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必聴!

日本でエル・システマに触れる機会~~世界を席巻するオーケストラ教室「エル・システマ」とは

音楽評論家・山田真一

 エル・システマとは、南米ベネズエラで始まった無料で楽器を習え、無料で楽器を借りることができ、無料でオーケストラ活動に参加できる音楽教室だ。現在では国の支援も受けベネズエラ国内だけで参加者40万人規模、世界では60以上の国や地域で、エル・システマを利用したり、触発された活動が行われたりしている。〝オーケストラ教室〟としては、むろん世界最大だ。

 もっとも10年ほど前まで、エル・システマの存在は、筆者が書籍「エル・システマ」を出版するまで日本では全く謎だった。

ララ・ソモス(C)FMSB

にわかには信じられなかったエル・システマ

 エル・システマ最大のスター指揮者、ロスアンジェルス・フィルハーモニック音楽監督のグスターボ・ドゥダメルこそ多少の注目を集めていたものの、当時彼は20歳代。生涯をかけて活動する指揮者という職業柄、20代の指揮者など一部の評判だけではなかなか信用されないものだった。

 彼が率いるシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ(現シモン・ボリバル交響楽団)も同様。年齢も当時はドゥダメルと同じ世代の若者たち。だが、それ以上に、従来、南米のオーケストラの評価は低く、たとえ技術水準が高く、熱演をしても、一般的には〝ラテン的な解釈と演奏〟といわれるのがオチだった。

 エル・システマについても同じで、〝南米でまともなクラシック演奏をしているはずがない〟〝どうせ南米的な(ルーズな)活動なのだろう〟という偏見に満ちた意見が多かった。

 それも無理からぬものだった。日本のような経済先進国で治安が良い国からみれば、電気も上下水道も整備されていない区域に何十万人も住むような国は極貧国にしか見えない。日本人にとってクラシック音楽は欧米から輸入された〝舶来文化〟であって、〝極貧〟とは結びつき難い。

日本と縁があったエル・システマ

 筆者はベネズエラ渡航前、予備調査からこうした偏見を払拭(ふっしょく)できたが、ベネズエラでまともな音楽指導、それもプロ水準の指導ができているのだろうか、という疑問は持っていた。

 ところが、現地へ行き、最大の疑問はすぐに氷解した。指導教本がスズキ・メソードだったのである。なぜスズキ・メソードがエル・システマに導入されたのかは拙著に譲るが、彼らは一時スズキ・メソード音楽院なるものまで設立しようとするほど、この日本生まれの学習指導方法にほれ込んで、彼らなりの学習指導方法を確立していたのだった。

エディクソン・ルイス

相次いで来日するエル・システマのアーティストたち

井上道義(C)Mieko Urisaka

 シモン・ボリバル・ユース・オーケストラはその賜物(たまもの)で、ドゥダメルもまたしかり。

 また、もう一つ日本人がエル・システマに関して知りうる機会がありながら、それを逃していたことがある。初代シモン・ボリバル交響楽団の来日だ。ところが、この来日は見知らぬ〝南米オーケストラ〟としか見なされず、ほとんど日本人に記憶には残っていない。

 しかし、2008年のドゥダメルとシモン・ボリバル・ユース・オーケストラの来日は違った。一大旋風を起こし、エル・システマも同時に注目を集めることになった。

 以来、コンスタントにエル・システマのアーティストは来日している。これまでテレサ・カレーニョ・ユース・オーケストラ、エル・システマ・ユース・オーケストラ・オブ・カラカス、シモン・ボリバル弦楽四重奏団、指揮者のクリスチャン・バスケス、ディエゴ・マテウス、ラファエル・パヤーレ、トランペットのフランシスコ・フローレスなど数多くのエル・システマ出身のアーティストが来日を果たした。彼等はいずれも欧米の一流の音楽シーンで活躍し、多くがメジャー・レーベルの録音も持つ。

相馬子どもコーラス2(C)Mariko Tagashira

2017年エル・システマ・フェスティバルの魅力

 そして今年も、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団コントラバス奏者のエディクソン・ルイスをはじめとするエル・システマのアーティストが来日し、日本のアーティストとのコラボや、2012年より日本でも始まったエル・システマ・ジャパンが加わった演奏が、東京芸術劇場で、「エル・システマ・フェスティバル2017」として10月20日から22日まで行われる。

 注目の一つは、最近ソロ活動で幅を広げるコントラバスのエディクソン・ルイスとチェロの堤剛とピアノの伊藤恵らとの、ボッテジーニのコンチェルタンテ。ボッテジーニは19世紀に活躍した〝コントラバスのパガニーニ〟と呼ばれたイタリアのコントラバス奏者で作曲家。エディクソンの超絶技巧を堪能できるはずだ。

 最終日のガラ・コンサートでもエディクソン・ルイスが活躍。ベネズエラでエル・システマのオーケストラを振った経験を持つ井上道義の指揮で、クーセヴィツキーのコントラバス協奏曲ト短調が演奏される。また、今回、手話による合唱団ホワイトハンドコーラス関連の演奏団体も登場。ベネズエラからホワイトハンドコーラスの代表メンバーからなるヴォーカル・アンサンブルのララ・ソモス、今年日本でつくられた東京ホワイトハンドコーラスが舞台に立つ。

 エル・システマの音楽世界が今年も日本で繰り広げられるのを楽しみにしたい。

東京ホワイトハンドコーラス_ワークショップの様子(C)Mariko Tagashira

公演データ

【エディクソン・ルイス 室内楽マスタークラス】

2017年10月20日(金)18:00開講(21:00終了予定)

東京芸術劇場 シンフォニースペース(5階)

 

【エディクソン・ルイスと仲間たち 室内楽コンサート】

10月21日(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール

ヴァイオリン:辻彩奈

ヴイオラ:田原綾子

チェロ:堤剛

コントラバス:エディクソン・ルイス

ピアノ:伊藤恵

 

【エル・システマ ガラ・コンサート】※聴覚障害者のための舞台字幕付

日時:10月22日(日)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール

指揮:井上道義

合唱指揮:古橋富士雄

ソプラノ:コロンえりか

コントラバス:エディクソン・ルイス

合唱:相馬子どもコーラス、東京ホワイトハンドコーラス、ララ・ソモス(ヴォーカル・アンサンブル)、

管弦楽:フェローオーケストラ

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