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アンコール

じっくりとコバケン、大きく構え彫りも深く…ベートーヴェン全交響曲連続演奏会

写真提供=メイ・コーポレーション(C)MichikoYamamoto

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 ベートーヴェンの交響曲全9曲を1日で一挙に演奏してしまうというユニークなこの公演もこれで15回目となり、大みそか恒例の人気企画としてすっかり定着した格好だ。2002年のスタート当初は、首都圏の電車が終夜運転される大みそかだからこそ実現可能な公演との触れ込みで年末のイベントコンサートのような趣もあったが、ベートーヴェンの交響曲を聴きながら年を越すという〝特別な時間〟が人気を博し、固定ファンが年々増えてここ数年は毎年、チケットが完売する盛況ぶりとなっている。

 指揮は今回も小林研一郎。彼は2007年に初登場して以降、10回の指揮をひとりで担当するなど〝振るマラソン〟の異名もあるこのシリーズの顔となっている。NHK交響楽団の第1コンサートマスター、篠崎史紀がコンマスを務め、N響首席奏者らを中心に全国の腕利きメンバーを集めた岩城宏之メモリアル・オーケストラが熱演を繰り広げた。

写真提供=メイ・コーポレーション(C)MichikoYamamoto

 筆者は15回のうち14回を聴いているが、今回の最大の特徴は小林の音楽作りが大きく変化したことであろう。2016年の大みそかとは明らかに違っていた。前年と同じく交響曲第3番以降をすべて聴いたのだが、全体にテンポが遅くなり、〝炎のマエストロ〟と呼ばれる小林の〝専売特許〟である熱い情熱と勢いで押すというスタイルが少し薄らぎ、じっくりと腰を据えてひとつひとつの音符、旋律を丁寧に扱って音を紡いでいたように感じられた。さらに20世紀の巨匠指揮者たちのようなスタイルが垣間見える場面も随所にあった。低音を豊かに響かせて構造をガッシリと固め、オーケストラをタップリと鳴らして構えの大きな音楽に仕立てていく。序盤のヤマ場である第3番では彫りの深い表現が続き、息が詰まるほどの緊張感が会場を支配したのには驚かされた。

 その一方で、弦楽器の長音にヴィブラートをかけさせない箇所が例年よりも増えたように思えた。それは特に第7番で顕著であった。小林の指示なのか、それとも最先端の研究成果を重視するパーヴォ・ヤルヴィを首席指揮者にいただく、篠崎をはじめとするN響メンバーらによる自主的な試みかは不明。ただ、柔らかな響きの中に時折、こだまするノーヴィブラートのストレートなサウンドが聴く者に新鮮な感覚をもたらしたことは、間違いないだろう。これも2016年まではあまりなかったスタイルである。

写真提供=メイ・コーポレーション(C)MichikoYamamoto

 変わらなかったのは、第7番フィナーレの圧倒的な盛り上がりである。毎年、ここで一度、燃焼し尽くし、会場を熱くさせるのが炎のマエストロ・コバケンならではの〝振るマラソン〟走破術である。ただ、2017年は例年のように一気呵成(いっきかせい)にコーダに突入するのではなく、階段を一段一段着実に上っていくような頂点の築き方で、聴衆の心をより深く動かしていたように感じた。

 そんな渾身(こんしん)の演奏が続いたためか、第8番ではオーケストラが明らかにバテ気味だったように見えた。これも例年にはなかったことである。それだけ全力投球していたのであろう。いずれの曲もテンポが遅かったため、進行はやや押し気味で、予定の終演時間(23:55)に間に合わせるためなのか、各曲間の休憩時間が少しずつカットされていたのも影響していたのかもしれない。なにせ、これだけ迫真の演奏が続くと聴く方も例年にも増して疲労の度合いが深まったのも事実である。

 そして第9。ステージのセット替えなどで多少のインターバルが空いたため、オーケストラ、聴衆の双方が生気を取り戻し、緊張感を再び取り戻して最後にして最大の交響曲に向き合った。

写真提供=メイ・コーポレーション(C)MichikoYamamoto

 小林の音楽作りの変化は、この曲において一層明確となり、それは一過性のものではなく、彼が指揮者として円熟の境地に歩みを進めつつあることを示す、中身の濃い演奏となった。第3番から第8番までと同じく遅めのテンポでひとつひとつのフレーズを深く丹念に彫り込みながらオーケストラをタップリと鳴らして、力強い足取りで曲を進めていく。最近のベートーヴェン演奏とは対極にあるスタイルではあるが、不思議と違和感はなく作品の核心部分に自然と誘われていくような印象を受けた。第4楽章のコーダは第7番と同様、一歩一歩斜面を踏みしめながら頂上を目指していくようなスタイルで圧倒的な盛り上がりを築き上げた。最後の一音が鳴りやんだ瞬間、客席を埋めた聴衆のかなりの数の人がはじかれたように立ち上がり、会場は盛大な喝采とブラボーの歓声に包まれた。

 終演は大みそかの23時56~57分。毎年書いていることだが、この時間に終わるのであれば、第9のコーダの盛り上がりとともに新年を迎える方がより、聴衆の期待に応える形になるのではないだろうか。以前は第9の途中、第1楽章後半あたりで年をまたいだこともあった。新年直前に終わるようになってから、休憩時間のロビーのあちらこちらで「どうせなら第9とともに新年を迎えたい」などの声を聞くようになった。あまり遅くなると帰宅の足を確保できない人もいるそうなので、24時を大きく超えて終わるのは難しいだろうが、せめてコーダの最後のあたりで新年を迎えるスタイルにしてはどうだろうか。:現状と1、2分の違いであれば、そう問題になることはないはずだ。今年の大みそかも小林の指揮で開催が決まっているそうなので、主催者にはぜひ検討していただきたい。(宮嶋 極)

写真提供=メイ・コーポレーション(C)MichikoYamamoto

公演データ

【ベートーヴェンは凄い! 第15回全交響曲連続演奏会~小林研一郎10回目の振るマラソン】

2017年12月31日(日)13:00~23:55 東京文化会館大ホール

指揮:小林 研一郎

ソプラノ:市原 愛

アルト:山下 牧子

テノール:笛田 博昭

バリトン:青戸 知

合唱:武蔵野合唱団

管弦楽:岩城宏之メモリアル・オーケストラ(コンサートマスター:篠崎 史紀)

ベートーヴェン:交響曲第1番~第9番

写真提供=メイ・コーポレーション(C)MichikoYamamoto

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ)スポーツニッポン新聞社勤務の傍ら音楽ジャーナリストとして活動。スポニチ紙面、ウェブにおける取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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