メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

アンコール

今秋の海外オーケストラの注目の公演振り返り①

 今秋も海外の名門オーケストラの来日が相次ぎ、首都圏のコンサートホールでは、まるで音楽祭のような豪華なステージが連日、繰り広げられた。それらの公演について2回にわたって振り返る。初回は2年ぶりの開催となった「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン」についてリポートする。(宮嶋 極)

    「ウィーン・フィル ウィーク」では本公演のほか、青少年のためのプログラムやマスタークラスなども行われた=サントリーホール提供

    【ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2018】

     ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の東京定期公演ともいえる「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン」。同フィルの日本公演は今回で実に34回目。海外のメジャーオーケストラの来日としては、もちろん最多である。「ウィーク イン ジャパン」としては、途中主催者を変えながらも(現在はサントリーホール主催)21回を数える。世界最高峰のオーケストラのひとつとされる名門だけに同行する指揮者も第一線で活躍する実力派マエストロばかり。今年は地元オーストリア出身のフランツ・ウェルザー=メストが指揮台に立ち、ブラームス、ブルックナー、ワーグナーの作品をそれぞれメインに据えた三つのプログラムを披露した。

    取材したのは、ワーグナーの楽劇「神々の黄昏」抜粋、ブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲などを取り上げたプログラムC(11月15日ミューザ川崎シンフォニーホール、24日サントリーホール)とラン・ランをソリストに迎えてのモーツァルトのピアノ協奏曲第24番、ブラームスの交響曲第2番などを演奏したプログラムA(20日サントリーホール)、そして19日にサントリーホールで開催された「室内楽スペシャル」の3プログラム。

    「室内楽スペシャル」より、打楽器アンサンブルはバーンスタインの“シンフォニック・ダンス”で魅了=サントリーホール提供

     今回の「ウィーン・フィル ウィーク」で筆者が最も印象深かったのは、19日の「室内楽スペシャル」である。オペラの中の名曲を弦楽はもちろん、木管楽器や金管楽器とさまざまな組み合わせのアンサンブルで聴かせるユニークなプログラム。その一例を紹介しよう。

     チェロの四重奏とハープによるマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲、第2ヴァイオリンのメンバーを中心にしたアンサンブルでワーグナーの「ローエングリン」第1幕への前奏曲、木管アンサンブルがモーツァルトの「フィガロの結婚」の名旋律をメドレーで、コントラバス四重奏による「カルメン」抜粋、打楽器アンサンブルによるバーンスタインの「ウェストサイド・ストーリー」から〝シンフォニック・ダンス〟など、いずれも普段はめったに聴くこと、見ることのできない組み合わせによるオペラの名旋律が次々と演奏された。

     〝本業〟がウィーン国立歌劇場管弦楽団団員であるウィーン・フィルならではの、音楽の楽しみ方、楽しませ方が満載のステージ。メンバーたちの希望をベースに楽器の組み合わせや選曲が行われたのだという。オペラの魅力を熟知する腕利きメンバーたちによる室内アンサンブルは、変化に富んでいて聴衆を楽しませてくれるものであり、演奏している側も楽しげであった。さらにコントラバス奏者のミヒャエル・ブラーデラーが日本語で司会を行うなど、自主運営のオーケストラであるウィーン・フィルの精神を象徴するかのような雰囲気のコンサートとなった。

    「室内楽スペシャル」より、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲を奏でたハープとチェロ四重奏=サントリーホール提供

     ちなみに先ごろウィーン・フィルのヴィオラ奏者、ティロ・フェヒナーと女優・中谷美紀の結婚が発表され注目を集めたばかりだが、同団の複数のメンバーが日本人と結婚している。しかし、ブラーデラーに日本人の家族はいないそうだ。約2時間のコンサートを軽妙に仕切ってみせた見事な日本語は、何度も来日するうちに身に着けたものを、さらにこの日のために特訓して磨いたのだという。聴衆を楽しませるための旺盛なサービス精神。こうしたことにもウィーン・フィルというオーケストラのマインドが表れている。

    楽団長を務めるダニエル・フロシャウアー=ウェルカム・パーティーで
    ウィーン・フィルとは8年ぶりに来日したフランツ・ウェルザー=メスト

     さて、肝心の本公演について振り返っていこう。15日にミューザ川崎シンフォニーホールで開催されたプログラムCのコンサートは、来日直後ということもあって疲労も蓄積していたのか、「神々の黄昏」では大事なところでミスが散見されるなど、いささか精彩を欠く出来であった。ウィーン・フィル独特のふくいくとした響きが影を潜め、やや硬めのサウンドが全体を支配していたことも気になった。しかし、アンコールで演奏したヨハン・シュトラウス2世のワルツ「レモンの花咲くところ」とポルカ「浮気心」になって、ようやく〝いつものウィーン・フィル〟を体感することができ、ひとまず安心。

    ブラームスの二重協奏曲ではフォルクハルト・シュトイデ(左)とペーテル・ソモダリがソロを務めた=サントリーホールで24日、同ホール提供

     翌週、前述の「室内楽コンサート」を経て、20日にサントリーホールで行われたプログラムAの公演では、さすがに旅の疲れからも解放されたのか、オーケストラ全体の調子が徐々に上がってきたことを感じさせる演奏を聴かせてくれた。1曲目、モーツァルトの「魔笛」序曲でウェルザー=メストは、従来のアーティキュレーション(音と音のつなぎ合わせ方)を一部見直し、弦楽器の長音にヴィブラートをかけずに弾かせるなど、ピリオド(時代)奏法の要素を取り入れた解釈を披露。ウィーン・フィルもこの要求に柔軟に応えて〝今〟を感じさせるモーツァルトに仕上げていた。

     2曲目のモーツァルトのピアノ協奏曲第24番では、ソリストのラン・ランが弱音の美しさと、ひとつひとつの音の粒立ちに重きを置いた独奏で、聴衆を作品の世界にグッと引き込んでいった。オーケストラは「魔笛」に続いて、協奏曲でもピリオドを意識したスタイルを通していたことで、ラン・ランの独奏ともうまくマッチしていた。

     メインのブラームスでは、前半、川崎と同じくいつもより少し硬めのサウンドが気になったが、曲が進むにつれてそれも徐々に解消されていき、最後は堂々たるクライマックスを築いて全曲を締めくくった。

    ウィーン・フィルとの協演歴も長いラン・ラン(ピアノ)=サントリーホール提供

     今回気になった硬めのサウンド、どうも旅の疲れだけではないのかもしれない。今年の来日メンバーを見ると大幅な若返りが図られていることが分かる。かつてウィーン・フィルの顔ともいうべき存在だったコンサートマスターのライナー・キュッヒルは定年のため引退(現在は、ソロや室内楽の活動、後進の指導などにあたっていることに加えて、NHK交響楽団ゲスト・コンサートマスターも務めている)。同じく名コンマスであったウェルナー・ヒンクやフルート首席のデイーター・フルーリー、クラリネット首席のエルンスト・オッテンザマー、ティンパニのローラント・アルトマンといった名奏者たちは、定年で退団または、亡くなったりしている。今回、コンマスを務めたのはドイツ出身のフォルクハルト・シュトイデ(47)と新任のブラジル系ドイツ人、ホセ・マリア・ブルーメンシャイン(33)の2人である。どちらも高度なテクニックを駆使してバリバリと弾くタイプ。もしかすると若いコンマスのキャラクターが、いつもと少し違うように感じられたウィーン・フィルのサウンドに何らかの影響を与えていたのかもしれない。とはいえ、この日もアンコールで演奏されたヨハン・シュトラウス2世のワルツ「南国のばら」、エドゥアルト・シュトラウスのポルカ「テープは切られた」では、私たちが聴きなじんできたウィーン・フィル本来のサウンドが全開となり、客席を大いに沸かせていた。筆者も含め日本の音楽ファンは、やはりウィーン・フィル独特の、あの華やかで、ふくいくとした調べが大好きなのである。

     音楽の世界にもグローバル化の波は確実に押し寄せてきている。伝統を大切にするウィーン・フィルでさえ、4人いるコンサートマスターのうちオーストリア人はライナー・ホーネックひとりになった。かつては、メンバー全員が旧ハプスブルク帝国の版図の中の出身者で固められ、各セクション、全員同じ系統の師匠の下で学び、ウィーン独特の奏法や表現スタイルを踏襲し続けることを大切にしてきた。そんなウィーン・フィルでさえ、多国籍化しその特色が薄らぎつつあるのかもしれない。かつてウィーン・フィルに〝音楽監督〟のように君臨した20世紀の巨匠指揮者カール・ベームは、ベルリン・フィルとウィーン・フィルの違いを聞かれ、こう答えている。「ベルリン・フィルは実力の低い指揮者が来ても演奏の水準を保つことができるが、ウィーン・フィルではそうはいかない。自分たちと合わない指揮者の下では実力を発揮することはない。何より私たち(自分とウィーン・フィル)は全員が皆同じウィーンなまりのドイツ語で話す仲間なのです」

     そんな考え方も過去のものになりつつあるのだろう。世代交代が進むウィーン・フィルを聴きながら、古き良き時代が何とも懐かしく感じられた。

    公演詳細

    【ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2018】

    11月15日(木)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

    11月24日(土)16:00 サントリーホール

    指揮:フランツ・ウェルザー=メスト

    ヴァイオリン:フォルクハルト・シュトイデ

    チェロ:ペーテル・ソモダリ

    管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

    ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」Op.92 B.169

    ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 Op.102

    ワーグナー(ウェルザー=メスト編):楽劇「神々の黄昏」~舞台祝祭劇「ニーベルングの指環」第3夜から抜粋

    11月19日(月) 19:00 サントリーホール

    室内楽:ウィーン・フィル メンバー

    ビゼー:「カルメン」より(コントラバス四重奏)

    ポッパー:演奏会用ポロネーズ Op.14(チェロ四重奏)

    マスカーニ:「カヴァレリア・ルスティカーナ」より間奏曲(チェロ四重奏、ハープ)

    ウェーバー:「魔弾の射手」J. 277 より〝狩人の合唱〟(ホルン四重奏)

    バーンスタイン:「ウェストサイド・ストーリー」より〝シンフォニック・ダンス〟(打楽器アンサンブル) ほか

    11月20日(火)19:00 サントリーホール

    指揮:フランツ・ウェルザー=メスト

    ピアノ:ラン・ラン

    管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

    モーツァルト:「魔笛」序曲 K. 620

    モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K. 491

    ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 Op. 73

    11月23日(金・祝)16:00 サントリーホール

    指揮:フランツ・ウェルザー=メスト

    管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

    ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調 WAB 105(ノヴァーク版)

    筆者プロフィル

     宮嶋 極(みやじま きわみ)毎日新聞グループホールディングス執行役員、毎日映画社社長、スポニチクリエイツ社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. ORICON NEWS 安室奈美恵さん、引退決断した理由語る 7年前に声帯壊し「限界なのかな」と不安も
    2. ORICON NEWS NGT48も松本人志も救う? “地獄見た”指原莉乃の神がかった対応力
    3. 平成最後のお年玉 年賀はがき当選番号が決定
    4. 埼玉・春日部共栄の野球部監督が暴力行為
    5. ORICON NEWS 松本人志、HKT指原への「体を使って」発言を弁明 カットしなかったのは「鬼のようにスベったから」

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです