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必聴!

今年の東京・春・音楽祭の聴きどころ①「ローエングリン」

 東京・上野の春を彩る「東京・春・音楽祭」(以下、東京春祭)。前身である「東京のオペラの森」から数えると14回目となる今年は、オペラ公演からオーケストラ・コンサート、室内楽、リサイタルなど50公演以上が開催されるなど、国内最大規模の総合音楽祭として大きな注目を集めている。そこで今年の東京春祭の聴きどころ、みどころを2回にわたって紹介する。(宮嶋 極)

 

【東京春祭ワーグナー・シリーズ 「ローエングリン」】

 東京春祭といえば、何といっても最大の注目はワーグナーの舞台作品を毎年1作ずつ、演奏会形式で上演する「東京春祭 ワーグナー・シリーズ」であろう。昨年の「神々の黄昏」でマレク・ヤノフスキ指揮による「ニーベルングの指環(リング)」4部作が完結。今年はワーグナー中期の名作「ローエングリン」が上演される。

 

ウルフ・シルマー(C)Kirsten_Nijhof

①上演について

 指揮はウィーン国立歌劇場やザルツブルク音楽祭、ベルリン・ドイツ・オペラなどドイツ語圏のオペラ劇場や音楽祭で活躍するウルフ・シルマー。シルマーといえば、昨年11月に新国立劇場で再演されたリヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」(ジョナサン・ミラー演出、東京フィル)における見事な音楽作りが記憶に新しい。

 複雑なシュトラウスのスコア(総譜)を細部にわたって丁寧に再現しつつも、小さくまとめることなく音楽の流れを柔軟に創造し、そこに内在する情感を見事なまで引き出していたからだ。ロマン的な要素の強い「ローエングリン」でもこの手腕はいかんなく発揮されるはすで、高い評価を得てきたヤノフスキとはまた、ひと味違ったワーグナーの魅力を提示してくれることが期待できそうだ。

クラウス・フロリアン・フォークト(C)Harald Hoffmann

 題名役は21世紀の「ミスター・ローエングリン」ともいえるクラウス・フロリアン・フォークト。透明感に満ちた伸びのある美声とイケメンぶりはこの役にピッタリで、これまでもワーグナー作品上演の総本山とされるバイロイト音楽祭をはじめ、ウィーン国立歌劇場、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場などの世界のひのき舞台でこの役を演じ大成功を収めている。

レジーネ・ハングラー

 相手役のエルザはウィーン国立歌劇場でめきめきと頭角を現しているレジーネ・ハングラー。強く輝きのある声が持ち味で、ワーグナー作品にはうってつけのソプラノである。さらにエギルス・シリンス(テルラムント)、ペトラ・ラング(オルトルート)、アイン・アンガー(ハインリヒ王)といったバイロイトの常連歌手たちが、脇を固める。これだけの顔触れの実力派歌手を集めての上演は、本場ヨーロッパの劇場でもめったにないことである。

エギルス・シリンス

 「東京春祭 ワーグナー・シリーズ」のもうひとつの魅力といえば、ドイツものを得意とするNHK交響楽団が演奏を担当すること。このオーケストラの最大の美点である重厚なサウンドを駆使した緻密なアンサンブルはワーグナー作品にはうってつけ。同団ゲスト・コンサートマスターのライナー・キュッヒル(ウィーン・フィル前第1コンサートマスター)の豊富なオペラ上演経験に裏打ちされた卓越したリードも毎年、毎年大きな賛辞を集めていることも特筆しておきたい。

ペトラ・ラング(C)Ann Weitz

②作品について

 「ローエングリン」は、ワーグナーの作風が一層充実し、楽劇というスタイルに進化・発展していく過渡期に作られたオペラである。ワーグナー自身は「3幕からなるロマンティック・オペラ」と名付けてはいるものの、その実は限りなく「リング」などと同じ「楽劇」に近いスタイルで書かれている。

 その第一は、各幕ともに途中にアリアやアンサンブルを挟むことなく、音楽に息の長い連続性を持たせることで、言葉との関連性をより緊密なものとしていること。

アイン・アンガー

 第二には、人やもの、状況などを決まった旋律で表す「ライトモティーフ(示導動機)」の概念をより明確にし、多用し始めている点。「ローエングリン」においては「禁問の動機」がその代表例と位置付けることができよう。

 第三には、「タンホイザー」まで存在した序曲を採用せずに、より短い前奏曲に置き換えている点。前奏曲は、序曲に比べて簡潔にその幕の性格を表現できるのと同時に、音楽のみが延々と続くことがない分、本編に対する観客・聴衆の集中度が増すことにもつながる。

甲斐栄次郎

 第四は、オーケストラの編成の拡大。オペラ史上初の完全3管編成を必要とし、バンダ(舞台上や舞台裏などに配置する別動隊)も活躍する。オーケストラの編成を大きくしたことで、より多彩な響きを作り出すことが可能になった。

 

 物語はキリスト教の聖杯伝説をベースにワーグナー自身がオリジナル台本を執筆。10世紀前半のアントワープを舞台に、王位継承に関するトラブルで窮地に陥ったお姫さま(エルザ)を白鳥に引かれて登場する美しい謎の騎士が救うというもの。窮地を救った騎士はお姫さまと結婚することになるのだが、そこでは決して騎士の素性はもちろん、名前すら尋ねてはいけないという特異な誓いが課せられる。この「禁問の誓い」をめぐって再びさまざま陰謀がめぐらされ、ストーリーは展開していく。

 音楽は全般に美しく、合唱が雄弁な役割を果たすことも特徴となっている。第1幕、第3幕への前奏曲や第3幕冒頭の「婚礼の合唱」など演奏会や結婚式などにおいて単独で演奏される名曲も多い。

 

 ワーグナーの熱烈なファンであり大パトロンでもあったバイエルン王国のルートヴィヒ2世は「ローエングリン」の世界を現世に再現しようとノイシュヴァンシュタイン城を建設したといわれている。この城はバイエルン州フュッセン南方の山の上にそびえ建つ白亜の城郭で、ドイツ旅行ガイドブックやパンフレットの表紙などにしばしば使われるなどドイツの観光、とりわけロマンティック街道の象徴的建築物となっている。ちなみに東京ディズニーランドの象徴である「シンデレラ城」のモデルになったのもノイシュヴァンシュタイン城だったとされている。

 

作品データ

作曲:1846~48年

原作:ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの叙事詩「パルツィヴァール」

コンラート・フォン・ヴュルツブルクの「白鳥の騎士」

グリム兄弟の「ドイツ伝説集」 ほか

台本:1841〜45年、作曲家自身の手によるドイツ語のオリジナル台本

初演:1850年8月28日、ヴァイマール宮廷劇場

指揮:フランツ・リスト

設定:10世紀前半のアントワープ

スヘルデ河畔の裁きの場(第1幕)

アントワープの城内・外(第2幕)

アントワープ城内→スヘルデ河畔の裁きの場(第3幕)

 

☆登場人物

ハインリヒ・デア・フォーグラー:ドイツ王

ローエングリン:白鳥に引かれて現れ、エルザを助ける謎の騎士。神がかり的なパワーを持つ。その素性はおろか、名前さえ明かさない。

エルザ・フォン・ブラバント:ブラバント公国の公女。ぬれぎぬを着せられ絶体絶命の危機に直面している。

ゴットフリート公:エルザの弟。ブラバント公国の正当な継承者。(子役)

フリードリヒ・フォン・テルラムント:ブラバントの実力伯爵。妻のオルトルートにそそのかされ、ブラバントの簒奪(さんだつ)を企む。

オルトルート:テルラムントの妻。魔力を持ち奸計(かんけい)にたけた女性で、夫をたきつけて公国の乗っ取りを企む。

王の伝令

ブラバントの貴族4人

小姓4人

ザクセンとチューリンゲンの伯と貴族たち

ブラバントの伯と貴族たち

高貴な女性たち  ほか

 

☆オーケストラ楽器編成

フルート3(3番はピッコロ持ち替え)、オーボエ3(3番はコールアングレ持ち替え)、クラリネット3(3番はバス・クラリネット持ち替え)、ファゴット3、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、シンバル、トライアングル、タンバリン、ハープ、弦5部

舞台上・裏のバンダ(ピッコロ1、フルート2〜3、オーボエ2〜3、クラリネット2〜3、ファゴット2〜3、ホルン3〜4、トランペット4〜12、トロンボーン3〜4、ティンパニ、シンバル、小太鼓、トライアングル、オルガン、ハープ)

 

公演データ

【東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.9 「ローエングリン」】

4月5日(木)17:00/8日(日)15:00 東京文化会館大ホール

 

ワーグナー:ロマンティック・オペラ「ローエングリン」(全3幕演奏会形式、ドイツ語上演 字幕・映像付き)

 

指揮:ウルフ・シルマー

ローエングリン:クラウス・フロリアン・フォークト

エルザ:レジーネ・ハングラー

テルラムント:エギルス・シリンス

オルトルート:ペトラ・ラング

ハインリヒ王:アイン・アンガー

王の伝令:甲斐 栄次郎

ブラバントの貴族:大槻 孝志、髙梨 英次郎、青山 貴、狩野 賢一

小姓:今野 沙知恵、中須 美喜、杉山 由紀、中山 茉莉

合唱:東京オペラシンガーズ

合唱指揮:トーマス・ラング、宮松重紀

音楽コーチ:トーマス・ラウスマン

映像:田村 吾郎

管弦楽:NHK交響楽団(ゲスト・コンサートマスター:ライナー・キュッヒル)

 

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ)スポーツニッポン新聞社勤務の傍ら音楽ジャーナリストとして活動。スポニチ紙面、ウェブにおける取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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