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アンコール

カンブルランと読響のコラボレーションの集大成 「アッシジの聖フランチェスコ」

(C)読響 撮影=堀田力丸

【シルヴァン・カンブルラン指揮 読売日本交響楽団 メシアン:歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」演奏会形式上演】

 シルヴァン・カンブルラン&読売日本交響楽団がメシアンのオペラ「アッシジの聖フランチェスコ」(全曲)を演奏会形式で日本初演した。1983年に小澤征爾が指揮するパリ・オペラ座で世界初演されたこのオペラは、正味の演奏時間が4時間半に及び、巨大編成のオーケストラを要することから、日本では、1986年に小澤征爾&新日本フィルハーモニー交響楽団が抜粋(第3、7、8景)の形で紹介したにとどまり、全曲の演奏はなされていなかった。

 フランス出身のカンブルランは、ベルギー王立モネ劇場、フランクフルト歌劇場、バーデンバーデン&フライブルクSWR交響楽団などのシェフを歴任し、現在は、シュトゥットガルト歌劇場の音楽総監督を務める。2010年に読響の常任指揮者に就任。メシアン作品には特に力を入れ、読響でも、彼の「トゥランガリラ交響曲」や「彼方の閃光」などの大作を取り上げてきた。「アッシジの聖フランチェスコ」もこれまでにパリやマドリードで通算20公演以上指揮したことがあるという。

(C)読響 撮影=堀田力丸

 メシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」は、フランチェスコ会創始者であり、鳥に説教を行ったことでも知られる、13世紀イタリアの聖フランチェスコを主人公としている。全曲は3幕8景からなる。鍵盤打楽器を中心とする約40種の打楽器、3台のオンド・マルトノ、10部の混声合唱など、オペラとしては破格の巨大編成を要する。

 11月19日のサントリーホールでの公演は演奏会形式。最近は演奏会形式であっても、簡単な演技や映像や照明の演出が入るものが多いが、今回はそういうものを含まない、音楽だけに集中するスタイルが採られた。3台のオンド・マルトノは、舞台後方のオルガンの隣と2階席の左右後方の計3カ所に配置され、サラウンドな音響が体験できた。

 作品の冒頭から、オーケストラに一体感が感じられる。しっかりと書き込まれたスコアを、カンブルラン&読響が整然と奏でる。かなりのリハーサルが積まれたに違いない。カンブルランは、非常に複雑なリズムの箇所も、鋭い指揮で明晰(めいせき)に描いた。また、室内楽的な静かな場面から最強音まで、巨大なオーケストラをよくコントロールし、音をブレンドさせた。そして読響の高い演奏能力がそれに応えた。カンブルラン自身の本作品での数多い経験と深いスコアの読みが生かされた説得力のある演奏であった。

(C)読響 撮影=堀田力丸

 聖フランチェスコをヴァンサン・ル・テクシエが歌った。メシアンが作り上げた、揺るぎのない信仰と穏やかさをたたえた聖フランチェスコを温かみのある声で見事に再現した。エメーケ・バラートも天使役にふさわしい美しく澄んだ声。その他のキャストも高い水準の歌唱を示した。合唱は新国立劇場とびわ湖ホール声楽アンサンブルが担った(合唱指揮は冨平恭平)。第7景の美しく澄んだハーモニーや第8景最後の輝かしさなどが特に印象に残る。

 自ら台本も手掛けた、メシアンの唯一のオペラには、聖フランチェスコを通して、彼のカトリックへの絶対的な信仰が描かれていた。聖フランチェスコの神への賛美や鳥への祝福は、メシアンその人を想起させた。オペラ的な重唱や展開はほとんどなく、オラトリオに近い作品。メシアンらしい多彩な鳥の描写もある。音響の良いコンサートホールでの演奏会形式での上演は、演出の入る舞台上演以上に、作品の真価を示すものであったに違いない。

(C)読響 撮影=堀田力丸

 今回の上演は、カンブルランと読響との7年以上にわたるコラボレーションの集大成といえよう。(カンブルランは2019年3月に常任指揮者を退任する予定である)

 カンブルランの作品理解と情熱、そして、読響の真摯(しんし)な演奏によって、「アッシジの聖フランチェスコ」が20世紀後半を代表するオペラの一つであることが日本の聴衆にはっきりと示されたのである。

(山田 治生)

(C)読響 撮影=堀田力丸

公演データ

【シルヴァン・カンブルラン指揮 読売日本交響楽団 メシアン:歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」(演奏会形式/全曲日本初演)】

11月19日(日)14:00 サントリーホール/23日(木・祝)13:00 びわ湖ホール/

26日(日)14:00 サントリーホール

 

指揮:シルヴァン・カンブルラン

天使:エメーケ・バラート(ソプラノ)

聖フランチェスコ:ヴァンサン・ル・テクシエ(バリトン)

重い皮膚病を患う人:ペーター・ブロンダー(テノール)

兄弟レオーネ:フィリップ・アディス(バリトン)

兄弟マッセオ:エド・ライオン(テノール)

兄弟エリア:ジャンノエル・ブリアン(テノール)

兄弟ベルナルド:妻屋秀和(バス)

兄弟シルヴェストロ:ジョン・ハオ(バス)

兄弟ルフィーノ:畠山茂(バス)

合唱:新国立劇場合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル

合唱指揮:冨平恭平

管弦楽:読売日本交響楽団

 

筆者プロフィル

 山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」、「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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