メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

アンコール

9、10月の在京オーケストラの演奏会から

NHK交響楽団=NHK交響楽団提供

 9、10月に開催された在京オーケストラの演奏会から、注目の公演をいくつかピックアップして振り返る。

     NHK交響楽団は9月が首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ、10月は桂冠(けいかん)名誉指揮者のヘルベルト・ブロムシュテットが指揮台に立ち、それぞれABCすべてのプログラムを指揮した。ブロムシュテットは今年91歳、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルをはじめとする世界の名門オーケストラから引っ張りだこの活躍を続けているが、初共演以来37年間にわたって深い関係を築いてきたN響とは、とりわけ息の合った名演を繰り広げることでも知られている。今年は4月の定期公演に続いて2度目の来演となった。

     今回はAプロ(10月13、14日、NHKホール)がモーツァルトの交響曲第38番とブルックナーの交響曲第9番。Bプロ(24、25日、サントリーホール)はベートーヴェンの交響曲第6番とスウェーデンの作曲家ステンハンマルの交響曲第2番、そしてCプロ(19、20日、NHKホール)ではハイドン交響曲第104番とマーラー交響曲第1番といずれも前半は古典派、後半は巨匠が得意とするロマン派の作品を取り上げた。

     筆者は3プログラムの初日をすべて聴いたが、驚くべきは高齢の指揮者にありがちな「枯れた芸風」を一切感じさせないことである。足取りも確かで全公演立ったままで、よどみない指揮ぶりを披露。ブルックナーでは、ゆっくりとしたテンポで朗々と音楽を進めていくスタイルではなく、むしろ攻撃的ともいえるほどのアクティブな音楽作りに驚かされた。この日、コンサートマスターを務めたのが、ゲスト・コンマスのライナー・キュッヒル(ウィーン・フィル前第1コンマス)だったこともあり、弦楽器全体が大きくスピード感のある弓使いで、指揮者の要求に応え、激しく波打つように弾き進めていく様は圧巻であった(特に第2楽章)。金管をタップリと響かせ、強弱のコントラストを明快につけて壮大かつ深遠なブルックナー像を描き出していた。

     いつも感じることであるが、ブルックナーは不思議な作曲家である。指揮者がさまざま工夫を凝らし激しくタクトを振るよりも、自らの主張ではなく作品へ無心となって向かい合うことができたとき、オーケストラのメンバーに不思議な力が宿り、聴く者の心を大きく揺り動かす。ブロムシュテットとN響によるこの日のブルックナーはまさに、そうした感動をもたらす名演であった。

     また、Cプロのマーラーの交響曲第1番もこの作曲家の青春期の旺盛な意欲を感じさせる生命力あふれる演奏。ここでもブロムシュテットが自らの解釈や思いを前面に打ち出すのではなく、作品に虚心坦懐(きょしんたんかい)に向き合って、その特質を浮き彫りにしていくことに最大限の力を注いでいることが伝わってきた。Aプロに続いて、この日もオーケストラが退場しても客席の盛大な喝采は鳴り止まず、ブロムシュテットがステージに呼び戻された。また、一部の楽員が涙ぐんでいたようにも見えた。

     N響への次回来演は来年11月、楽しみである。

    N響定期Aプログラムより、御年91歳のブロムシュテット(中央)とコンマスのキュッヒル=NHK交響楽団提供

     10月、N響のほかにもブルックナーの交響曲第9番を二つのオーケストラが定期演奏会で取り上げた。つまり、1カ月間に3種類の演奏を聴き比べることができたのである。さすが、世界屈指の音楽消費都市、東京である。

     そのひとつは、ピエタリ・インキネン指揮、日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会(12、13日、サントリーホール、取材は12日)である。

     同団首席指揮者のインキネンは、全体にゆっくりとしたテンポでひとつひとつの響きを丁寧に整えながら、大きな伽藍(がらん)を建てていくような正統派のアプローチ。日本フィルの透明感のあるサウンドもなかなか美しい。必要以上に力むことなくオーケストラを牽引(けんいん)して堂々たる音楽を構築していく様は、この指揮者の非凡さを示すものであった。前半はシューベルトの交響曲第5番。

    インキネン指揮日本フィル、10月定期より (C)山口敦

     もうひとつは音楽監督・上岡敏之が指揮台に立った新日本フィルハーモニー交響楽団定期演奏会(27日、サントリーホール 28日、横浜みなとみらいホール、取材は27日)。こちらは第3楽章に続けて「テ・デウム」ハ長調を演奏。これはブルックナーの〝遺言〟とされているスタイルだが、その真意、真偽は必ずしも明らかになっておらず、最近では一緒に演奏されることは珍しくなっている。

     上岡のブルックナーは音符のひとつひとつに彼の神経が行き届いた緻密な作りで、金管楽器を突出させずに、全体としてオルガンのような響きを構築していくのが特徴。この日もこのスタイルは変わらず、主旋律と対旋律の絡み合いをつぶさに浮き彫りにし、各パートの音量やそのバランスを厳格にコントロールして、彼の目指すブルックナーのサウンドに肉薄しようと渾身(こんしん)の指揮を繰り広げた。確かにその徹底ぶりは驚くべきもので〝玄人受け〟する演奏なのではあるが、終演後の客席の〝温度の低さ〟には少々気になるものがあった。コンサートマスターの崔文洙こそ、全身を使った熱演を見せていたものの、オーケストラが一丸となっての〝熱気〟が、今ひとつ聴衆に伝わっていなかったように感じたのは筆者だけであろうか。

     9月23日の同団定期でチェコの名匠ペトル・アルトリヒテル指揮でスメタナの連作交響詩「わが祖国」全曲を演奏した際の新日本フィルは、詩情あふれるこの作品を、伸び伸びと、そしてダイナミックに歌い上げ、客席を大いに沸かせていた。弾いている楽員は、とても楽しそうでステージから放出される熱量も多かった。これに比べて上岡による作り込まれたブルックナーが終わった後、ホール全体のテンションがあまり上がらなかったのはなぜなのか、気になるところである。

    緻密な作りでブルックナーを聴かせた上岡と新日本フィル (C)堀田力丸

     この2カ月間でもうひとつ注目したのは、古楽界の鬼才として話題を集めるイタリア出身の指揮者で、リコーダー奏者でもあるジョヴァンニ・アントニーニが客演した読売日本交響楽団の10月のマチネーシリーズ(20、21日、東京芸術劇場)、名曲シリーズ(16日、サントリーホール、取材は20日)である。プログラムはヴィヴァルディのドレスデンの楽団のための協奏曲、マンドリン協奏曲、リコーダー協奏曲、J・S・バッハのマンドリン協奏曲、そして最後にハイドンの交響曲第100番ト長調「軍隊」というユニークな構成。読響のようなモダン・オーケストラではほとんど取り上げないであろうヴィヴァルディやバッハのマンドリン協奏曲やリコーダー協奏曲。いずれも新鮮な驚きの連続で、とにかく面白かった。プログラム誌を読むと、アントニーニの客演実現には特別客演コンサートマスターの日下紗矢子が関わっているようだ。ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団第1コンマスを務める傍ら室内アンサンブルの活動なども積極的に行うなど、ヨーロッパ楽壇の最前線で活躍する彼女の経験とセンスが光るコンサート、ということができよう。

    ユニークなプログラムで魅了したアントニーニ(右)と読響。中央はマンドリン奏者のアヴィ・アヴィタル (C)読売日本交響楽団

     バロック、古典派時代の作曲家在世当時の楽器や演奏法を再現することで、作品本来の響きや長らく忘れられていた魅力を再発見しようとのピリオド(時代)スタイルの最先端を走るアントニーニの多彩な要求に、読響が柔軟かつアグレッシブに応えていたことに何より感心させられた。1曲目、「ドレスデン…」の最初の和音が鳴った瞬間から、その響きの美しさには目を見張るものがあった。ピリオド奏法の場合、弦楽器はヴィブラートをかけない。オーケストラの弦楽器奏者は通常、ヴィブラートをかけることで微妙な音程調整を行っているのだが、ノー・ヴィブラートの場合、いわば一発勝負。セクション全体が調整なしで常に正しい音程で弾き続けることが求められる。読響の澄んだ美しい響きは、全員が正確な音程で弾いていることの証しであり、このオーケストラの技術水準の高さを示すものである。

     メインのハイドンでは、アントニーニの全身を使った変幻自在の指揮に、オケ全体がまるでネコ科の猛獣のように俊敏かつ、しなやかに反応して躍動感にあふれた音楽を創り出していた。一瞬たりとも退屈しない、刺激的なコンサート。モダン・オーケストラであってもたまには、こういうのもいいものである。

    (宮嶋 極)

    公演データ

    【NHK響 A・B・Cプログラム】

    指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット(全公演共通)

    管弦楽:NHK交響楽団

    ・第1894回 定期公演 Aプログラム

    10月13日(土)18:00、14日(日)15:00

    いずれもNHKホール

    モーツァルト:交響曲第38番 ニ長調 K504「プラハ」

    ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調(コールス校訂版)

    ・第1896回 定期公演 Bプログラム

    10月24日(水)19:00、25日(木)19:00

    いずれもサントリーホール

    ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 Op68「田園」

    ステンハンマル:交響曲第2番 ト短調 Op34

    ・第1895回 定期公演 Cプログラム

    10月19日(金)19:00、20日(土)15:00

    いずれもNHKホール

    ハイドン:交響曲第104番 ニ長調 Hob.I-104「ロンドン」

    マーラー:交響曲第1番 ニ長調「巨人」

    【日本フィル 第704回東京定期演奏会<秋季>】

    10月12日(金)19:00、13日(土)14:00

    いずれもサントリーホール

    指揮:ピエタリ・インキネン

    管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

    シューベルト:交響曲第5番 変ロ長調 D485

    ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調 WAB109

    【新日本フィル 第596回定期演奏会ジェイド& 特別演奏会第7回サファイア】

    10月27日(土)14:00 サントリーホール

    28日(日)14:00 横浜みなとみらいホール

    指揮:上岡敏之

    ソプラノ:山口清子

    アルト:清水華澄

    テノール:与儀巧

    バス:原田圭

    合唱:新国立劇場合唱団

    管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

    ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調 WAB109

    ブルックナー:テ・デウム WAB45

    【読響 第211回土曜日曜マチネーシリーズ】

    10月20日(土)14:00、21日(日) 東京芸術劇場

    指揮、リコーダー:ジョヴァンニ・アントニーニ

    マンドリン:アヴィ・アヴィタル

    管弦楽:読売日本交響楽団

    ヴィヴァルディ:ドレスデンの楽団のための協奏曲 ト短調 RV577

    ヴィヴァルディ:マンドリン協奏曲 ハ長調 RV425

    J.S.バッハ:マンドリン協奏曲 ニ短調 BWV1052

    ヴィヴァルディ:リコーダー協奏曲 ハ長調 RV443 

    ハイドン:交響曲第100番 ト長調「軍隊」

    筆者プロフィル

     宮嶋 極(みやじま きわみ)毎日新聞グループホールディングス執行役員、毎日映画社社長、スポニチクリエイツ社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. ORICON NEWS 南海キャンディーズが衝撃のコンビ不仲を初告白 『しくじり先生』復活
    2. 東名あおり、石橋被告に懲役18年 危険運転致死傷罪を認める
    3. 東名事故誘発 あおり公判 「パトカーにも幅寄せ」検察指摘
    4. ふたご座流星群、14日ピーク 夜半過ぎから好条件で観測
    5. 梅毒啓発へ漫画「コウノドリ」無料公開 講談社

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです