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アンコール

フランス音楽で魅了した常任指揮者最後の定期~パスカル・ヴェロと仙台フィル

 仙台フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者、パスカル・ヴェロの任期最後の定期公演が、3月17日に仙台市内で行われた(日立システムズホール仙台)。プログラムは就任以来度々取り上げ、近年ロシア音楽、アメリカ音楽とともに柱のひとつとして取り組んだフランス音楽だ。多様なリズムやコントラスト、混沌(こんとん)とする近代フランス音楽の魅力を伝えるプログラムの妙はもとより、ホールを埋め尽くす満席の聴衆に、改めて指揮者ヴェロが長年にわたり培ってきた絆を目にすることになった。

退任後は楽団初の桂冠(けいかん)指揮者となるパスカル・ヴェロ

 公演はサティの「グノシエンヌ」の1番から3番と「ジムノペディ」で幕を開けた。いずれもサティの代表的なピアノ曲だが、今回は「グノシエンヌ」のうち3番はプーランクが編曲した管弦楽版を、「ジムノペディ」の1番と3番はドビュッシーが編曲を手掛けた管弦楽版を取り入れた。また曲順を入れ替え、グノシエンヌ第1番、3番、2番に切れ目なくジムノペディの第3番、2番、1番を続け、あえてピアノと管弦楽とが交互になるよう演奏された。ピアノはこれまでも仙台フィルとの協演を重ね、ヴェロの信頼も厚い横山幸雄。横山は冒頭からモノクロの世界を静かに訥々(とつとつ)と奏でるが、控えめながら響きが立っており、その分シンプルかつ旋法的な旋律の美しさを際立たせるものだ。対してオーケストラはやや抑え気味で靄(もや)がかかったようなトーンだが、これがプーランクの編曲により吹き込まれたハーモニーの美を静かに浮かび上がらせ、そのコントラストを存分に味わうことのできる構成だった。

 ところが、この構成の最後、ハープが出てくるジムノペディの第1番から、対比を際立たせていたピアノとオーケストラが徐々に溶け合い始める。一体化したところで、切れ目なく次曲、ヴァンサン・ダンディの「フランスの山人の歌による交響曲」を演奏したことに、その意図を感じるようでおもしろく聴いた。一部は拍節さえ持たない前曲とは対照的に、本作は循環形式でしっかりと構築され、また通常の協奏曲と違ってピアノは管弦楽の一部のように扱われている。前半2曲との対比は明らかで、興味深い演出だった。

 ちなみにこのヴァンサン・ダンディは、セザール・フランクに師事して形式的・構築的な音楽を残しながら、古楽の復興や作曲の教程づくりを行うなど、フランス近代音楽を語る上で欠かせない。にもかかわらず演奏機会に恵まれないのは、同じように形式的な作りを持つドイツ音楽などと比べて未熟に見られてしまい、また作品の壮大さにばかり焦点を当て、演奏がなされてしまうことがその一因ではないだろうか。対して今回の演奏は縦横無数に織りなされる鮮烈な響きが強烈に印象付けられ、有機的に繰り返されるテーマと響きの妙がうまく表現されていた。

ピアノに横山幸雄を迎えて

 休憩を挟み、後半はフランス音楽におけるさまざまなリズムを体感できる内容で、まずは「高雅で感傷的なワルツ」と「ラ・ヴァルス」が切れ目なく演奏された。こちらは弦が艶やかな音色へと変わり、洒脱(しゃだつ)なリズムで独特なデュナーミクを表現。言語と音楽の密接な関わりはよく言われることだが、まさにフレーズに付されるアクセントとフレーズ終わりの引き波のような対比は、センスなくしては奏でられなかったろう。

 そして公演は、ワルツとは対照的に小太鼓のリズム定型の上に繰り広げられる「ボレロ」で最高潮を迎えた。ひとり、またひとりと奏者が加わり、最終的にすべての奏者で大団円を迎えるこの「ボレロ」に、指揮者のヴェロと楽員の絆を重ねあわせた方も多いのではないだろうか。事実、ヴェロは指揮台に立ち微妙に音楽に合わせて体が揺れることはあっても、終盤まで指揮をすることはなかった。終演後に尋ねると、見えないところで指揮することもなく、オーケストラに任せていたというから驚きだ。実は以前にインタビューをする機会があり、「彼らはいまではボレロに見られるようなフランス的なセンスを身に着けているから大丈夫。私はポケットに手をつっこんでいますよ(笑い)」と話していたのだが、さすがにポケットに手を入れはしなかったものの、楽員を信頼してのことだったのだろう。音楽がクライマックスに差し掛かると最後から2小節目で「パン」と手をたたいて終曲を迎えるという、なんとも粋な演出で幕を閉じ、聴き手ははじかれたように拍手を送ったのだった。

最後にシャンソン「枯葉」を歌って別れを惜しむヴェロ。コントラバスの助川龍とともに

 公演はこれで終わらず、アンコールではヴェロが一番好きだというシャブリエの「ハバネラ」に加え、コントラバス奏者・助川龍を伴い、シャンソン「枯葉」でヴェロが聴衆との別れを歌った。「枯葉」では聴衆もラララで加わり、聴き手とのつながりを温めてきたヴェロならではのサプライズだ。演奏後、次々と立ち上がり、万雷の拍手を送り続けた聴衆。ヴェロはそれに応えてじっと客席を見回し、その光景を目に焼き付けているかのようだった。

 このプログラムにも表れているが、ヴェロは演奏機会の少ない作品をあえて取り上げ、聴き手の新たな作品への興味を広げてきた。またベルリオーズの「レリオ」や幻想交響曲に代表されるように、時には演出も用い、作品の理解やたのしみを共有することを惜しまなかった。アメリカ・プログラムなどは楽員とともにみずから帽子をかぶって演じることもあり、まさにエンターテイナーでもあった。終演後にいち早くロビーに立ち、聴衆を見送っていたのも印象に残る。音楽的な貢献も大きく、色彩豊かな音色づくり、洒脱なリズムはフランス人のヴェロならではの感性だろう。何より、細かいフレーズを丁寧に紡いで大きなスケールを作り上げるとき、本来的に仙台フィルが持つ良さが発揮され、良演が繰り出された。今回、公演の最後にホールの大多数の人々が立ち上がって拍手を贈ったことには、こうしたヴェロへの感謝とねぎらいが込められていたのだろう。ポスト就任からおよそ12年。ヴェロとの年月は、仙台フィルの歩みの中で大きな意味を持つに違いない。

(仙台在住 音楽ジャーナリスト 正木 裕美)

演奏後には聴衆が次々と立ち上がり、万雷の拍手を送った

公演データ

【仙台フィル 第317回定期演奏会】

3月17日(土) 日立システムズホール仙台

指揮:パスカル・ヴェロ

ピアノ:横山幸雄

管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団

 

サティ:グノシエンヌ第1番、第3番、第2番

サティ:ジムノペディ第3番、第2番、第1番

ダンディ:フランスの山人の歌による交響曲 作品25

ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ

ラヴェル:ラ・ヴァルス

ラヴェル:ボレロ

 

筆者プロフィル

 正木裕美(まさき・ひろみ) 国立音楽大学(音楽教育学)、同大学院(音楽学)修了。クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災発生後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材に力を入れている。

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