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仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門は史上初めて1位なし

 6月15日から30日まで、仙台国際音楽コンクールのヴァイオリン部門が開催された。申し込みをした136人のうち、予備審査を通過した36人(辞退者を除く)が出場。今年は開催史上初めて1位を出さず、最高位は2位のシャノン・リー(アメリカ/カナダ)、続いて3位に友滝真由、4位に北田千尋と日本勢が健闘した。筆者が取材したセミファイナル以降の演奏評とともに、関連するイベントの様子、また1位なしとなった要因について、詳しく報じたい。(正木裕美)

最高位2位を受賞したシャノン・リー=6月27日、日立システムズホール仙台コンサートホールで

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【ヴァイオリン部門審査】

 最高位2位を受賞したシャノン・リーはクリーヴランド音楽院やカーティス音楽院に学び、その傍らコロンビア大学でコンピューター工学の学士号を取得するなど、まさに才媛。特にセミファイナルで弾いたバルトークの協奏曲第2番は作品の理解が深く的確で、他を圧倒する演奏を響かせた。強靱(きょうじん)な腕と肩をスピーディに使い、冒頭のハッとするほどクリアな音色から第3楽章のいぶしたような音色まで、色彩も非常に豊かで音域によるムラがない。またオーケストラのテンポをよくつかみ、セミファイナル2日目にしてもっともソリストとオーケストラが調和する瞬間だったと言えるだろう。実際、審査員のボリス・ベルキン氏は「Bravo!」と叫んでしまったし、審査委員長の堀米ゆず子氏は「私たちはこれで優勝は決まったと思っていた」と取材で語ったほどだった。しかしファイナルで弾いたチャイコフスキーは速いパッセージで技術に固執してしまうような部分も見られ、音も鋼質で、スケールの大きさを表現しきれなかったのが悔やまれる。

 3位の友滝真由はセミファイナルから丁寧に作り上げた演奏が印象的で、非常に豊かでふくよかな音色を作り出すことができる。中でもブラームスの協奏曲の第2楽章は美しさが際立ち、第3楽章で休符の甘さや冒頭せいてしまった部分があったものの、以降は落ちついて表現に徹していた。

友滝真由=6月30日、日立システムズホール仙台コンサートホールで

 また4位の北田千尋はセミファイナルでトップバッターを務めたが、オーケストラとの探り合いのような不安定な状況は、正直気の毒なほどだった。しかしその中でもリズム感や色彩表現の豊かさを見せ、無事に審査を通過。ファイナルのメンデルスゾーンの協奏曲では推進力に欠ける部分も見られたが、ガラコンサートでははるかに歯切れよく、演奏する喜びにあふれ、作品の美しさを享受できる演奏だった。ファイナルではおそらく緊張も響いたのだろうが、短い間での修正能力の高さには、目を見張るものがあった。

 なお、3位入賞はかなわなかったものの、今回5位のイリアス・ダビッド・モンカド(ドイツ)はセミファイナル時から注目していたひとりだった。非常に柔らかく温かみのある音色が印象的で、しなやかな弓使いで、技術的な難所でも響きを損なうことがない。前評判も高かったシャノン・リーに比べ、彼は知られざる才能だったが、ファイナルに進むのは自明のことに思えた。ただ、技術が伴うゆえに淡々と弾いてしまい、オーケストラに先行してしまう部分も見受けられた。堀米氏も「それこそめちゃくちゃ才能があるんだけど本人がどうしていいのかわからない。学生とプロのソリストとしてのクオリティーは違う」と評していたように、今後の自覚が成長の鍵となるだろう。

北田千尋=6月30日、日立システムズホール仙台コンサートホールで

 ちなみに、セミファイナルでは今年からコンサートマスターとしての審査も加わった。これはブラームスの交響曲第1番第2楽章とR・シュトラウスの「ツァラトゥストラはこう語った」から各指定箇所をコンマスとして演奏するもの。中には客席を向いて弾きつつエキサイトして立ち上がる者、指揮者の高関健を差し置いてオーケストラをドライブしてしまう者など、コンマスとしての姿勢に疑問を感じるような場面もあった。しかしそのような者も一部はファイナルに進んだため、審査でどこまで重視されているのかはわからない(ソリストとしての課題との評価比率は明確に決まっていないそうだ)。

 全体として、技術と表現力において高いレベルを示したピアノ部門に対し、ヴァイオリン部門はピアノ部門ほどの水準に達していなかったように思う。雨続きだったとは言え、ピッチが上ずったままの者も複数おり、またここでは詳述しないが、ファイナルで課されたモーツァルトの演奏水準の低さは度々話題にのぼった。同時に三つの国際音楽コンクールが開催されていたこともあり、質の高いヴァイオリニストが他に分散してしまったことも、要因のひとつとして考えられる。

【音楽の裾野を広げる関連イベント】

 同コンクールでは、審査のほかに市民や出場者が交流したり学んだりできるイベントを多数開催している。学校訪問ミニ・コンサート(6月25日・仙台市立富沢小学校)もそのひとつで、グリゴーリ・タダエフ(ロシア)とオレスト・スモヴシ(ウクライナ)がそれぞれチャイコフスキーの「感傷的なワルツ」やフォーレの「子守歌」ほかを子どもたちに披露した。こうしたコンサートには、セミファイナルに進めなかった出場者たちが有志で出演している。両者は熱心で小さな聴き手に感激した様子で、「大きなホールで演奏しているときでさえ、必ずしも今回の子どもたちのように真剣に聴いてくれるとは限らない」(タダエフ)、「自分たちも街や文化を理解できるし、子どもたちも国や文化が違う自分たち出場者のことを理解してくれる良い機会だと思う」(スモヴシ)と語っていた。

 また彼らのほか、やはり有志が出場したチャレンジャーズ・ライヴ(26日・日立システムズホールシアターホール)は無料で楽しめ、平日昼間にもかかわらず多くの人が訪れた。中でもスモヴシは、ヴァイオリンをたたいたり足を踏み鳴らしたりするヴィシンスキーの「ミュージック・イン・ピッチカート・モーション」を初演。彼の友人の作品だそうで、エンターテインメント性あふれる演奏に、会場はおおいに沸いた。ちなみに3位の友滝は、前回予選で敗退し、このライブに参加している。

チャレンジャーズ・ライヴの最後には出場者総出で日本の四季メドレーを演奏するサプライズもあった=6月26日、日立システムズホール仙台シアターホールで

 また、審査委員によるマスタークラスも行われており、取材したチョーリャン・リン氏のクラスは多数の聴講者が熱心に聴き入っていた(25日・同練習室)。具体的な奏法指導はもとより、ユーモアと機知に富んだレッスンは弾き手にも聴き手にも気づきを与えてくれる。作品理解には本や映画も有効▽残響の多い日本のホールでは同じ音を2度弾く際にアーティキュレーションを明確に▽楽器を弾く際は歌うように呼吸を▽トリルの速度はすべて同じではなく、特にモーツァルトはさまざま▽ブラームスの協奏曲はオーケストラが何をしているかを聴いて――など、示唆に富んだレッスンが行われた。

チョーリャン・リン氏によるマスタークラス=6月25日、日立システムズホール仙台練習室で

 最後に、仙台ならではのホームステイについて、少し触れたい。出場者のうち希望者とホストファミリーをマッチングするこのシステムは、審査前に顔合わせを行い、審査後に利用できることになっている。聞くと、迎え入れるホストファミリーにとっては、審査を通過してほしい気持ちと早く交流を楽しみたい気持ちで複雑だそうだが、見知らぬ国で応援者がいることは、出場者にとっては心強くもあるだろう。たまたま顔合わせに立ち会った2位のシャノン・リーも申し込みをした一人で、ファイナルへ進んだため結局ホームステイはせずに帰国したが、審査の合間にホストファミリー宅でお茶をたしなんだり星を眺めたりと、つかの間のひとときを楽しんだそうだ。

ホームステイの顔合わせで談笑するシャノン・リーと関宗蔵夫妻=6月14日、日立システムズホール交流ホールで

 受け入れる市民も学びや喜びを共有する場があり、また出場者にとっても審査だけで終わらず、きめ細やかなフィードバックや演奏の場、また文化を知り学ぶ場がある。きめ細やかなフォローについて度々出場者が口にするのは、おそらくそういった面からくるのだろう。

コンクール詳細

【仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門】

6月15日(土)~30日(日)

日立システムズホール仙台(仙台市青年文化センター)

第1位:該当者なし

第2位:シャノン・リー(アメリカ/カナダ 27歳)

第3位:友滝真由(日本 23歳)

第4位:北田千尋(日本 22歳)

第5位:イリアス・ダビッド・モンカド(ドイツ 18歳)

第6位:荒井里桜(日本 20歳)、コー・ドンフィ(韓国 22歳)

審査委員特別賞:該当者なし

聴衆賞:古澤香理(6/21 日本 20歳)、シャノン・リー(6/22)、アンドレア・オビソ(6/23 イタリア 25歳)※セミファイナル開催日ごとに聴衆による投票で決定

筆者プロフィル

 正木裕美(まさき・ひろみ) クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災以後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材に力を入れている。

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