メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

アンコール

今秋の海外オーケストラの注目の公演振り返り②

バイエルン放送響と来日したメータ (C)青柳聡

 今秋行われた海外オーケストラ来日公演のリポート2回目。クリスティアン・ティーレマン指揮、シュターツカペレ・ドレスデンによる「シューマン交響曲ツィクルス」、ズービン・メータ指揮、バイエルン放送交響楽団、ニコライ・アレクセーエフ指揮、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団のステージを振り返る。(宮嶋 極)

    【クリスティアン・ティーレマン指揮 シュターツカペレ・ドレスデン〝シューマン・ツィクルス〟】

     ルーツをたどると1548年にザクセン選帝侯の宮廷楽団として創立されたシュターツカペレ・ドレスデンは470年の伝統を誇る名門オーケストラ。現在はザクセン州立歌劇場(ドレスデン国立歌劇場)の専属オーケストラとしてオペラ、コンサートに加えてザルツブルク・イースター音楽祭のホストオーケストラなどとしても活発な演奏活動を行っている。クリスティアン・ティーレマンが首席指揮者に就任したのは2012年。7シーズン目に入り、オーケストラとの関係は深みを増し、彼の意思が隅々にまで行き届くようになったことの自信の表れが今回のシューマン交響曲ツィクルスと位置付けることができそうだ。

     というのもフルオーケストラの海外公演の演目としては、シューマンの交響曲は曲の規模、編成など、いずれの面でもいささか地味な演目といえよう。あえて、そうしたプログラムで海外公演を行うところに、充実の成果を披露できるというティーレマンの自信が見て取れるからだ。

     実際、その演奏はピリオド(時代)奏法を取り入れた〝今風〟の軽やかなアプローチではなく濃密かつ変幻自在、ティーレマンならではの解釈を前面に打ち出したシューマンであった。取材したのは11月1日、サントリーホールでの公演で、演目は交響曲第3番変ホ長調「ライン」、第4番ニ短調。弦楽器の編成は14型、管楽器は譜面の指定通りの編成であった。

     シュターツカペレ・ドレスデンの首席指揮者に就任して以降、ティーレマンの音楽づくりは徐々に変わりつつある。以前は作為的にも感じられた大胆なテンポや強弱の変化が、より自然に行われるようになり、細部へのこだわりが一層顕著になったように感じられる。この日も第4番で、内声部の動きをしっかりと聴かせることに重きを置いていたようで、その結果、作品の構造面が強化されドラマチックで堂々たる音楽に仕上がっていた。21世紀の今、こういうシューマンの聴かせ方もあるのかと、少し驚かされた。聴衆はティーレマンの〝力業〟に圧倒され、終演後は盛大な喝采が湧き起こっていた。

    シュターツカペレ・ドレスデンを率いて来日したティーレマン (C)堀田力丸

     健康上の理由で首席指揮者マリス・ヤンソンスの来日がキャンセルとなり、代わって日本にやって来たのは今年82歳のズービン・メータである。メータといえば、今年になって重病のため手術を受け今春に予定されていたウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のヨーロッパツアー、5月のイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団との日本ツアーなどを相次いでキャンセルしたばかり。果たして、どんな指揮ぶりを見せてくれるのか。取材したのは11月22日、東京芸術劇場での公演(モーツァルト:交響曲第41番、マーラー:交響曲第1番)と25日、ミューザ川崎シンフォニーホールでの公演(シューベルト:交響曲第3番、ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」ほか)。

     驚いたのはステージに登場したメータの姿である。堂々たる体格だったマエストロはまるで別人のようにやせ衰え、ふたまわりくらい小さくなっていた。ステージ袖から指揮台まで、ひとりでは歩くことができず、介助を受けながらつえをついて指揮台の回転いすに腰掛け、おもむろにモーツァルトの演奏を始めたのだった。

     2階正面からは、右手を小さく動かすのみで演奏はオーケストラに任せているようにすら見えた。弦楽器は10型の対抗配置、管楽器は譜面の指定通りという小規模な編成。柔らかい響きを基調に、やや遅めのテンポで、安定感のある演奏であった。この安定感、ドイツ屈指の名門オーケストラであるバイエルン放送響の力のみで成り立っているのか、それともメータの統率力がそこに介在しているのか。どうしてもそれを確かめたくて、休憩後、よい事ではないのだがステージ横の席に移動してメータの指揮ぶりをじっくり観察してみた(指揮者とプログラムが変更となり払い戻しが行われたためか、ステージ横の客席には空席が目立っていた)。

     間近で見るとメータは病気の影響で足が弱っているだけで、頭脳は依然として明晰。驚くことに目で合図を送り、しっかりと指揮していたのだ。後ろからはほとんど動かさないように見えた左手も指で微妙なニュアンスを伝え、プレーヤーに視線を投げかけキューを出していた。コンサートマスター以下、各パートのトッププレーヤーたちはメータから発せられる微細なサインを見逃さないよう、指揮者の視線に最大限の注意を払い、パートごとにアイコンタクトを交わしながら演奏を組み立てていく。メータのためによりよい音楽を作ろうとの雰囲気がオーケストラ全体に満ちあふれており、指揮者を核に密度の濃いアンサンブルが繰り広げられていた。全体としてはどっしりとした基盤の上に構築された壮大な建造物のようなマーラーとなり、聴衆を十分に満足させ得る出来栄えであった。

     一方、25日の「春の祭典」もメータは暗譜で指揮。変拍子を細かく振ることはせずにポイント、ポイントで拍子を取って、よどみなくオーケストラに指示を出していく。バイエルン放送響の卓越した合奏能力を存分に引き出した「春の祭典」は、昨今流行のシャープでスタイリッシュな演奏とは対極をなすもの。濃密な響きと力強いリズム運びによって織り成された〝ハルサイ〟は説得力に富み、巨匠の風格を感じさせる名演であった。

     両日ともに拍手は鳴りやまず、22日はヨハン・シュトラウス2世のポルカ「爆発」、25日はチャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」第1幕からワルツをアンコール。オーケストラ退場後も拍手喝采は収まることなく、メータは車いすに乗ってステージに再登場し、両手を合わせて歓呼の声に応えていた。

     筆者はその姿に東日本大震災が発生した2011年のことを思い出し、目頭が熱くなった。震災発生当時、フィレンツェ歌劇場の引っ越し公演で日本に滞在していたメータは、その惨状を目の当たりにし、心を痛めたという。歌劇場の日本公演は中止となったがメータは自らの意思で再び日本を訪れ、NHK交響楽団を指揮して被災者支援のチャリティー・コンサート(プログラムはベートーヴェンの交響曲第9番)を開催した時のことである。福島第1原発事故の影響で、海外の音楽家たちの来日キャンセルが相次ぐ中、自ら強く希望してチャリティー公演を行ってくれたことは、日本の多くの音楽ファンにとって忘れがたい思い出となっている。

     25日の公演では、オーケストラが退場した後に舞台に戻ったメータに客席のあちこちから「ありがとう!」の声が飛んでいた。メータは来年11月のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の日本公演の指揮者にも決まっている。さらに回復が進みさらに元気な姿で、また素晴らしい音楽を聴かせてほしいものである。

    聴衆の声に応えて演奏後のステージに再登場したメータ=ミューザ川崎シンフォニーホールで11月25日(C)青柳聡

    【ニコライ・アレクセーエフ指揮、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団 日本公演】

     サンクトペテルブルク・フィルの日本公演も当初予定されていた、芸術監督ユーリ・テミルカーノフが健康上の理由から来日できなくなり、同団副芸術監督のニコライ・アレクセーエフが指揮台に立った。取材したのは11月11日、文京シビックホールの公演(ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番、チャイコフスキー:交響曲第5番)と13日、サントリーホールでのコンサート(プロコフィエフ:オラトリオ「イワン雷帝」)。ピアノ協奏曲の独奏はニコライ・ルガンスキー。

     アレクセーエフは2000年にテミルカーノフの下でサンクトペテルブルク・フィルの指揮者となり、その後副芸術監督に就任し今日に至っている。旧ソ連・レニングラード音楽院でマリス・ヤンソンスらに師事、カラヤン国際指揮者コンクールなどいくつかのコンクールで入賞後、ザグレブ・フィルハーモニー交響楽団、バルト3国のエストニア国立交響楽団の首席指揮者などを歴任してきた職人肌のマエストロである。

     急きょピンチヒッターを務めたにもかかわらず、両公演とも手堅い手腕でオーケストラをまとめ、ロシアを代表する名門オーケストラの海外公演としては一定の水準をクリアする演奏に仕上げていた。「イワン雷帝」のような大掛かりな作品でも手際よく、そして表情豊かに音楽を進めていく手腕はなかなかのものである。ただ、これまでサンクトペテルブルク・フィルといえば、圧倒的なテクニックとパワーを全開にして、聴衆に有無を言わせないような演奏を聴かせてくれる、との印象が強かった。しかし、今回はそうした突き抜けたようなすごさを感じる要素はあまりなかったことは、少し残念であった。随所で「ここはテミルカーノフだったら、どうだったのだろう」との思いが頭をよぎってしまった。

    アレクセーエフとサンクトペテルブルク・フィル=写真はサントリーホールでの公演(C)Suntory Hall

    公演詳細

    【シュターツカペレ・ドレスデン】

    指揮:クリスティアン・ティーレマン

    管弦楽:シュターツカペレ・ドレスデン

    10月31日(水)19:00 サントリーホール

    シューマン:交響曲第1番 変ロ長調「春」 Op38

    シューマン:交響曲第2番 ハ長調 Op61

    11月1日(木)19:00 サントリーホール

    シューマン:交響曲第3番 変ホ長調「ライン」 Op97

    シューマン:交響曲第4番 ニ短調 Op120

    【バイエルン放送交響楽団】

    指揮:ズービン・メータ

    管弦楽:バイエルン放送交響楽団

    11月22日(木)19:00 東京芸術劇場コンサートホール

    モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調「ジュピター」

    マーラー:交響曲第1番 ニ長調「巨人」

    11月25日 (日)18:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

    シューベルト:劇音楽「ロザムンデ」序曲 D797

    シューベルト:交響曲第3番 ニ長調 D200

    ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

    11月26日(月)19:00 サントリーホール

    ピアノ:エフゲニー・キーシン

    リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調 S124/R455

    R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」Op40

    11月27日(火)19:00 サントリーホール

    ピアノ:エフゲニー・キーシン

    リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調 S124/R455

    ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

    【サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団】

    指揮:ニコライ・アレクセーエフ

    管弦楽:サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団

    11月11日(日)15:00 文京シビックホール

    ピアノ:ニコライ・ルガンスキー

    ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番

    チャイコフスキー:交響曲第5番

    11月12日(月)19:00 サントリーホール

    ヴァイオリン:庄司紗矢香

    シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 Op47

    ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 Op27

    11月13日(火)19:00 サントリーホール

    語り:ニコライ・ブロフ

    合唱:東京音楽大学合唱団

    プロコフィエフ:オラトリオ「イワン雷帝」Op116

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 誤って高圧幹線を切断 大阪・高槻で病院など停電
    2. 飛び交う「ええかげんにせえや」 大阪都構想の法定協が大混乱
    3. 小室圭さんが謝罪コメント発表 母の金銭トラブルで経緯説明
    4. SNSにも動画 背景に「カワウソブーム」 警視庁2容疑者逮捕
    5. 特集ワイド 「アベ政治ノー」訴え続ける 木内みどりさん 「言うべきこと」萎縮無用

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです