メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ときにはぶらりと音楽を

アマオケの選曲:その参

遠藤 靖典

 前回では、選曲の制約条件として挙げた、①団員のしたい曲、②団員の技術、③団の編成、④会場の規模、⑤指揮者の好み、⑥ソリストや特殊楽器奏者の目星――のうち、②を中心に書き始めたが、②と③とは切っても切れない関係で、最後の方はかなり③に寄った話になってしまった。例えば、モーツァルトの交響曲で取り上げやすい作品として第31番、第35番、第40番の改訂版を挙げたが、これはフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットが全て入っている、という観点からのもので、技術的難度から見ると第35番は結構高い。そこで今回は(今回も)②と③の両方の観点から書いてみよう。

 さて、初級者の比率が高めのあまり大きくないアマオケでも演奏できる交響曲として前回挙げた作曲家は、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、シューマン、ドヴォルザーク、チャイコフスキー――であった。交響曲について述べたのは、プログラムのメインを飾ることが多いからであるが、これらに共通する点は、(1)耳にする機会が多い、(2)楽譜の入手が容易、(3)メンバーをそろえやすい、(4)練習会場の確保があまり困難でない、(5)練習する意欲が湧く、(6)聴きに来てくれる人に「○○をするから聴きに来て」と言いやすい――であろう。近年はオンラインで何でも聴けるし、版権の切れた楽譜も入手可能なので、本当に便利になった。編成の規模が中程度であれば、メンバーをそろえやすいだけでなく、練習会場の確保も楽になる。楽譜がさほど複雑でなければ練習する気力も出ようというものであり、頑張って練習した曲は友人知人に聴いてもらいたい、その時に声を掛けやすいということはなかなかに重要なファクターとなる。

 逆に言えば、これらから外れた曲は取り上げ難くなる。例えば、めったに演奏されず、耳にする機会のない曲。プロならともかく、範となる演奏がない曲を演奏することはアマチュアにとっては大変に難しい。版権の切れていない現代曲は、楽譜レンタルのためにそれなりの支出が必要となる。大編成になると練習会場の確保も容易ならず、確保できたとしてもこれもまた相応の支出を余儀なくされる。聴いたこともない曲、かつ楽譜が黒々としてどこからどう練習していいのか分からない曲であれば練習意欲も湧いてこない。そして、こういう曲を「演奏するから聴きに来て」とは言い難い。

 これらの要因は、団員の技術と団の編成であろう。そもそも団員に十分な技術があれば、たとえ耳にしたことのない曲、大量の音符で埋め尽くされた楽譜を目にしても、練習意欲が湧かないということもなく、練習方法をすぐに見つけ、仕上げることが可能である。また、経済的に安定しているオケであれば、楽譜のレンタルや練習会場・編成上必要なエキストラの確保に予算的制約を受けることもない。

 改めてそう考えると、これらに直結する制約条件の②と③は選曲において特に大きなウエートを持ちそうである。②については前回も書いたが、団員の技術に合致する曲選びはとても重要である。演奏したい曲がとてつもなく難しいことは往々にして起こるので、選曲の際には、その一部でいいから、首席奏者が音を出してみるべきであろう。単に演奏したいという理由で選曲し、練習が始まってからすさまじい後悔……は、アマオケ奏者なら誰でも経験しているとは思うが、できるなら避けたいところだ。前回はワーグナー、リヒャルト・シュトラウスを挙げたが、ほかにも難しい作曲家の作品はいろいろある。例えばよくアマオケが手掛けるマーラー。彼の交響曲は音程の取り難さだけでなく、アンサンブルも難しい。かなり昔、某プロオケのファーストヴァイオリン奏者と話していたとき、「アマチュアはマーラーの9番をよく取り上げるけど、よくできるよね。他のパートは全然違うことをしているから、それを聴いて合わせるのは難しいんだ。アマチュアは周りを聴かないから逆にできるんじゃないかな」と言われ、へこんだことがあった。

 次に③について、当然ではあるが普段あまり使わない楽器が必要な曲は選曲しにくい。例えばサン=サーンスの交響曲第3番やリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」で使われるパイプオルガン。パイプオルガンは建物と一体化しているので、持ち運びは不可能で、パイプオルガンのある場所でないと練習できない。練習は電子オルガンで代用するとしても、パイプオルガンが設置されている会場は多いというほどではなく(以前よりは増えてはいるが)、使用料金もけっして安くない。また、オケのチューニングもパイプオルガンに合わせなければならず、いつも慣れているものと違うピッチでの演奏は存外負担になるものである。また、メシアンの「トゥーランガリラ交響曲」ではオンド・マルトノという楽器が必要だが、日本にはオンド・マルトノ奏者が数えるほどしかいない。つまり、楽器というより演奏者の調達が必要となる。ちなみにメシアンはこの楽器を偏愛しており、多くの楽曲に効果的に使われている。ここまで希少性の高い楽器は置いておいても、前出のトゥーランガリラ交響曲やショスタコーヴィチの交響曲は数多くの打楽器を必要とし、珍しくはなくとも楽器と奏者をそろえるのが大変になる。ブルックナーの後期の交響曲にはワーグナーチューバが必要だし、よく演奏されるが意外に知られていないのが、ベルリオーズの「幻想交響曲」で、スコア通り演奏しようとすると、4台以上のハープ、コルネット、オフィクレイド等が必要となり、アマオケにはなかなかそろえられない。独唱や合唱まで考えると、気合を入れた特別なイベントという感が強くなり、恒常的にはとても手が出せないであろう。実際、マーラーの交響曲第8番やホルストの「惑星」でなくとも、よく知られているベートーヴェンの交響曲第9番でさえ、そうそういつも演奏する、という訳にはいかぬ。

 と考えると、中規模までのアマオケにとっては、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットが各2本、トランペットが2本、ホルンが2本から4本、ティンパニ、それにヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの弦5部からなる楽曲で、それにトロンボーンやチューバを時々エキストラで呼んで、という編成が向いているように思う。ただし、合唱団の集客力はすさまじいので(これはアマオケが見習うべき点!)、盛況な演奏会としたいならば、合唱団との合同コンサートも視野に入れてはいかが?

 さて、続きは次回で。

筆者プロフィル

 遠藤靖典(えんどう・やすのり) 大学教授。専門はデータ解析。教育・研究・学内業務のわずかな間隙(かんげき)を縫ってヴァイオリンを弾き、コンサートに足を運ぶ。

おすすめ記事

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. SMAP元メンバー出演に圧力か ジャニーズ事務所を注意 公取委
  2. ジャニーズ「圧力の事実はないが当局の調査は重く受け止める」 HPでコメント発表
  3. 民放テレビ局幹部 ジャニーズ事務所から「圧力ないが過剰にそんたくはあったかも」
  4. 「吾郎ちゃんら元SMAP3人、なぜテレビに出ないの?」に公取委が判断 ジャニーズに注意
  5. 新しい地図 ファンの笑顔と共に 3人で描く

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです