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アンコール

大野和士×都響 意欲的なプログラミングの定期公演

都響の音楽監督として二つの定期でタクトを執った大野和士 (C)堀田力丸

 2019年の幕開けに東京都交響楽団、音楽監督の大野和士が登場する二つの定期公演は、1月10日のサントリーホールがヴァイオリニストのパトリツィア・コパチンスカヤを迎えシェーンベルクのヴァイオリン協奏曲とブルックナーの交響曲第6番、15日の東京文化会館ではテノール歌手、イアン・ボストリッジによるマーラーの「少年の不思議な角笛」とプロコフィエフの交響曲第6番という、マーラー以外は演奏会で取り上げられる機会が少ない作品が並んだ。チャレンジングなプログラミングから定期会員との信頼関係とオーケストラの矜持(きょうじ)を示した二つの定期公演をリポートする。(毬沙 琳)

    シェーンベルクの協奏曲でソリストを務めたコパチンスカヤ=サントリーホールで1月10日 (C)藤本史昭

     10日に行われた定期演奏会Bシリーズでは前述のとおりシェーンベルクとブルックナーという正月気分が吹き飛ぶようなプログラムにもかかわらず完売となっており、サントリーホールの前には、寒空をものともせず「チケット求む」の紙を手にした熱き心を持つ音楽ファンの姿も。ソリストが強靭(きょうじん)なテクニックと表現力でその存在感を際立たせているコパチンスカヤであることへの期待感と注目度の高さをうかがい知ることができた。

     熱いファンの思いに応えるコパチンスカヤは白のドレスで登場、光沢のあるきらびやかなものではなく、まるで画家がイーゼルに立てかけた真新しいキャンバスのような生地で個性的なデザインだ。無調音楽の世界に誘うみこのようである。

     指が6本必要ともいわれる秘曲の扉が開かれると、その音はやがてめまぐるしく瞬間ごとに変化をとげていく。ひとつひとつの音がその音色まで説得力を持って解き放たれるのは、真っ白なキャンバスに多彩な色遣いとタッチで仕上がっていく抽象画を見ているようだ。オーケストラも微妙な音の変化に反応して実にスリリング。自在なソリストと一体感となる協奏曲を創り上げた大野のタクトは、長きにわたる現代曲の発掘やオペラへの取り組みを続けてきたマエストロの本領発揮に他ならない。

     終楽章ではオーケストラの音を楽しみ、そのリズムに身を委ねるような表情も見せ、裸足でステージを踏みしめるコパチンスカヤらしいシェーンベルクは最後まで心を捉えて離さなかった。熱気に包まれたブラボーが飛び交う3回のカーテンコールに応える達成感に満ちたチャーミングな笑顔も印象的だった。

     後半のブルックナーの交響曲第6番は、後期の7番へつながる珠玉のメロディーが魅力的だ。大野のタクトからも冒頭のリズムを貫きながら、美しい旋律が各セクションで丁寧に歌われる。金管の咆哮(ほうこう)は鳴り響くオルガンのように、ブルックナーのエッセンスは残しつつ、跳躍するリズムが心を解き放つ6番の交響曲はブルックナー特有の余韻を残さない。一人の作曲家の残した作品にもさまざまな色があるのだ。シェーンベルクとブルックナーというエッジの効いたプログラムは、やはり刺激的だった。

    「少年の不思議な角笛」でソリストを務めたボストリッジ=東京文化会館で1月15日 (C)堀田力丸

     15日の定期演奏会Aシリーズはブゾーニの喜劇序曲で始まった。軽快な疾走感が心地よく、オペラが始まるような高揚感を誘う。マーラーと同時代のブゾーニによる極上のアペリティフから、イアン・ボストリッジによる「少年の不思議な角笛」にバトンを渡すという周到なプログラム。

     ほんの数小節で、深い思索から紡ぎ出される都響のマーラーの響きに世界が一変する。その中で、風に吹かれる柳のように体を大きくしならせながら歌い、詩の世界に憑依(ひょうい)するボストリッジは、舞台上では声のみの存在であるような錯覚にさえ陥る。時にはオーケストラの音の渦に取り込まれるほど、ボストリッジの声とオーケストラが一体化する場面もあった。

     今回取り上げた全5曲のうち前半2曲は〝ラインの伝説〟〝魚に説教するパドヴァのアントニウス〟でアイロニーを含むファンタジーの世界を、後半の〝死んだ鼓手〟〝少年鼓手〟〝美しいトランペットの鳴り渡るところ〟では戦場を舞台に様相が変わる。離ればなれになった恋人への思いや、別れの間際に交わす最後の言葉に込められた感情の高ぶりは、聴き手の心臓に突き刺さる。オーケストラも言葉に反応しながら狂気すら感じるほどに歌と一体となり、〝美しいトランペットの鳴り渡るところ〟の死する兵士が見ている幻影の恋人に会う場面では、アダージェットのように琴線に触れる音で心が震えた。

    大野和士率いる東京都交響楽団 (C)藤本史昭

     戦争を通した人間の無念な思いを歌い、それが後半のプロコフィエフの交響曲第6番へとつながる。第二次世界大戦後最初に手がけたこの作品は、戦争中に書き留めていたモチーフも含まれているという。プログラム誌に書かれていたプロコフィエフの「偉大な勝利を喜んでいても、一人一人は癒やすことのできない傷を負っており、愛する人々がいなくなった人もいれば、健康を失った人もいる。これは決して忘れられるものではない」という言葉が心に染み入る。

     叙情的なメロディーからは戦争が終わり人生に希望を見いだそうとする力を感じるが、戦列の行進を思わせるリズム、重い足取りのメロディーは戦争の匂いを消すことができない。終楽章のヴィヴァーチェは、ようやく取り戻した日常生活、その快活な世界が、桎梏(しっこく)となる音に遮られもする。更に叙情的なテーマの回帰によって、決して過去の記憶が消し去られるものではない事実まで突きつけられる。それでも世界は回り続ける。せめてその目指す方向だけは、過去の過ちを繰り返さないようにと望まざるを得ない。思索に満ちた一つ一つの旋律をそれぞれの楽器が自分のものとして発し、大野の推進力のもと強靭でゆるぎない響きとなった。

    人気ランキングでは決して聴く機会のない難曲であろうと、美しい音楽であれば、必ずや思いは昇華するのだということを示してくれた音楽監督と都響のメンバーに心から喝采を送りたい。

    公演詳細

    【東京都交響楽団 第871回定期演奏会Bシリーズ】

    1月10日(木)19時 サントリーホール

    指揮:大野和士

    ヴァイオリン:パトリツィア・コパチンスカヤ

    管弦楽:東京都交響楽団

    シェーンベルク:ヴァイオリン協奏曲Op36

    ブルックナー:交響曲第6番イ長調WAB106(ノヴァーク版)

    【東京都交響楽団 第872回定期演奏会Aシリーズ】

    1月15日(火)19時 東京文化会館大ホール

    指揮:大野和士

    テノール:イアン・ボストリッジ

    管弦楽:東京都交響楽団

    ブゾーニ:喜劇序曲Op38

    マーラー:「少年の不思議な角笛」より

    『ラインの伝説』

    『魚に説教するパドヴァのアントニウス』

    『死んだ鼓手』

    『少年鼓手』

    『美しいトランペットの鳴り渡るところ』

    プロコフィエフ:交響曲第6番変ホ短調Op111

    筆者プロフィル

     毬沙 琳(まるしゃ・りん) 大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。

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