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アンコール

特別感のあるコンサートが満載 大満足のびわ湖クラシック音楽祭

 びわ湖ホールで今年から始まったゴールデンウイーク中の催し、「近江の春・びわ湖クラシック音楽祭」に行ってきた。国内外の実力ある音楽家を集め、さまざまな工夫を凝らし、廉価なのに中身が濃く、地の利も生かした、実に満足度の高い催しだったので、ここにご報告したい。

    (ジャーナリスト 江川 紹子)

     同ホールは、昨年で8年間行った「ラ・フォル・ジュルネ」を“卒業”。すべて独自の企画で音楽祭を行うこととし、4月から関連行事として滋賀県各地でさまざまな演奏会を開いてきた。

     本番は、5月4、5日の両日。初日は、大ホールで大植英次指揮大阪フィルハーモニー交響楽団による演奏会のほか、京都橘高校吹奏楽部のマーチングが披露され、中ホールではクラリネットのマイケル・コリンズとピアノの小川典子のデュオなどの演奏が行われた。小ホールでは「円熟を聴く」のテーマで藤原真理(チェロ)、渡辺玲子(ヴァイオリン)、野平一郎(ピアノ)など、まさに円熟期にある名手たちの魅力的な演奏会が八つ。

     私が参加したのは、2日目。まずは朝10時から小ホールで、オペラ界で活躍する歌手のリサイタルを五つ聴いた。一番手の森谷真理(ソプラノ)は、「真理のアヴェ・マリア」と題して、祈りの歌を5曲。ヴェルディ「オテロ」の“柳の歌~アヴェ・マリア”では、厚みのある、たっぷりとした声と繊細なヴォイス・コントロールで、死を予感したデズデーモナの心情を哀感を込めて歌い上げた。最後の、聞き手の心を揺さぶる「運命の力」より“神よ、平和を与えたまえ”には、立ち上がって拍手を送る聴衆も。

     続く与儀巧(テノール)は、トスティの歌曲を、「憧れ」から破局後の「未練」、さらに新たな「希望」などのテーマごとに並べ、一つの恋の始まりから終わり、そして新たな恋の始まりを予感させる物語仕立てにして美しく歌った。この日、小ホールの「歌手たちの競演」では八つの演奏会が行われたが、そのうち森谷、与儀を含めた六つで、歌曲伴奏の名手、河原忠之がピアノ演奏を務めた。

     音楽祭をプロデュースした沼尻竜典・同ホール芸術監督は、出身の桐朋高校・大学時代に学園祭実行委員を6回も務めたほど、催しの企画は得意。「以前から、自分がやるなら、演奏家自身も楽しめる、ただしお祭りだからといって演奏の質を犠牲にしない、そして普段できないことがここではできる、というものにしようと思っていた」と言う通り、この音楽祭ならではの演目がいくつもあった。

     その一つが、「沖縄のこころ」をテーマにした、砂川涼子(ソプラノ)のリサイタルだ。モノトーンの沖縄の着物に身を包み、髪をアップにまとめた砂川は、出身地である宮古島の民謡2曲を含め、沖縄の歌9曲を歌った。ピアノ伴奏付き、アカペラ、さらには「この日のために練習した」という三線(さんしん)での弾き語りなど、曲ごとに演奏に工夫を凝らした。「童神(わらびがみ)」は、よく知られたヤマトグチ(標準語)ではなく、ウチナーグチ(琉球語)で。

     この公演でピアノを弾いた沼尻も、砂川と同じ色調のかりゆし姿。民謡には楽譜がないものもあり、リハーサルの時に即興で伴奏をつけた、という。宮古島に伝わる子守歌“ばんがむり”では、寄せては返す波を思わせるピアノに、砂川の清らかで、伸びやかな声が重なり、独特の世界を描いた。お祝いの席で歌われる民謡「だんじゅかりゆし」では、会場から賑(にぎ)やかな指笛やかけ声も飛んで、沖縄らしさを盛り上げた。

     “さとうきび畑”を歌い終えた砂川が涙ぐむ場面もあり、最後は同じ沖縄県出身の与儀巧と共に“島唄”をデュエット。「島唄よ 風に乗り 届けておくれ 私の涙」との歌に、沖縄の悲劇に心を寄せる時間にもなった。日本を代表するプリマドンナの一人として、オペラ界での活躍著しい砂川の、日頃はなかなか聴けない特別な演奏会だった

     「ズボン役の世界」と題する林美智子(メゾ・ソプラノ)の演奏会も、びわ湖ホールならではの企画と言えよう。前半は、「フィガロの結婚」(モーツァルト)のケルビーノ、「こうもり」(ヨハン・シュトラウスⅡ)のオルロフスキーなど、男役のアリア4曲。ヘアバンドやワインの瓶、椅子などの小道具一つで、またたく間にオペラの世界を創り、観客を引き込む林らしい表現力がいかんなく発揮されていた。そして後半は、森谷、砂川が友情出演し、林とともに「ばらの騎士」(リヒャルト・シュトラウス)から二重唱を2曲、三重唱を1曲歌った。林のオクタヴィアン、森谷のマルシャリン、そして砂川のゾフィーという、所属団体の異なる3人の競演は、オペラハウスであるびわ湖ホールだからこその、ぜいたくなひとときだった。

     メインロビーで開かれた無料コンサートも、充実していた。私が聴いたのは、日本センチュリー交響楽団のクラリネット奏者、吉岡奏絵による20分ほどの演奏会。「くるみ割り人形」の変奏曲では、超絶技巧を交えた華やかで楽しい演奏を披露した。1階は立ち見客であふれ、演奏が始まると引き寄せられるように人が増えた。2階バルコニーも3方面とも最後まで人が鈴なりで、演奏後は大きな拍手がわき起こった。

     この間、昼食時にはびわ湖の景色を眺めながらワインを一杯。クラシック音楽の合間に、滋賀県選択無形民俗文化財の人形浄瑠璃「富田人形」で、安珍・清姫伝説を扱った地元の伝統芸能も楽しんだ。

     大ホールで行われたクロージングガラでは、沼尻指揮の京都市交響楽団が、森谷の歌やコリンズのクラリネットと共に、没後150年のロッシーニ、没後100年のドビュッシーなどの曲で競演した後、テノールの市原多朗が特別出演。「トスカ」の“星は光りぬ”で輝かしい声を響かせ、万雷の拍手を浴びた。コンサートの最後、ラヴェルの「ボレロ」は、観客も大盛り上がりだった。

     音楽祭の締めは、かがり火オペラ。舞台はホールの外、びわ湖畔にしつらえられた。黄昏(たぞがれ)時、ステージ横のかがり火に、沼尻と山中隆館長がトーチで火入れ式を行った。演目はパーセルの「ディドとエネアス」。魔法つかいによって恋の成就を阻まれた、カルタゴの女王ディドとトロイの王子エネアスの悲劇を描いた古代ギリシャの物語だ。びわ湖ホール声楽アンサンブルが、3月の定期公演で演奏会形式で披露したものに、演出や照明などをつけて本格的なオペラ上演とした。幸い天候にも恵まれ、温度も寒からず暑からず。視角に入る炎の揺らぎが幻想的な神話の世界にいろどりを与え、独特の雰囲気を醸し出した。これも、びわ湖畔という絶好のロケーションを生かした企画と言える。

     有料コンサートは1演目が40分~1時間で、チケット代が1000円から2000円というのもうれしい(18歳以下は割引も)。それでいて、内容はリッチな企画に、チケット完売の演奏会が相次いだ。私のように、朝から夕までみっちり有料8公演無料1公演を堪能しても、チケット代が1万円で収まるというのは、申し訳ないくらいだ。

     この他に、子どものためのワークショップや0歳児から入れるコンサート、琵琶湖を運航する客船上でのコンサートなど、子ども連れで楽しめる催しもあった。

     来年は、どういう企画になるのだろう。ぜひまた行きたいと思っている。

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