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今週の本棚

村上陽一郎・評 『ジョン・ケージ 作曲家の告白』=ジョン・ケージ著、大西穣・訳

 (アルテスパブリッシング・1728円)

『四分三十三秒』への道、克明に語る

 ジョン・ケージ。多少ともクラシック音楽の世界に関心のある方なら、現代音楽作曲界の最前衛を象徴する人物、という印象はお持ちだろう。ことによると、彼の名を斯界(しかい)に轟(とどろ)かせた『四分三十三秒』という作品名を聞き及んでおられるかもしれない。この作品を音楽として「聴いた」人は、世界に一人もいないはずであるにも拘(かか)わらず、なのである。念のために書いておくと、この作品に演奏楽器の指定はなく、楽譜は全体で三楽章で、どの楽章にも<tacet>とだけ記されていて、ただし演奏時間は全体で「四分三十三秒」という指定がある。この曲の初演の際は、ステージにはピアノ、演奏家はピアニストらしき人物。ピアノの前に、何も音を出さず(それが音楽用語<tacet>の意味である)正確に四分三十三秒だけ座っていた。勿論(もちろん)、その間、会場は「無音」ではなく、聴衆のブーイングやら、ざわめきやら、様々な「音」を聴衆は経験したはずだが。一九八九年、「思想・芸術部門」の京都賞を受賞した際は、羽織袴(はかま)の正装で登場して、彼が鈴木大拙を含む禅仏教や東洋思想、日本思想にも造詣が深いことを知る人々の間にも、ちょっとしたざわめきが起きた。

 小さな本である。ケージは、自分の音楽的な遍歴の実際を、二度講演という形で残した。一つは、京都賞の受賞記念講演、つまり日本でのもので、もう一つは、遥(はる)かに若いころ、一九四八年に行った講演、これは永らく公表されなかったが、訳者の解説によると、一九九一年に入手可能になったというが、本書は、その二つの講演を再現したものの翻訳である。無論、講演時の時代の違いが、彼自身の過去への回想にも十分に反映され…

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