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アンコール

瀬戸内海の小さな島「下蒲刈島」で開催される充実の音楽イベント

 広島県呉市の瀬戸内海に浮かぶ下蒲刈島。この小さな島にある蘭島閣美術館で毎月第3土曜日の夜、大都会の音楽関係者が驚くほどの大物アーティストらによる充実の音楽イベントが開催されている。「夢のかけはし~蘭島閣ギャラリーコンサート」がそれで、これまで225回のコンサートが行われ、ウィーン・フィルの元第1コンサートマスター、ライナー・キュッヒル、同楽団の現コンマス、フォルクハルト・シュトイデ、NHK交響楽団の元ソロ・コンマス、堀正文、徳永二男、ピアニストの小山実稚恵ら人気、実力を兼ね備えた音楽家たちが、ソロや室内楽などさまざまな形態で熱演を繰り広げ、毎回会場である美術館ロビーを埋め尽くすほどの聴衆が集まる人気イベントとなっている。この9月からは音楽と絵画を組み合わせた教育プログラム「ミュージック&アーツであそぼう」が新たにスタートした。そこで現地を9年ぶりに訪れ取材した。 (宮嶋 極)

ギャラリーコンサートで演奏するフルート・高木綾子とピアノ・坂野伊都子

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【夢のかけはし~蘭島閣ギャラリーコンサート第225回】

 小さな木造美術館のロビーを会場に毎月1回開催されるユニークなコンサートもスタートから17年が経過、西日本における人気音楽イベントとしてすっかり定着した感がある。夕方になり、美術館スタッフと地元ボランティアが協力して行う会場の設営も9年前に訪れた時とは見違えるほどの速さとスムーズさであった。

 この日の出演は日本を代表するフルート奏者のひとりである高木綾子と、近年室内楽の分野における活躍が目覚ましいピアニストの坂野伊都子。ドビュッシーやモーツァルト、ドップラーらの作品で熱演を繰り広げた。島外からを中心に150人以上の聴衆が小さなロビーを埋め尽くし、2人の演奏に耳を傾ける。終演後、余韻が消え切るまで、しっかり聴き続けた後、おもむろに拍手を始めるなど聴衆の錬度もグンと上がった印象を受けた。

 そして、このコンサート最大の魅力は何といっても演者と客席の距離の近さである。一流アーティストの演奏をこんなに間近で聴く機会はなかなかない。木管楽器であるフルートはどちらかといえば、優しい(技術的にではない)印象を与える楽器であるが、高木の演奏に込めた気合や、それに裏打ちされたダイナミックレンジの広さ、激しい息遣いが手に取るように伝わってきて、聴く者を圧倒する。「一流奏者が吹くフルートって、こんなに太い音がする激しい楽器だったのか」。今さらながらの発見であった。

 また、高木と坂野のアンサンブルにおける呼吸感が感じ取れるのもこの会場ならではといえよう。高木の演奏を支えながらも時にスッと前に出て音楽の色を変えていく坂野の絶妙の〝押し引き〟は見事であった。

ミニ講演会で大指揮者の思い出を語る原武氏

 このギャラリーコンサートは、地元広島県呉市出身でサントリーホール総支配人、N響副理事長など音楽界の要職を歴任し、今もPMF理事、サントリーホール・アソシエイトとして活躍する原武氏がプロデューサーを務め開催され続けている。原氏は地元への貢献の意味で交通費等を除いて無報酬で出演アーティストのブッキングやアレンジを行っていることに加えて、時には司会や解説までもこなす。世界レベルの出演アーティストたちもゼロがひとつふたつ少ない破格のギャラでこの島を訪れている。こうした思いに応えるため島の関係者も終演後、その日瀬戸内海で取れた新鮮な海の幸で心尽くしのもてなしを行う。そんな温かい雰囲気に魅せられて、ギャラの多寡に関係なく「また、来たい」と希望するアーティストが続出しているのだという。実に素晴らしいコンサートである。

ミュージック&アーツであそぼう

【ミュージック&アーツであそぼう】

 ギャラリーコンサートが行われた翌朝の午前10時から、子ども向けの教育プログラム「ミュージック&アーツであそぼう」が開催された。これは原氏の発案で今回初めて開かれたもので、子どもたちに事前の解説等で先入観を与えずに音楽を聴かせて、そこから受けた印象を絵に描かせるなどして、子どもの持つ感性を引き出し、音楽と絵画を連動させることで、その創造性を伸ばしていこうというユニークな試みである。

 当日は台風通過の影響で当初の申込者数よりは少なかったものの5~12歳の16人が参加。高木と坂野から楽器の説明を受けた後に、約5分の〝課題曲〟が披露される。高木によると「有名な曲だと先入観があるので、あえてあまり知られていない作品を選んだ」のだという。

ミュージック&アーツ 絵画指導を行うおりでちせ氏

 演奏を聴いた後、音楽から何を感じたのか、どのような印象を受けたのかを絵として表現するために子どもたちはクレヨンを手に画用紙に向かう。地元のイラストレーター、おりでちせ氏が子どもの間を回り、クレヨンの使い方を指導したり質問に答えたりする。完成後、高木から曲の説明を受けた後、改めて音楽を聴きながら自らの描いた絵を見つめ直し、最後にひとりひとりがどのような印象を描いたのかを口頭で発表する。

 筆者が興味深かったのは、女子の絵は人物や花、風景などの具体的な事象が描かれているのに対して、男子の絵は雲のようにもやもやした色の組み合わせなどの抽象的なものが多かったことである。子ども期における男女の感性の違いなのか、それともこの日、会場に集まった子どもたちに限った傾向だったのだろうか。

完成した絵を全員で披露

 保護者たちからは「美術館の絵を案内してもらった時に子どもが〝この絵、どんな音がするのかなあ〟と言ったのに感心させられた。自分でもそのような絵の見方、音楽の聴き方をしたことがなかったので」「上手に描いてほしいと見つめていたけれど、(完成した絵を見て)これも個性なんだ(と納得した)」「普段は音楽や話をじっと聞くことができない子なのに、最後まできちんと聴いていたのにビックリした」など、子どもたちの予想以上の反応に驚きの声が上がっていた。

 会場には教育長ら呉市の教育関係者らが姿を見せるなど注目度も高い。原氏は「今回初めての試みなので、まだ改善の余地はあるものの予想以上の効果が見られた。次回は今回とは逆にサン・サーンスの〝動物の謝肉祭〟などの写実的な曲を聴かせてどんな絵を描くのか、ということにトライするのもひとつの方法でしょう」と手応えを感じている様子だった。

蘭島閣美術館

公演データ

【夢のかけはし~蘭島閣ギャラリーコンサート第225回】

9月21日(土)18:30 広島県呉市下蒲刈島 蘭島閣美術館1階ロビー

フルート:高木 綾子

ピアノ :坂野 伊都子

案内役 :原 武

ポンセ:エストレリータ

ドビュッシー:美しい夕暮れ

ドップラー:森の小鳥

ドビュッシー:ビリティスの歌

モーツァルト:ソナタ K.304

ライネッケ:ソナタ「ウンディーヌ」

【ミュージック&アーツであそぼう】

9月22日(日)10:00 広島県呉市下蒲刈島 蘭島閣美術館1階ロビー

フルート:高木 綾子

ピアノ :坂野 伊都子

絵画指導:おりでちせ

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ)毎日新聞グループホールディングス執行役員、毎日映画社社長、スポニチクリエイツ社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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