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アンコール

マーラー5番、グロテスクな「重み」 サカリ・オラモ指揮 BBC交響楽団

(C)堀田力丸

【サカリ・オラモ、BBC交響楽団来日公演2018年】

 この3月上旬、BBC交響楽団は11日間8公演という日本ツアーを行った。同交響楽団は2010年、13年にもそれぞれイルジー・ビエロフラーヴェクとアンドリュー・デイヴィスに率いられて来日していたが公演数は限られていた。そのため今回の公演は近年にない久々の大規模日本ツアーということになった。

 ロンドンには多くのオーケストラやアンサンブルがひしめいていて毎晩のようにどこかでコンサートが行われているが、中でも五つの常設オーケストラ(ロンドン交響楽団、BBC交響楽団、ロンドン・フィルハーモニック、フィルハーモニア管弦楽団、ロイヤル・フィルハーモニック)はその中核をなす。設立年でいえばBBC交響楽団はロンドン5大オーケストラの中で2番目に古い歴史を持つが、それに比して他の4オーケストラほど演奏では海外に大きな印象を残してこなかったように思う。その理由は明らかで、名称の通りBBC響はBBC(英国放送協会)のためのスタジオ・オーケストラで、仕事の中核は放送目的の演奏やコンサート。華々しさを前面に出す必要はなかった。

(C)堀田力丸

一見地味な活動だが実力は抜群のBBC響

 その傾向は今でも引き継がれているようで、例えばインターネット上の公式サイトはBBCサイトの一部門という体裁の地味なもので、ネット時代の昨今、情報発信ツールとして積極的に活用されているようには見えない。直近2回の日本公演の規模が地味だったのも同じ理由だろう。

 振り返ればインターネットが普及する以前、音楽的情報発信では必須アイテムであったレコーディングも地味なもので、往年のレコードファンでもマルコム・サージェントによるロマン派やピエール・ブーレーズ指揮の近現代曲以上に記憶に残る演奏がどれだけあったか、思い出すのに苦労するだろう。

 もっとも、放送目的のオーケストラの質が劣るということではない。BBC響は第一級の国際水準のオーケストラであるべしというビーチャムの提案に沿って設立され、そのためにそれ以前に放送用に契約していた演奏者を一斉解雇したほどだった。

 現在のBBC響は放送だけでなくロンドン交響楽団が定期演奏会を開くバービカンホールで、同じく定期演奏会を開いており、また海外ツアーにも積極的に出るようになった。

 そして、近年にない本格的な日本ツアーということで、13年に首席指揮者に就任したサカリ・オラモに率いられ、今回は相当な力が入っていたように見える。

(C)堀田力丸

重厚な首都圏コンサート

 首都圏で行われたプログラムは二つ。ひとつはブリテンの歌劇「ピーター・グライムズ」から〝四つの海の間奏曲〟と〝パッサカリア〟、ソリストにアリーナ・ポゴストキーナ(ヴァイオリン)を迎えたチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ニ長調、それにブラームスの交響曲第1番 ハ短調(3月8日、ミューザ川崎)。もうひとつが小菅優(ピアノ)のソロでラフマニノフのピアノ協奏曲第2番ハ短調とマーラーの交響曲第5番嬰(えい)ハ短調(3月11日、サントリーホール)。

 双方とも現在のBBC響の実力がよく表れたプログラムとなっていた。古典的重厚な作品からロマン派、それに20世紀のレパートリー。現在ブラームス、マーラー、ブリテンで第一級の演奏ができるならば、そのオーケストラは世界第一級である。

 まず川崎で行われたコンサートでは、出だしの「ピーター・グライムズ」の〝夜明け〟から、これ以上ないアンサンブルを聴かせた。弱音で始まる弦楽部と木管楽器の掛け合いは絶品で、細かい強弱の動かし方も理想的。イギリスのオケならではのこれ以上にないブリテンだった。レコーディングでは、〝パッサカリア〟は四つの間奏曲の後に入っていることが多いが、今回は〝月光〟の後4番目に演奏され、シンフォニックなクライマックスを作り終曲の〝嵐〟へとつながる考えられた曲順だった。

 ブラームスの交響曲第1番はオラモが頻繁に取り上げ造詣深い曲だが、古楽演奏的な解釈が広まる昨今、大オーケストラの機能と音量を十二分に発揮したツボを得た演奏を久しぶりに聴けた。

 一方、マーラー交響曲第5番はマーラーブームが興隆する以前、長らく世間に奇妙な交響曲という印象を与えていたようなグロテスクな演奏。マーラーが楽曲の中心と呼ぶスケルツォは、空中分解寸前なぐらい各パートがきめ細かく演奏され、有名なアダージェットでは愛に浸る耽美(たんび)さはなく常に不安がまとわりつく解釈。終楽章ではコーダの前からテンポを著しく変え、オラモ独自のマーラー像を打ち出すなど75分間全く息の抜けない「重み」を感じる演奏だった。

 ポゴストキーナと小菅優を迎えたコンチェルトの演奏も聴き応えあり、特にラフマニノフの第1楽章で厚みのある弦楽部の演奏が際立っていた。

 いずれももう一度聴きたいと思わせるコンサートであった。

(音楽評論家 山田 真一)

(C)堀田力丸

公演データ

【東芝グランドコンサート2018 サカリ・オラモ指揮BBC交響楽団】

指揮:サカリ・オラモ

ヴァイオリ:アリーナ・ポゴストキーナ

ピアノ:小菅 優

管弦楽:BBC交響楽団

 

○3月8日(木)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

ブリテン:歌劇「ピーター・グライムズ」より

〝四つの海の間奏曲〟Op.33a、〝パッサカリア〟Op.33b

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35

ブラームス:交響曲第1番ハ短調Op.68

 

○3月11日(日)14:00 サントリーホール

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18

マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調

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