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アンコール

ノット&東響の「フィガロの結婚」 ダ・ポンテ三部作がついに完結

ノット(指揮)とマルクス・ヴェルバ(フィガロ) 撮影:池上直哉 提供:東京交響楽団

 ジョナサン・ノット&東京交響楽団がモーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」を演奏会形式で上演した(12月7日ミューザ川崎シンフォニーホール、9日サントリーホール、取材は9日)。東響が音楽監督ノットとともに2016年の「コジ・ファン・トゥッテ」から1年に1作ずつ取り上げてきたモーツァルトのダ・ポンテ三部作が今回の「フィガロの結婚」で完結されたのである。

     この三部作では、国際的に活躍する歌手たちが招聘(しょうへい)され、舞台セットは組まないものの、歌手は演技をしながら歌唱する。演奏会形式と題されているが、実質的にはセミ・ステージ形式での上演だった(「コジ・ファン・トゥッテ」の時はドン・アルフォンソ役のトーマス・アレンが演出を担当した)。ノット自身がハンマーフリューゲルを演奏し、指揮者、歌手、オーケストラ、鍵盤楽器が同じ平面でパフォーマンスを繰り広げるのがこのシリーズの特徴といえる。

     フィガロにマルクス・ヴェルバ、スザンナにリディア・トイシャー、アルマヴィーヴァ伯爵にアシュリー・リッチズ、アルマヴィーヴァ伯爵夫人にミア・パーション、ケルビーノにジュルジータ・アダモナイト、マルチェリーナにジェニファー・ラーモア、バルバリーナにローラ・インコ、バジリオとドン・クルツィオにアンジェロ・ポラック、バルトロとアントニオにアラステア・ミルズという豪華な布陣。ミルズは演出監修も担った。

    (左から)アラステア・ミルズ(アントニオ、演出監修)、リディア・トイシャー(スザンナ)とジュルジータ・アダモナイト(ケルビーノ)撮影:池上直哉 提供:東京交響楽団

     ノットは、ただならない勢いで序曲を始めた。もちろん本編に入っても、ノットは、テンポよく、スピーディーに進める。部分、部分にこだわるよりも、全体の流れを優先させているように感じられた。ただし、ケルビーノの〝自分で自分が分からない〟のように緩急の変化を大胆につけ、青年の不安定な感情をリアルに描くような箇所もあった。

     歌手では、とりわけ、スザンナのトイシャーと伯爵夫人のパーションの澄んだ声の美しさに魅了された。ケルビーノのアダモナイトは粗削りな部分があったが、それはむしろ役柄にふさわしかったといえるかもしれない。ヴェルバは端正な歌唱で見事なフィガロを演じた。体調がすぐれないとのアナウンスがあったリッチズは、伯爵を演技も含めて好演したが、〝訴訟に勝っただと!〟ではいささか迫力が足りないようにも思われた。バルトロのミルズが素晴らしい。また、今回の公演では、第4幕で、省略されることの多い、マルチェリーナの〝牡山羊と牝山羊は〟とバジリオの〝若い頃には〟の二つのアリアが歌われた。世界的なメゾソプラノとして人気を博した、ベテランのラーモアが、そのマルチェリーナのアリアをこの日の大きな聴きどころの一つとした。

    写真右、ベテランならではの歌唱で魅了したジェニファー・ラーモア(マルチェリーナ)撮影:池上直哉 提供:東京交響楽団

     東京交響楽団は、ノットの求めるピリオド(時代)奏法的なアプローチによく応えていた。弦楽器が6、6、4、3、2という小ぶりな編成で、金管楽器はナチュラルホルン、ナチュラルトランペットを使用するので、通常とはかなり違ったバランス(管楽器が大きめ)の響きや音色が聴けた。

     ノットは、リゲティをはじめとする現代音楽のスペシャリストとしての知名度が高いが、ロンドンのナショナル・オペラ・スタジオのコレペティトゥアでオペラの世界に入り、フランクフルト歌劇場で副指揮者を務めた後、ヴィースバーデンやルツェルンの歌劇場のシェフとなった、たたき上げのオペラ指揮者でもある(ゆえに、ハンマーフリューゲル弾き振りも当然であろう)。これだけの歌だけでなく演技もできる歌手たちをそろえ、彼らを束ね上げた、アイデア豊富でドラマチックかつ柔軟性のある指揮に、ノットのオペラ指揮者としての素晴らしさをあらためて実感した。

     この度のノット&東響のダ・ポンテ三部作のように、歌手全員が完全に暗譜し、コンサートホールのステージ全体を使って演じ歌う形での“演奏会形式”は、音楽に親密感と真実味をもたらし、特にモーツァルトでは、オペラ音楽を楽しむのに最適の方法であるに違いないと思われた。(山田治生)

    カーテンコールでは聴衆がスタンディングオベーションでキャストをたたえた

    公演詳細

    【東京交響楽団 モーツァルト:「フィガロの結婚」(演奏会形式/全4幕/日本語字幕付き)】

    12月7日(金)18:30 ミューザ川崎シンフォニーホール

    12月9日(日)13:00 サントリーホール

    指揮&ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット

    演出監修&バルトロ&アントニオ:アラステア・ミルズ

    フィガロ:マルクス・ヴェルバ

    スザンナ:リディア・トイシャー

    アルマヴィーヴァ伯爵:アシュリー・リッチズ

    アルマヴィーヴァ伯爵夫人:ミア・パーション

    ケルビーノ:ジュルジータ・アダモナイト

    マルチェリーナ:ジェニファー・ラーモア

    バルバリーナ:ローラ・インコ

    バジリオ&ドン・クルツィオ:アンジェロ・ポラック

    合唱:新国立劇場合唱団

    管弦楽:東京交響楽団

    筆者プロフィル

     山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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