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アンコール

パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌(PMF)2019

東京公演より、ゲルギエフとPMFオーケストラ=8月1日・サントリーホール (C) PMF組織委員会

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 今年で30回目を迎えた国際教育音楽祭「パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌(PMF)」が7月4日から8月2日までの間、札幌をメイン会場に開催された。世界30カ国・地域からオーディションで選抜された若手音楽家104人がアカデミー生として参加。彼らはPMF芸術監督で指揮者のヴァレリー・ゲルギエフ、第3代芸術監督だった指揮者でピアニストのクリストフ・エッシェンバッハら国際的に活躍する音楽家の指導の下、多様なプログラムに取り組み、研さんを積んだ。その成果の披露の場となったPMFプレミアム・コンサート(7月20、21日、札幌コンサートホールKitara)とPMFオーケストラ東京公演(8月1日、サントリーホール)の模様を振り返る。(宮嶋 極)

【PMFプレミアム・コンサート】

 20世紀後半に活躍した作曲家で指揮者のレナード・バーンスタインの提唱で創設されたPMFには、これまでに3500人を超える優秀な若手音楽家が参加し、世界各国でソリスト、オーケストラプレーヤーとして活躍する優秀な人材を世に送り出してきた。世界各国から選抜されたアカデミー生によって編成されるPMFオーケストラは毎年、夏の約1カ月間、ゲルギエフら世界的指揮者やウィーン・フィル、ベルリン・フィルの主要メンバー、米国の一流オーケストラの首席奏者ら一流音楽家の指導を受けながら、多彩なプログラムによる演奏会を開催する。

 そのひとつが、7月20、21日に札幌コンサートホールKitara(以下、キタラ・ホール)で開催されたPMFプレミアム・コンサートだ。エッシェンバッハの指揮でマーラーの大曲、交響曲第8番変ホ長調「千人の交響曲」に挑んだ。取材したのは21日の公演。

 筆者はPMFの創設時からこの音楽祭を継続的に取材しているが、ここ数年のアカデミー生の技量の高さは目を見張るものがある。これは30年間の実績が世界中に知られるようになったことに加えて、ゲルギエフやエッシェンバッハのような大物指揮者のタクトの下で演奏するという、またとない経験を積みたい優秀な若手音楽家が札幌に集まるようになったことも関係しているのであろう。

 この日のマーラーもキメ細やかに、しっかりと準備したことがうかがえる、なかなかの完成度の演奏であった。副題の通り大人数を要する作品ではあるが、いたずらに大音量を多用したり、若者ならではのダイナミズムで聴衆を圧倒するのではなく、ひとつひとつの旋律や和声を丁寧に処理しながら、美しさが際立つマーラーに仕上げていた。

エッシェンバッハのタクトで「千人の交響曲」を奏でたPMFアメリカの講師陣やアカデミー生ら=7月20日、札幌コンサートホールKitara  (C) PMF組織委員会

 エッシェンバッハのマーラーといえば、これまで海外のオーケストラとの来日公演で披露された極端に遅いテンポや個性的な表現が目立つ印象が強かったが、この日は教育音楽祭ということを意識していたのか、終始オーソドックスなアプローチで、それが作品の核心部分に若い音楽家たちをいざなう好結果につながっていたように感じた。

 毎年触れていることではあるが、PMFオーケストラのキタラ・ホールにおける公演には、アカデミー生の指導にあたる世界の一流オーケストラの首席奏者らが演奏に参加するのも大きな魅力である。この日もメトロポリタン歌劇場管弦楽団のコンサートマスター、ディヴィッド・チャンをはじめとする米国のメジャーオーケストラの腕利きメンバー(PMFアメリカ)が各パートのトップを務めての演奏となった。管楽器のソロで名人芸が次々と披露され演奏のレベルが一段も二段も上がったことはもちろんであるが、弦セクションもクリーブランド管弦楽団やシカゴ交響楽団などの首席奏者がトップを務めることで、アカデミー生たちの音楽作りに対する姿勢もおのずと変わってくる。弓の動きはアカデミー生のみで演奏する時に比べて格段に大きくなり、より積極的に表現して音楽を作っていこうとの雰囲気に包まれるのだ。名手たちが、エッシェンバッハのような世界的指揮者の意図をどのように実際の音として表現していくのかを身をもって示し、そこに若い音楽家たちが、一丸となって加わっていく。これこそが、PMFでしか聴けない〝特別な演奏〟といえるのではないだろうか。

 独唱はエリン・ウォール、藤村実穂子、ミハイル・ペトレンコら内外の実力派が顔をそろえた。合唱は主に札幌市に拠点を置く合唱団のメンバーを中心に、札幌大谷大学芸術学部音楽学科、北海道教育大学岩見沢校音楽文化専攻の学生ら約450人で編成されたPMFプレミアム合唱団とHBC少年少女合唱団。大オーケストラに対しての音量という面では本格的なプロコーラスには及ばないものの、正確な音程をベースにした美しいハーモニーが素晴らしい効果をあげていた。

 一点だけ残念だったのは、終演後、エッシェンバッハが指揮棒を下ろす前、それも最後の和音の残響がこだましているにもかかわらず客席からブラボーや拍手が起こったことだ。世界屈指のアコースティックを誇るキタラ・ホールだけに、美しい響きが減衰しきるまで楽しみたかったのは筆者だけではなかったと思う。

プレミアム・コンサートに集ったエリン・ウォール、藤村実穂子ら国内外の実力派ソリストたち=7月20日、札幌コンサートホールKitara  (C) PMF組織委員会

【PMFオーケストラ東京公演】

 今年の締めくくりは芸術監督ゲルギエフの指揮によるオーケストラコンサート。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、イベールのフルート協奏曲、ショスタコーヴィチの交響曲第4番というこちらも重量級のプログラム。フルート独奏はチャイコフスキー国際コンクールに新設された木管部門の覇者、マトヴェィ・デョーミン。公演は7月31日キタラ・ホール、8月1日サントリーホール、2日ミューザ川崎シンフォニーホールで行われた。取材したのは1日、サントリーホールにおける公演。この日は上皇ご夫妻が後半のショスタコーヴィチからお越しになり若い音楽家たちの熱演に耳を傾けておられた。

 ゲルギエフは今年、PMFに加えてバイロイト音楽祭、ザルツブルク音楽祭、ヴェルビエ音楽祭を掛け持ちする前代未聞の超過密スケジュール。そうした中、どんな指揮をするのか、かなり気になった。筆者は上皇ご夫妻に近い席(2階RBブロック)の割り当てだったため、指揮者の様子がよく見て取れた。肉体的にはかなり疲労していてもおかしくないのだが、ゲルギエフが相変わらず大きなエネルギーを発散しながら、オケをリードしていくのは驚異的である。この人ならではの本番にかける集中力は並大抵のものではなく、ある意味、こうしたことを身近に体験すること自体が若い音楽家たちにとってプロの音楽家とはいかなるものかを知る上で有意義なのかもしれない。

 この公演ではシカゴ響の首席ティンパニ奏者、ディヴィッド・ハーバートと同団打楽器奏者シンシア・イェを除くほかの講師陣は演奏に参加しておらず、マーラーの時のようにオーケストラ全体として、より積極的に表現していこうとの能動的姿勢が少し薄らぎ、〝安全運転〟に徹していたようにも感じられた。その一方で終演時、最後の一音の響きが消え入り、ゲルギエフがタクトを下ろしてもなお、30秒くらいの間、拍手が一切起こらず静寂が保たれていたのはショスタコーヴィチの交響曲第4番という作品の性格上、とてもよかった。

 しばらくして客席は盛大な喝采に包まれ、上皇ご夫妻もオーケストラが退場するまで、拍手を送られていた。

公演詳細

【PMFプレミアム・コンサート】

7月20日(土)17:00、21日(日)14:00

札幌コンサートホール Kitara

指揮:クリストフ・エッシェンバッハ

贖罪の女(第1ソプラノ):エリン・ウォール

一人の懺悔する女(第2ソプラノ):吉田珠代

栄光の聖母(第3ソプラノ):安井陽子

サマリアの女(第1アルト):藤村実穂子

エジプトのマリア(第2アルト):山下牧子

マリアの博士(テナー):清水徹太郎

法悦の神父(バリトン):町 英和

瞑想の神父(バス):ミハイル・ペトレンコ

管弦楽:PMFプレミアム・オーケストラ

合唱:PMFプレミアム合唱団、HBC少年少女合唱団

マーラー:交響曲第8番変ホ長調

【PMFオーケストラ東京公演】

8月1日(木)19:00 サントリーホール

指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ

フルート:マトヴェィ・デョーミン

管弦楽:PMFオーケストラ

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲

イベール:フルート協奏曲

ショスタコーヴィチ:交響曲第4番ハ短調Op.43

◆ 国際教育音楽祭 パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌 公式サイト

https://www.pmf.or.jp/

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ)毎日新聞グループホールディングス執行役員、毎日映画社社長、スポニチクリエイツ社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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