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新国立劇場20周年インタビュー

飯守泰次郎・芸術監督<上> 世界の一流とのオペラ上演 日本の若手に刺激

 新国立劇場が今年秋、オープンから20年を迎える。大・中・小三つの劇場からなる施設では連日、オペラ、バレエ、演劇などさまざまなジャンルの公演が開催され、活況を呈している。とりわけ、わが国初の常設オペラ劇場となったオペラパレス(大劇場)が日本のオペラ界、楽壇に果たした役割は大きい。そこで同劇場オペラ部門の飯守泰次郎・芸術監督と大野和士・次期監督に劇場の現在・過去・未来を語ってもらった。その1回目は任期最後の新制作演目、ベートーヴェンの「フィデリオ」の初日(20日)を目前に控えた飯守現監督に4年間の任期を振り返ってもらうとともに「フィデリオ」の見どころ、聴きどころについて聞いた。(宮嶋 極)

    ――新国立劇場が開館から20年を迎えます。この劇場が日本のオペラ界に果たした役割、成果はどのようなものだとお考えになりますか?

    飯守 国立オペラ劇場というのは、私が学生の頃から日本の楽壇全体の悲願でありました。それが実現したということ自体がまずは、素晴らしい出来事でしょう。もちろん日本におけるオペラに対する取り組みは1900年代から脈々と続けられてきました。私自身も藤原歌劇団や二期会の公演に関わっていたこともあります。そして、イタリア・オペラを手始めに世界各地のオペラ劇場の招へいなども盛んに行われるようになりました。素晴らしい上演は数々あったものの、海外からの招へいの場合、どうしてもチケット代が高額になってしまいます。新国立劇場ができたことにより、世界の第一線で活躍している歌手や演出家らによる素晴らしい舞台をリーズナブルな価格で多くの人に楽しんでいただけるようになった。さらにそうした一流の芸術家たちと日本の若手歌手や合唱団、オーケストラの皆さんが、チームを組んで公演や練習を行う。これによって彼らはさまざまな刺激を受けるというようなオペラの上演スタイルが定着したということも大きな意味を持つことでしょう。

    ――そうして制作されたプロダクションが20年の間にレパートリーとして蓄積された結果、高水準のステージをほぼ日常的に楽しめるようになったことも日本のオペラ・ファンにとって意義深いことではないでしょうか。藤原や二期会、そして海外からの招へい公演も芸術的には大変素晴らしいのですが、それは言うならば“点”の連続のようなものでした。これに対して新国立劇場の誕生によって“点”が“線”や“面”になったように感じます。

    飯守 点と線、その例えはその通りだと思います。そう言っていただけることは私たちにとっても大変ありがたいことです。

    ――飯守監督体制の4年間はとりわけワーグナー作品の新制作上演で注目を集め、各方面から高い評価を得ました。ご自身ではこの4年間をどう捉えていますか?

    飯守 私自身がこの劇場をそういう(ワーグナー作品に注力する)方向に持っていこうと意識していたわけではありません。この劇場を外国の劇場と比べたときの利点というのは、出演者や合唱、オーケストラ、バックステージのスタッフなど上演に携わるすべての人々の共同作業がとても円滑に機能していることです。これは、外国からの招へい歌手、指揮者、演出家らが皆こぞって驚嘆する点であります。私たちにとっては当たり前のことで、するべきことをしているだけなのですが。いつも皆がそろって“やりたい”という前向きの姿勢でリハーサルや公演に臨む。海外ではそうはいかないものです。ですから、ワーグナーのように大規模で複雑な作品に取り組むには、チーム一丸となって臨む新国立劇場の特質がとても有効に作用するわけです。いうならば、ワーグナーやリヒャルト・シュトラウスのような作品が新国立劇場に向いていたので、チームとしての組織力を最大限に発揮することができたわけです。ですから、私はそれに助けられたといえるでしょう。

    ――つまりイタリア・オペラのようにスター歌手による個の力が上演の成否に大きな影響を与えるオペラよりは、組織力がものをいう作品の方がより向いていた結果というわけですね?

    飯守 そうですね。私自身、指揮をしていて、これほどの高い水準に到達できるのかと、毎回驚かされました。新国立劇場の持つチーム力のなせる業といえるでしょう。

    ――芸術監督としての任期最後の新制作にベートーヴェン唯一の歌劇、「フィデリオ」を選び、その演出にはバイロイト音楽祭のカタリーナ・ワーグナー総監督を指名されました。まさに世界的な注目が集まるステージになりますね。

    飯守 彼女はまだ若いのですが、これからのオペラ界をリードしていくであろう貴重な存在です。それだけの新しいアイデアをたくさん持った方といえるでしょう。彼女が最初にバイロイトで演出を手掛けたのは2007年の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」でした。この時は斬新なアイデアで一定の評価を得た半面、若さを感じさせる面も否めなかったと思います。しかし、2015年に演出した「トリスタンとイゾルデ」では大変高い評価を得ました。そんな彼女の豊かなアイデアで「フィデリオ」を上演する。私自身、非常に楽しみにしています。

    ――「フィデリオ」についての監督のお考えをお聞かせください。

    飯守 ベートーヴェンのたったひとつのオペラですが、その深い哲学性とそれが聴衆にもたらす感動は他のオペラにはない特別なものがあります。オペラといえば、恋愛や裏切り、嫉妬、そのもつれから発生する殺人など、いわゆる三面記事で取り扱われるような内容がテーマになっていることが多いわけです。そういう物語に音楽が付くと素晴らしい芸術になるのですが、よく見てみると“なんだ、これは?”と驚いてしまうような物語が繰り広げられているのです。しかし、ベートーヴェンはそういうものでは決して満足しなかった。ですから台本作家探しにも大変苦労したのです。1800年代の初頭からかなりの時間と労力を費やしています。そうして行き当たったのが夫婦愛の尊さ、そして救出劇というテーマでした。当時はフランス革命後の激変の時代。そんな時代を背景にして、身の回りで起こる恋愛劇や事件ではなく、自らが追い求めてきた理想をオペラのテーマに選んだのです。そうした崇高なテーマをカタリーナさんがどのようなアイデアで描くのかが、今回の注目ポイントのひとつでしょう。(続く)

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