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号外警官刺され拳銃奪われる 大阪・吹田
ときにはぶらりと音楽を

アマオケの選曲:その弐

遠藤 靖典

 前回では、選曲の制約条件として挙げた、①団員のしたい曲、②団員の技術、③団の編成、④会場の規模、⑤指揮者の好み、⑥ソリストや特殊楽器奏者の目星――のうち、①を中心に書いたので、今回は②について。

 団員の技術は、アマオケならではの制約条件である。何しろプロオケはそのような制約条件を必要としないよりすぐりの奏者で構成されているのであるから、「難しいので弾けません」などとプロオケが言うはずはないからである(とはいえ、プロオケの名誉のために言うと、プロでも弾けないパッセージは存在する。ワーグナーが自曲のプローベで、ある奏者を「素晴らしい! そこはそのように演奏してほしかったんだ」と褒めたところ、「しかしマエストロ、今のパッセージは難しすぎて二度と再現できません」と返した、という逸話があるくらい、作曲者は時としてムチャな要求をする)。しかし、アマオケではそうはいかない。何しろ、楽器を触って数カ月の団員も存在するのがアマオケで、初心者(楽器を始めて間もない人)や初級者(始めた時期に関係なく、中級レベルに到達していない人)の団員が、ワーグナーやリヒャルト・シュトラウスの楽譜を正確に弾け、と言われても無理であることは当然である。というか、アマオケの中にリヒャルト・シュトラウスを全て正確に演奏できる奏者はまずいないと言っても過言ではない。どんなに上手に聞こえるアマオケでも、音程の甘さ、ボーイングやアンブシュアの不安定さ等の技術はプロとは比べるべくもないのである。

 それでも、アマオケでも素晴らしい音楽を奏でることができる。時にはプロオケよりもはるかに多くの感動を聴衆に届け得る。管弦楽曲の多くが、相互のパートがお互いに支え合って音楽を紡いでいくようにできている、ということも理由の一つであろう。例えば弦楽器の場合は同じパッセージをパートによっては16人が奏しており、管楽器でも、各パートのソロが少なくユニゾンが多い場合には、個々の奏者の技術的な瑕疵(かし)は目立たない。

 ところが、楽譜のほとんどがあるレベル以上の技術を要求する曲や、管楽器のみならず弦楽器にもソリスティックな演奏を要求する曲となると話が違ってくる。例えばリヒャルト・シュトラウスがニーチェの著書にインスパイアされて作曲した交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」(「ゾロアスターはこう言った」とは訳されないんですよね……)。この曲は、弦楽器のプルト数が指定されているだけでなく、弦楽器奏者ごとに弾く楽譜が違い、しかも相当に難しいので、弦楽器奏者にも一人一人に一定水準以上の技量が要求される。こういう曲を初級者に弾いてもらうわけにはいかぬ。そこで、自信のない団員には降り番をお願いすることになるが、その結果として、この曲を弾く水準に到達している団員だけではこの曲の要求する奏者をそろえられない場合が出てくる。となれば、エキストラを頼むか断念するかの二者択一となる。

 このような悩みを回避するには団の規模を大きくすれば良いが、そうでなく、初級者の比率が高めのあまり大きくないアマオケでも演奏できる曲となると、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、それに少し頑張ってブラームス、シューマン、ドヴォルザーク、チャイコフスキー、というラインアップであろうか。これらの曲は団員の同意も得やすい。もちろん、これらの曲はワーグナーやリヒャルト・シュトラウスとは別の難しさがある。特に古典派の場合、音程が少し狂ったりアンサンブルが少し乱れただけでバレバレという点では、ワーグナーやリヒャルト・シュトラウスより難しいと言えるが、音の並べやすさについては比較するまでもない。アマオケの演奏する作曲者の統計を取ったわけではないのであくまで想像であるが、これらの作曲者の曲が上位を占めるのではあるまいか。

 ここで少し、交響曲に限定するが、上述の個々の作曲家について簡単に見てみよう。まずハイドン、曲はとてもウイットに富んでいるので演奏していて楽しい。また、オケの基本をきっちり仕上げるためにも打って付けである。ただし2管編成は曲が限定される。打楽器のことも考えると、第99番、第101番、第103番、第104番が取り上げやすい。モーツァルトは、音を並べることはできるが、ある程度仕上げてからのその先が難しい。どう表現していいかわからなくなる。また、クラリネットが入っている曲が少ないのが難点。取り上げやすいのは第31番、第35番、第40番の改訂版か。ベートーヴェンは、パッションを前面に押し出せばそれなりに聴けるし、オケにとってもいい勉強になる。何しろ有名なので、取っ付きやすい。ただし第4番はフルート1本なので、ただでさえ団員が多くなりやすいフルートパートから文句が出るのは必定。また、第6番はトロンボーン、第5番は更にコントラファゴット、第9番は更に各種打楽器と独唱・合唱が必要。そう考えると、第1番から第3番までと第7番、第8番が取り上げやすい。シューベルトは歌曲を得意としていただけあり、メロディーがとても美しい。そのため、メロディーを担当するパートに過度の負担が掛かる。第5番はクラリネットもティンパニも入っておらず、また有名な「未完成」と「グレート」はトロンボーンが必要なので、取り上げやすいのは第1番から第4番までと第6番。シューマン、ブラームス、ドヴォルザーク、チャイコフスキーは全てトロンボーン、場合によってはチューバやコントラファゴット、各種打楽器が必要。その手配がつけば、アマオケには取り上げやすい。とはいえ、これらの曲は全て、音を並べるだけで一苦労となる。チャイコフスキーのように全部を正確に演奏しなくても様になりやすい曲もあるにはあるが、それはごまかしであり、やはりきっちりと弾くに越したことはない。

 さて、続きは次回で。

筆者プロフィル

 遠藤靖典(えんどう・やすのり) 大学教授。専門はデータ解析。教育・研究・学内業務のわずかな間隙(かんげき)を縫ってヴァイオリンを弾き、コンサートに足を運ぶ。

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