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名教師ザハール・ブロンが愛弟子とともに日本フィルと初協演

インタビューに応じるザハール・ブロン

 ヴァイオリニストとして活躍する傍ら、ヴァディム・レーピン、マキシム・ヴェンゲーロフら世界トップクラスのヴァイオリニストを数多く育てた名教師として知られるザハール・ブロンが日本フィルハーモニー交響楽団と初協演する。これは15日に東京芸術劇場で開催される同楽団の「サンデーコンサート」。ブロンはヴァイオリン独奏と指揮を担当。現在の愛弟子、服部百音との協演も予定されている。このコンサートを前にブロンが「クラシックナビ」の単独インタビューに応え、このコンサートの聴きどころや、自らが世に送り出した弟子たちについて語ってくれた。(宮嶋 極)

 ブロン門下生は今、世界のヴァイオリン界の中枢を占めていると言っても過言ではないだろう。日本人ヴァイオリニストでもベルリン・フィルの第1コンサートマスター樫本大進、ソリストとして世界的活躍を続ける庄司紗矢香、チャイコフスキー国際コンクールで優勝した神尾真由子らそうそうたる顔触れの音楽家が名前を連ねる。今回は現在の愛弟子、服部百音とともにバッハの2挺のヴァイオリンのための協奏曲、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲などを演奏、指揮する。チャイコフスキーでは独奏をブロン自身ではなく、弟子の服部に委ねた。今年19歳の服部についてブロンはこう語る。

 「モネはとてもユニークな才能の持ち主です。ここ数年、指導を続け協演も重ねてきましたが、その成長ぶりは驚くべきものがあります。彼女の音楽性は広がりを見せるだけではなく、この若さで深みを増しつつあるからです。ご存じのように私には数多くの素晴らしい弟子がいますが、その中でも今、特に注目すべき存在でしょう。今回のプログラムは日本フィルという素晴らしいオーケストラとの協演を通じて彼女のソリストとしての技量の高さを示すとともに、アンサンブリストとしての可能性を明らかにしてくれる構成になっています」

 今回、ブロンと日本フィルは初協演となるが、両者の間には意外な接点があった。

 「日本フィルの首席指揮者を務めているピエタリ・インキネン君も実は私の弟子だったのですよ。彼は指揮者として目覚ましい活躍を続けていますが、とても優秀なヴァイオリニストでもあるのです。昨年12月に私は70歳になったのですが、この2月にレーピンら教え子たちが集まってお祝いのコンサートを開いてくれました。その公演ではインキネンがヴァイオリンを弾くときは私が指揮し、逆に私がヴァイオリンを弾いた曲では彼が指揮をしてくれました。彼との出会いは(約20年前に)パリでマスター・クラスを開催したときのことです。フィンランドの若者が弟子にしてほしいと訪ねてきたのです。ヴァイオリニストとしての才能も豊かだったのですが、彼の素晴らしいところは教えたことを単に実践するだけではなく、しっかりと消化して自らの表現に練り上げていく才能の持ち主であったことです。その意味では指揮者に向いているといえるでしょう。2月のお祝いコンサートの折にインキネンが4月に自分が協演する日本フィルの首席指揮者を務めていることを知りました。インキネンからは個々のプレーヤーやセクションの技術的な水準が高く、とてもよいオーケストラだと聞いています。彼は日本フィルと充実した仕事ができていると言っていましたので、私も協演を楽しみにしていました」

 世界の第一線で活躍するヴァイオリニストを数多く世に送り出しているブロンだが、その指導法とはどのようなものなのか。

 「自分の成果を話すのはおこがましいような気持ちもありますが、200人以上のコンクールの覇者を育て、世界のヴァイオリン界の中核をなすようなエリートが私の弟子の中からたくさん生まれたことを、大きな誇りに感じています。私が教師として大切にしているポイントがふたつあります。ひとつはプロフェッショナルの音楽家として必要な要素を妥協なく教えること。そして教え子ひとりひとりの個性を見極めながら、より多くの個性を見いだし、この人にはこういうことを伝えよう、この子にはこうした課題を与えていこうというようなアプローチで臨んでいます。私がまだ若かったころ、幼かったレーピンやヴェンゲーロフが弟子入りしました。当時は私も教えることを始めたばかりで経験もなく、実験をするような気持ちで日々試行錯誤していましたが、この2人が大きく育っていくのを目のあたりにして、自分のメソッドに確信が持てるようになりました」

1980年代後半に、まだ無名だったレーピンやヴェンゲーロフを日本に帯同しその才能を紹介したことで、ブロンと日本の楽壇との関係は急速に深まっていった。名ヴァイオリニストではなく、名教師としてのブロンの存在が知られるようになると日本人ヴァイオリニストの入門希望者も増え始めたという。

 「80年代の終盤から私は英国やドイツで後進の指導を活発に行うようになっていたのですが、その頃、ダイシン(樫本大進)が弟子入りしてきました。彼を通して日本からの入門者がどんどんと増えて、庄司紗矢香、川久保賜紀、神尾真由子、木嶋真優、服部百音といった素晴らしい音楽家を育てることができました。日本人が持つ勤勉性や規律を重んじるというメンタリティーは音楽をやっていく上で間違いなくよい影響を与えるものだと思います。ただ、神様からもらった才能があるならば、しかるべき時に見いだして開花させ、伸ばしていかないと、それは埋もれてしまう。確かに国や地域によっていろいろな民族性やメンタリティーの違いは存在するのですが、それらはあくまでも才能を見いだし開花させた上で、加味されてこそ意味を成すものであると私は考えます。ですから今、名前を挙げた日本人の弟子たちも元々豊かな才能を持っており、それを適切な時期に適切な方法で開花させたからこそ、成功したわけです」

 そんな実績抜群の“ブロン先生”にヴァイオリンをはじめ、音楽を学ぶ若者たちに最も大切にしてほしいことを尋ねてみた。

 「音楽を学ぶ若い人たちに大切にしてほしいことがひとつあります。音楽を含む芸術には決して終わりはない、ということです。常に先に向かって進み、たゆまず上を目指してほしい。自分が頂点に達してしまったと感じたなら、それは衰退の始まりです。芸術にゴールや頂上はない、ということを肝に銘じて精進を続けてください」

 当たり前のようで含蓄のある言葉である。なお、ブロンは「トランス・シベリア芸術祭 イン ジャパン2018」の一環として開催される彼の70歳を祝う特別公演「スーパー☆ヴァイオリニスト夢の饗宴」(6月29日、オーチャードホール)にも出演する予定。同公演ではレーピン、樫本、服部ら第一線で活躍中の教え子たちとも協演する。

プロフィル

ザハール・ブロン 1947年、旧ソ連・カザフスタンのウラリスク生まれ。オデッサの音楽学校で学んだ後、60~66年グネーシン音楽学校でボリス・ゴールドシュタインに、66~71年モスクワ音楽院でイーゴリ・オイストラフに師事。同音楽院でオイストラフ教授の助手を経て、ノヴォシビルスク音楽院に移り、独自の指導法を開発して多くの優秀なヴァイオリニストを育てる。この間71年のエリザベート王妃国際音楽コンクール、77年のヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールに入賞。89年リューベック音楽院教授に就任。ロンドン王立音楽アカデミー、ロッテルダム音楽院などでも教壇に立った。

現在はケルン音楽大学、チューリッヒ芸術大学教授。また、チャイコフスキー、ジュネーヴ、クライスラーなど多くの国際コンクールで審査員も務めた。

公演データ

【日本フィルハーモニー交響楽団 第223回サンデーコンサート】

4月15日(日)14:00 東京芸術劇場コンサートホール

指揮&ヴァイオリン:ザハール・ブロン

ヴァイオリン:服部 百音

管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲

バッハ:2挺のヴァイオリンのための協奏曲

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏:服部百音)


筆者プロフィール

宮嶋 極(みやじま きわみ)スポーツニッポン新聞社勤務の傍ら音楽ジャーナリストとして活動。スポニチ紙面、ウェブにおける取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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