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アンコール

オペラ夏の祭典2019-2020 プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」新制作上演

2020東京五輪・パラリンピック関連文化事業のオペラ公演が国際的水準で好評価

オリエの手がけた巨大なセットにたたずむイレーネ・テオリン(中央上・トゥーランドット)とテオドール・イリンカイ(カラフ) 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

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 2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京オリパラ)の関連文化事業として展開中の「Tokyo Tokyo FESTIVAL」の柱となる「オペラ夏の祭典2019-2020 Japan⇔Tokyo⇔World」(総合プロデュース・大野和士)。その第1弾として新国立劇場と東京文化会館によって共同制作されたプッチーニの歌劇「トゥーランドット」の公演が両劇場でそれぞれ開催された。国際的にも注目を集めたこのステージを振り返る。取材したのは7月12日(東京文化会館)と18日(新国立劇場)、両劇場における初日の公演。

 

 このプロジェクトは東京オリパラを機に文化面でも世界に発信をしていく、とのコンセプトのもと国(新国立劇場)と東京都(東京文化会館)が手を携えて国際的水準のオペラのステージを2年にわたって新制作し上演していくもの。新国立劇場オペラ芸術監督と都の関連団体である東京都交響楽団の音楽監督を兼ねる大野が総合プロデュースを担い、今年はプッチーニ最後のオペラ「トゥーランドット」を、来年は祝祭的雰囲気を持つワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を取り上げる。

 こうしたプロジェクトによる新制作上演だけに「トゥーランドット」のスタッフ・キャストは国際色豊かな豪華版である。演出はスペインのパフォーマンス集団「ラ・フーラ・デルス・バウス」の中心人物のひとりであるアレックス・オリエが担当。彼はザルツブルク音楽祭やミラノ・スカラ座、パリ・オペラ座など世界のひのき舞台でオペラ演出を手掛けていることに加えて、バルセロナ五輪開会式の総合演出を務めたことでも知られる実力派の演出家である。舞台の制作チームはスペインを中心にドイツ、日本のスタッフによる多国籍編成であった。

 キャストはダブルの座組みで題名役はイレーネ・テオリンとジェニファー・ウィルソン、カラフがテオドール・イリンカイとデヴィッド・ポメロイ、リューは中村恵理と砂川涼子、ティムールがリッカルド・ザネッラートと妻屋秀和、等々内外の実力派スター歌手が顔をそろえた。合唱は新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホール声楽アンサンブル、そしてピットには大野がやはり音楽監督を務めているバルセロナ交響楽団が入った。

(中央から右へ)イリンカイ、リッカルド・ザネッラート(ティムール)、中村恵理(リュー) 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

 まずはオリエの演出について。舞台のプロセニアムをめいっぱい使った巨大なセットは壁のような構造物に囲まれ、全体に薄暗い。登場する民衆は昔の中国の市民というよりは万国共通の貧しく権力に虐げられた人々といった雰囲気。天井からエレベーターのように降りてくる箱型の構造物はまるで地球外生命体の乗り物のよう。明るく輝くその中からトゥーランドットや皇帝が登場する。支配層であるこの2人が地上の民とは異次元の存在であることを印象付ける意図であろうか。加えて壁のようなセット、薄暗い照明は観(み)る者に何とも言えない圧迫感を感じさせ、人の命を軽んずる残虐な圧政に苦しむ民の心情が投影される。物語の進行はおおむね、台本通りなのであるが、最後に大きなどんでん返しが用意されていた。

 プッチーニはこのオペラの制作途中、第3幕のリューが死ぬところまで書いて絶筆となった。初演の指揮を務めたアルトゥーロ・トスカニーニはここまで上演したところで指揮棒を置き「プッチーニ先生はこの部分までで仕事を終えました」と語りこの日は終演にし、次回公演から現在、私たちが親しんでいる弟子のフランコ・アルファーノが補筆して完成させたフル・バージョンをお披露目したエピソードは有名である。オリエは「もし、プッチーニが最後まで書いていたらどんな結末になったのか?」との発想を基にサプライズを仕込んでいたのである。

 そのサプライズとはカラフへの愛を貫いて命を落としたリューにならって、トゥーランドットも幕切れで自らの命を絶つというものであった。12日の終演後、オリエがカーテンコールに登場すると一部からブーイングが出ていたが、この演出コンセプトはヨーロッパ各地のオペラ劇場や音楽祭の現状と比較すると決して過激ではないし、突拍子のないものとは感じられずむしろブーイングが出たことの方が意外であった。

 筆者はこれまでこのオペラをみるたびにリューがトゥーランドットとカラフのせいで命を落としたのにもかかわらず、それがまるで何もなかったことのようなノー天気なハッピーエンドが繰り広げられることに何となく違和感を覚えた。さらに父ティムールを見捨てて愛にのめり込むカラフの姿にも共感できなかった。同じように考えるのは筆者だけではないだろう。オリエの用意したサプライズはこうした違和感に対してひとつの答えを示してくれるものであり、全体としてもよく練られた演出であったといえよう。ただ一点、歌手にほとんど動きが付けられていなかったのが気になった。場面に応じてもっと動きがあれば舞台の完成度はさらに高まったと思う。

左から、テオリン、中村、イリンカイ 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

 次に歌手陣について。題名役のテオリンは持ち前の強い声を駆使して時折、大オーケストラと大合唱による〝音の壁〟を突き抜けるような力強さを随所に発揮していた。強い声が求められる作品だけに、ワーグナーを得意とする歌手が演じるケースも多いがテオリンもその典型例といえよう。強い声の一方で、以前に比べて繊細な表現を聴かせてくれたのにも好感が持てた。カラフのイリンカイも水準を満たす歌唱。そして情感に満ちたリューを歌い演じた中村には終演後、客席から最も盛大な喝采が送られていた。

 最後に特筆すべきは大野の指揮であろう。「トゥーランドット」のように大規模な作品を実際の現場でさばく大野の手腕には目を見張るものがある。物語の展開に呼応しながら場面ごとの〝ツボ〟をしっかりと押さえた上で、歌手に伸び伸びと歌わせながらも全体をコントロールし、起伏に富んだステージを構築していく。筆者には舞台上とピット内のたくさんの演者が皆、完全に大野の掌中にあるかのように映った。

 そんな大野のタクトの下、バルセロナ交響楽団は表情豊かな熱演を聴かせて公演の成功に大きく貢献していた。管楽器プレイヤーのソロイスティックな表現力は日本のオーケストラにはないものであり、なかなかの聴き応えがあった。(宮嶋 極)

公演データ

【大野和士×アレックス・オリエ×バルセロナ交響楽団 プッチーニ:「トゥーランドット」(全3幕 イタリア語上演日本語字幕付き)新制作】

7月12日(金)18:30/13日(土)14:00/14日(日)14:00 東京文化会館大ホール

7月18日(木)18:30/20日(土)14:00/21日(日)14:00/22日(月)14:00 新国立劇場オペラパレス

その他、びわ湖ホール大ホール、札幌文化芸術劇場hitaruでも上演

指揮:大野和士

演出:アレックス・オリエ

美術:アルフォンス・フローレス

衣裳:リュック・カステーイス

照明:ウルス・シェーネバウム

演出補:スサナ・ゴメス

舞台監督:菅原多敢弘

トゥーランドット :イレーネ・テオリン/ジェニファー・ウィルソン

カラフ :テオドール・イリンカイ/デヴィッド・ポメロイ

リュー :中村恵理/砂川涼子

ティムール :リッカルド・ザネッラート/妻屋秀和

アルトゥム皇帝:持木弘

ピン:桝貴志/森口賢二

パン:与儀巧/秋谷直之

ポン:村上敏明/糸賀修平

官吏:豊嶋祐壹/成田眞

管弦楽:バルセロナ交響楽団

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ)毎日新聞グループホールディングス執行役員、毎日映画社社長、スポニチクリエイツ社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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