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オーケストラのススメ

~35~ 二つの若い室内オーケストラを聴いて~反田恭平&MLMナショナル管弦楽団と坂入健司郎&川崎室内管弦楽団

山田治生

 この夏、二つの若い室内オーケストラを聴いた。一つは反田恭平(1994年生まれ)率いるMLMナショナル管弦楽団、もう一つは坂入健司郎(1988年生まれ)が音楽監督を務める川崎室内管弦楽団。どちらのオーケストラにも共通しているのは、ソリストとして活躍する精鋭たちが、若きカリスマのもとに短期間集まって、集中的に活動を行っているということ。

反田恭平率いるMLMナショナル管。反田は弾き振りも行った (C) M.KONAKAMURA

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 MLMナショナル管弦楽団は、今回が旗揚げ公演であった。反田恭平が昨年プロデュースした室内楽コンサートで共演したMLMダブル・カルテットのメンバーが核となり、今年、管楽器を加えて、オーケストラとなった。MLMは「音楽を愛する若者たち」を意味するロシア語の頭文字をとったもの。将来的にはチャイコフスキーの交響曲が演奏できるほどのフル編成のオーケストラにしたいと反田はいう。

 今年は、ヴァイオリンの岡本誠司、大江馨、桐原宗生、島方瞭、ヴィオラの有田朋央、長田健志、チェロの森田啓佑、水野優也、コントラバスの大槻健、フルートの八木瑛子、オーボエの荒木奏美、浅原由香、ホルンの庄司雄大、鈴木優、ファゴットの皆神陽太、古谷拳一ら、16人のそうそうたる若手奏者が反田の呼びかけで集った。

 また、今回の公演の前に反田は、自らのレコード・レーベル「NOVA Record」を立ち上げ、MLMナショナル管の10人のメンバー(岡本、大江、桐原、森田、水野、大槻、八木、荒木、庄司、皆神)とそれぞれ共演して、10枚のミニアルバムを名刺代わりに制作したのであった。

 旗揚げ公演は、7月24日から同31日まで、神奈川県秦野市、栃木県足利市、東京・サントリーホール、宮城県多賀城市、長野県上田市の5カ所で開催された。そのうち、筆者は、最終日の上田市、サントミューゼでのコンサートを聴いた。

 まず、ベートーヴェンの「ロマンス」第2番。ヴァイオリン独奏は、2016年のヴィエニャフスキ国際コンクール第2位など国際コンクールでも活躍する、岡本。指揮は反田。オーケストラは、チェロ以外、弦楽器も管楽器も立奏である。岡本は美音が際立ち、反田の指揮は、速めのテンポでオーケストラを軽く響かせ、ニュアンスに富む。オーケストラは弦楽器と管楽器が完全にブレンドされている。

ベートーヴェンの「ロマンス」第2番ではチェロ以外全員立奏。ヴァイオリン独奏は岡本誠司 (C) M.KONAKAMURA

 続いて、反田のソロで、モーツァルトのピアノ・ソナタ第8番。驚かせるような速めのテンポによる攻めの演奏。モーツァルトを純粋に奏でる。そして、プーランクの「ピアノ、オーボエ、ファゴットのための三重奏曲」。これは、反田、荒木、古谷による。ここでもオーボエとファゴットは立奏。3人の個々のうまさが印象に残る。ボッケリーニの八重奏曲「ノットゥルノ」は弦楽器5部とオーボエ、ファゴット、ホルンという編成。一人ひとりが生き生きと楽しんで演奏している。

 メインは、モーツァルトのピアノ協奏曲第17番。反田が弾き振り。オーケストラは、ピアノの周りを囲むように並んで、立奏。ピアノとそれぞれの楽器が室内楽のように直接のコンタクトをとる。弦楽器の人数が2、2、2、2、1で、特に第1ヴァイオリンが2人(岡本と大江)であったが、常識にとらわれない編成が新鮮な音楽を生み出した。第3楽章の変奏の内容の多彩さは、さまざまな室内楽の集合体を思わせ、ツアー全体を締めくくるのにふさわしい演奏であった。

 アンコールに反田の指揮でシューベルトの交響曲第5番第4楽章。今後、このオーケストラではシンフォニーも手掛けていくという、反田からのメッセージのように感じられた。

 オーケストラの旗揚げ公演で、ピアノ独奏や室内楽がある、というプログラミングは反田にしか思いつかないものだ。反田には今後もどんどん常識を超えていってほしいと思う。

坂入健司郎と川崎室内管弦楽団

 川崎室内管弦楽団は、2016年、音楽監督・坂入健司郎を中心に結成された。8月31日にHAKUJU HALLでひらかれた第3回定期演奏会では、ハイドンの交響曲第85番「王妃」、ロドリーゴの「ある貴紳のための幻想曲」(ギター独奏:荘村清志)、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「プルチネッラ」全曲版という、過去と20世紀を結び付けるプログラムが組まれた。コンサートマスターに毛利文香(パガニーニ、エリザベート王妃、モントリオールの各国際コンクールで入賞)、第2ヴァイオリン首席奏者に石上真由子(今年、日本コロンビアよりCDデビュー)、ヴィオラ首席奏者に田原綾子(東京音楽コンクール第1位)ら、ソリストとして活躍する気鋭の若手奏者が集う。

 ハイドンは、ヴァイオリン(5、5)が両翼配置だっただけでなく、チェロ(2、2)とコントラバス(1、1)も左右に分割。真ん中にヴィオラ(4)を置いての、完全な対向配置が採られた。非常に面白く聴けたが、オーケストラとしてもう少し一体感があればとも思った。

「ある貴紳のための幻想曲」は、17世紀のスペイン舞曲がもとになっている。コンチェルトのような華やかさはないが、ベテランの荘村と若い演奏家たちとの交歓を楽しむことができた。

「プルチネッラ」は3人の独唱者を招いての全曲版。合奏協奏曲のスタイルが取り入れられたこの作品では、毛利、石上、田原らの独奏陣が素晴らしかった。バロック的な優美さを持ちながら、第8曲(アレグロ・アッサイ)のような曲では、今どきの名手ぞろいのモダン・オーケストラが牙を剝いていた様子が、印象的。中山美紀、藤井雄介、加耒徹ら、古楽を得意とする歌手陣が美しい響き。そして、坂入の表現意欲に満ちた指揮にも感心した。

「ある貴紳のための幻想曲」でソロを務めた荘村清志(ギター)と川崎室内管

 近年、ヴァイオリンなどの器楽のソリストが、ソリストとしての活動だけでなく、オーケストラにも積極的に参加するようになった。ソリストのレパートリーだけに取り組むよりも、室内楽やオーケストラにも参加する方が、音楽家としての表現の幅が広がるだろうし、今は、そういうユーティリティーな奏者が求められているように思われる。逆にオーケストラファンからすれば、そういうソリストたちのオーケストラへの参加は非常に喜ばしいことである。

 表現意欲に満ち、アイデア豊富な若きリーダーたちが、指揮者としてだけでなく、プロデューサーとしても、既成の常識にとらわれない活動を行っているオーケストラ。今後の展開が楽しみである。

筆者プロフィル

 山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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