フィリップ・グローガー演出)が再演される。これに加えて今年最終年を迎えたフランク・カストロフ演出による「リング」から「ヴァルキューレ」のみ単独再演される異例の試みが実施される。指揮をかつての三大テノールのひとり、プラシド・ドミンゴが務めるのも注目を集めそう。

 新制作される「ローエングリン」は指揮をティーレマンが、演出は米国で活躍する前衛的な演出家、ユヴァル・シャロンが担当する。シャロンはバイロイト初登場。現在、ロサンゼルスに本拠を置く実験的なオペラ・カンパニー「ザ・インダストリー」の芸術監督を務め、演出面だけではなく、プロデューサーとしても現代オペラの上演などに意欲的に取り組んでいる。題名役としてイタリア・オペラのスター、ロベルト・アラーニャがバイロイト・デビューを果たす。ほかにアニヤ・ハルテロス(エルザ)、ゲオルク・ツェペンフェルト(ハインリヒ王)、ヴァルトラウト・マイヤー(オルトルート)らが出演予定。

 これまでの慣習にとらわれずに、開かれた音楽祭を標ぼうするカタリーナ・ワーグナー総監督の改革の方向性がより明確に打ち出された、と捉えることのできるラインアップといえそうだ。

公演データ

【バイロイト音楽祭2017「ニーベルングの指環」再演】

楽劇「ラインの黄金」7月29日、8月8日、23日

楽劇「ヴァルキューレ(ワルキューレ)」7月30日、8月9日、18日、24日

楽劇「ジークフリート」8月1日、11日、26日

楽劇「神々の黄昏」8月3日 13日、28日

会場はいずれもバイロイト祝祭劇場

 

指揮:マレク・ヤノフスキ

演出:フランク・カストロフ

舞台製作:アレクサンダー・デーニック

衣裳:アドリアンナ・ブラガ・ペレトツキ

照明:ライナー・キャスパー

映像:アントレアス・ディーネルト イエンス・クルール

合唱指揮:エバハルト・フリードリヒ

 

ヴォータン:イアン・パターソン(ラインの黄金)、ジョン・ラングレン(ヴァルキューレ)

ローゲ:ロベルト・サッカ

フリッカ:キャロライン・ウェンボーン(ラインの黄金)、タニア・アリアーネ・バウムガルトナー(ヴァルキューレ)

エールダ:タニア・アリアーネ・バウムガルトナー(ラインの黄金)、ナディーネ・ヴァイスマン(ジークフリート)

アルベリヒ:アルベルト・ドーメン

ミーメ:アンドレアス・コンラット

ファーゾルト:ギュンター・クロイスベック

ファーフナー:カール・ハインツ・レーナー

ジークムント:クリストファー・ヴェントリス

ジークリンデ:カミラ・ニールント

フンディング:ゲオルク・ツェペンフェルト

ブリュンヒルデ:キャスリーン・フォスター

ジークフリート:シュテファン・ヴィンケ

さすらい人:トマス・ジェイ・マイヤー

小鳥:アナ・ドルロフスキ

グンター:マルクス・アイヒェ

ハーゲン:シュテファン・ミーリンク

グートルーネ:アリソン・オアケス

ヴァルトラウテ:マリーナ・プラウデンスカヤ

ほか

合唱:バイロイト祝祭合唱団

管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ)スポーツニッポン新聞社勤務の傍ら音楽ジャーナリストとして活動。スポニチ紙面、ウェブにおける取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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