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アンコール

キレのよいリズムから生まれる高揚感~~パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK交響楽団「ウエスト・サイド・ストーリー」

写真提供:Bunkamura

 20世紀後半を代表する指揮者で、作曲家としても数々の名作を残したレナード・バーンスタインの生誕100年を記念して開催されたパーヴォ・ヤルヴィ指揮、NHK交響楽団による「ウエスト・サイド・ストーリー」の演奏会形式上演。せりふパートの大半はカットされ、さながら「ウエスト・サイド・ストーリー」歌唱付き組曲のようなスタイルの上演となった。

 晩年のバーンスタインに指導を受けた経験のあるヤルヴィだが、公演のプログラム誌に掲載されたインタビューの中で、今回このようなスタイルを取った理由を説明している。それによるとバーンスタインが「キャンディード」を自身の指揮で上演した際、登場人物をあまり動かさずに歌わせ「これが一番よかった」と語っていたとし、ヤルヴィも「〝ウエスト・サイド・ストーリー〟の音楽にフォーカスするのは、意義深いことなのではないかと考えた」のだという。アーサー・ローレンツの台本、スティーヴン・ソンドハイムによる作詞、そしてバーンスタイン自身による音楽はいずれもその出来栄えは秀逸であったからこそ、20世紀後半の米国を代表する名作として21世紀の今日も光を放っているのであるが、今回はあえて音楽のみにスポットを当ててその魅力を紹介しようとの試みであった。

写真提供:Bunkamura

 ヤルヴィとN響の演奏は〝雑味〟をすべて取り除いたクールかつスタイリッシュなもの。ジャズのスウィングの要素やブルース的な色合いはやや薄かったが、音楽に内在するエネルギーの解放は十二分に行われ、「アメリカ」や「ザ・ダンス・アット・ザ・ジム」などのナンバーにおける切れのよいリズム運びとそこから生まれる高揚感は目を見張るものがあった。こうした作品を演奏するとN響のプレイヤーの技術的水準の高さを改めて確認することができる。そんな彼らが奏でたブロードウェイ・ミュージックはエンターテインメントの領域を超えて20世紀の芸術音楽へと昇華されたものに感じられた。それもヤルヴィの意図のひとつであったのかもしれない。

 歌手陣はマイクを使っての歌唱。マリアを歌ったジュリア・ブロックら数名は、PA(音響機器)なしでも十分通用するのではないかと思わせる声量であった。

 演奏面では十分満足しうる出来であったが、一点残念だったのは冒頭記したようにせりふパートのかなりの部分がカットされていたため、字幕を追っている限りにおいては物語の進行が、幾分唐突に感じられる場面があったことである。オーケストラだけの演奏中に字幕で各シーンの補足説明がなされていたら多くの聴衆がより深く作品の世界に入り込むことができたのではないだろうか。

写真提供:Bunkamura

 話は脱線してしまうが、バーンスタインについては筆者にも忘れがたい思い出があるので最後に紹介しておきたい。それは1990年夏、札幌で開催された第1回パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)を取材した際のことである。私が札幌を訪れた日、バーンスタインはロンドン交響楽団とのリハーサルを行っていたのだが、そこは取材禁止であった。巨匠がどんな指示を出すのか、興味が尽きず、筆者は政治記者が国会内で扉に耳を当てて内部の様子を探るようにリハーサル室のドアに耳を押し付けてリハの様子を〝盗み聴き〟していた。すると突然ドアが開いて、当時バーンスタインのチーフ・アシスタント的な存在であった指揮者の大植英次が現れ、「そんなことしているなら、ぼくが先生に話してあげるから、中に入って聴きなよ」と導き入れてくれたのである。休憩となり大植は筆者をバーンスタインのもとへ連れて行き、「東京から来た記者で、熱心なのでリハを聴かせてあげていいですか?」と聞いてくれた。するとバーンスタインは筆者をガシッとハグして、耳元で「サンキュー・ベリー・マッチ。アイ・ニード・ユー(ありがとう。私にとっても君が必要だよ)」とささやいてくれたのである。いきなり心臓をわしづかみにされたような衝撃が走ったことを昨日のことのように思い出す。私はすっかりバーンスタインの虜(とりこ)になってしまった。レニーの愛称で多くの人に愛された彼の魅力の一端を体感する貴重な機会となった。(宮嶋 極)

写真提供:Bunkamura

公演データ

【パーヴォ・ヤルヴィ&N響 ウエスト・サイド・ストーリー~レナード・バーンスタイン生誕100年記念】

2018年3月4日(日)15:00 6日(火)15:00 オーチャードホール

 

バーンスタイン:「ウエスト・サイド・ストーリー」(コンプリート・ブロードウェイ・スコア版 演奏会形式 英語上演日本語字幕付き)

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

マリア:ジュリア・ブロック

トニー:ライアン・シルヴァーマン

アニタ:アマンダ・リン・ボトムス

リフ:ティモシー・マクデヴィット

ベルナルド:ケリー・マークグラフ 

アクション:ザカリー・ジェイムズ

A・ガール:アビゲイル・サントス・ヴィラロボス

ロザリア:竹下みず穂

フランシスカ:菊地美奈

コンスエーロ:田村由貴絵

ディーゼル/スノーボーイほか:平山トオル

ベビー・ジョン:岡本泰寛

A・ラブ:柴山秀明

ジェッツ、シャークス:東京オペラシンガーズ

ガールズ:新国立劇場合唱団

管弦楽:NHK交響楽団

 

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ)スポーツニッポン新聞社勤務の傍ら音楽ジャーナリストとして活動。スポニチ紙面、ウェブにおける取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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