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アンコール

深まる台湾と東北の交流 リュウ・シャオチャと仙台フィルが紡いだ音楽の絆

 仙台フィルハーモニー管弦楽団の第320回定期演奏会に、台湾出身の指揮者、リュウ・シャオチャが登場した。レスピーギの組曲「鳥」とモーツァルトのピアノ協奏曲第9番「ジュノム」に続き、公演後半にはシベリウスの交響曲第2番をドラマティックに展開。圧巻のフィナーレで聴衆を魅了し、存在感を示した。(7月14日・日立システムズホール仙台)。

     2001年から5年間にわたりハノーファー国立歌劇場の音楽総監督を務めたリュウ・シャオチャは、現在フィルハーモニア台湾の音楽監督を務めている。「アジアの指揮者」とひとくくりにするなかれ、リュウはブザンソンをはじめとした三つの国際指揮者コンクールで優勝したのち、ミュンヘン・フィルやロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団などでタクトを執り、その実力が広く評価されている。またハノーバーのみならず、フランクフルト歌劇場やベルリン・ドイツ・オペラなどヨーロッパのオペラ・ハウスへたびたび客演しており、オペラへの造詣も深い。

     そのリュウ・シャオチャならではの、ドラマティックなオペラの展開を想起させる手法は、後半のシベリウスで際立った。深遠な響きの中に力をみなぎらせる第1楽章――イタリアに着想を得た作品として知られる第2番だが、この冒頭にはどう聴いてもシベリウスその人を育んだフィンランドの自然を思わずにいられない――を経て、第2楽章ではぐっと集中力を高め、盛り上げては引く急激なデュナーミクを効果的に重ねるリュウの指揮。第4楽章のフィナーレでは主題の変容に伴うさまざまな様相をつぶさに提示しつつも、山場を見据えた壮大なクライマックスを一呼吸に作り上げていった。まさに圧巻のフィナーレだったが、そこへ至るプロセスには、一歩引いて俯瞰(ふかん)しつつ流れを作る姿勢が垣間見え、リュウの構築力と音楽的知性が感じられた。

    ドラマティックなシベリウスのフィナーレに聴衆は万雷の拍手を贈った

     1点、私的な好みと贅沢(ぜいたく)を言うならば、フィナーレで陰影を湛(たた)えながら怒濤(どとう)のクレッシェンドを繰り返す中、個々の奏者がさらに、音色の対比や濃密な掛け合いを意識しても良かったかもしれない。これは演奏会の冒頭、レスピーギの「鳥」でも同様に感じられた。鳥に関するバロック音楽を集めて用いたこの作品は、レスピーギらしい快活さや鮮やかさ、さらにはバロック音楽ならではの立体的な掛け合いと方々で鳥がさえずる様が相まって、空間ごと写実的に表現されている。もちろん今回の演奏でも、弦楽器のざわめきや叙情的なソロはところどころ美しく、レスピーギが描いた鳥たちの様子をそれぞれに奏でていた。しかし欲を言えば、リュウのタクトに鋭く反応し、音色もさまざまに呼応する鳥たちの“サラウンドな空間”を聴かせてほしかったのだ。感度の高いアンサンブルが臨場感あふれる鳥たちの世界を描き出したとき、さぞかしそれは色鮮やかに聴こえただろう。

    9月7日には同じ「ジュノム」を広島交響楽団と予定しているキム・ヒョンジュン

     演奏会の中盤には、仙台国際音楽コンクールの覇者、キム・ヒョンジュンを迎えて、モーツァルトのピアノ協奏曲第9番「ジュノム」が演奏された。フィルハーモニア台湾から招いたコンサートマスター、リ・イーチンと仙台フィルの神谷未穂、2人のコンマスのリードによって、弦が冒頭の第1主題を叙情豊かに歌い紡ぐ。これに対し、意外にもピアノのキムはやや硬めの音色、流れよりも作りを意識した旋律運びで応えたが、第2楽章以降は起伏に富んだオーケストラの音楽づくりにぴたりと呼吸が合い、キムの鋭い音への感性から生み出される美しい音色も際立った。さらに第3楽章のオーケストラとの一体感、またニュアンスに富んだ変化は特筆すべきで、それゆえにたびたび顔を出すロンド主題との対比が生き、みずみずしい情熱があふれ出る好演だった。また演奏後、キムは聴衆の拍手にアンコールで応え、ドビュッシーの前奏曲集第1巻から「亜麻色の髪の乙女」を披露した。指先でもなく腕でもなく、まるで体がピアノと共鳴するように紡ぎ出される玉虫色の響きは、やはりこのピアニスト最大の持ち味だろう。仙台ゆかりの若きピアニストに、今後もエールを送りたい。

    記念碑を訪れた(右から)リュウ・シャオチャ、リ・イーチン、神谷未穂と佐藤仁・南三陸町長

     なお、演奏会初日の7月13日、指揮者のリュウ・シャオチャとゲスト・コンサートマスターのリ・イーチンは、仙台フィルの神谷未穂とともに南三陸町を訪れた。これは、東日本大震災で南三陸町に支援をした台湾への感謝の碑を訪れるためで、リハーサルと公演の合間を縫って訪れた彼らを、佐藤仁町長らが温かく迎えた。

     もともと台湾は親日的として知られ、今回の西日本の豪雨災害についても蔡英文総統がいちはやく支援を表明し、義援金2000万円を送っている。フルーツの即売会を開き、そこで得た利益を義援金として送るなど、民間での支援も広がっているそうだ。これは先の東日本大震災でも同様で、官民を問わず支援の姿勢を示した台湾の人々の思いは、木下諄一氏の「アリガト謝謝」(講談社)に詳しい。物語として書かれているが、これらはすべて木下氏の取材と在台経験に基づいている。つづられている人々の温かい支援の数々には、驚きを禁じ得ない。

     さまざまな支援の中でも、今回一行が訪れた南三陸病院(旧志津川病院)とケアセンターは、台湾赤十字から総工費の4割にあたる22億2000万円もの支援を受けて再建された。病院が新設された志津川地区の高台には町役場や災害公営住宅が整備されており、病院はバス高速輸送システム(BRT)気仙沼線の駅も兼ねるなど、町民にとってなくてはならない存在だという。佐藤町長は「台湾でも地震がありましたよね。支援のために募金を行うと、こんなに小さい町だけれどものすごい金額が集まるんですよ。それだけ、病院の再建のために支援してくださったことに南三陸の人々は感謝の気持ちを持っているのです」と感謝の意を述べた。町ではこの支援を機に、高校生らを台湾から招いて民泊や震災学習を継続的に行い、双方の絆を深めているそうだ。

     今回リュウ・シャオチャら一行は、町役場を訪れ、再建された病院を見学。併せて病院前に建てられた記念碑を訪れて、台湾と南三陸の人々に思いをはせた。リュウは自らは語らなかったが、東日本大震災直後の2011年3月18日、台北で開催したフィルハーモニア台湾との定期演奏会でいち早く追悼演奏を行い、哀悼の意を示している(7月26日現在、YouTubeで視聴可能)。それから7年たち、今回リュウは南三陸の人々の感謝の意を刻む石碑を前に、「心に触れました。台湾からの支援については知っていましたが、これほどまでに感謝の気持ちを寄せてくださっていることは知らなかった。人々が殺し合い憎しみ合うことも多い世の中で、助け合い信じ合うことがいかに大切かを改めて感じました」と話してくれた。くしくも震災が紡いだ台湾と東北の絆。今回の共演と訪問を機に、音楽でもさらに深まることを願ってやまない。(正木裕美)

    ☆公演データ

    【仙台フィルハーモニー管弦楽団の第320回定期演奏会】

    7月13日(金)19:00 14日(土)15:00 日立システムズホール仙台

    指揮:リュウ・シャオチャ

    ピアノ:キム・ヒョンジュン

    管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団

    レスピーギ:組曲「鳥」

    モーツァルト:ピアノ協奏曲第9番 変ホ長調 K271「ジュノム」

    シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 作品43

    筆者プロフィル

     正木裕美(まさき・ひろみ) 国立音楽大学(音楽教育学)、同大学院(音楽学)修了。クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災発生後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材に力を入れている。

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