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インタビューでひもとく小山実稚恵の新シリーズ「ベートーヴェン、そして…」

 ピアニストの小山実稚恵が、現在、新シリーズ「ベートーヴェン、そして…」の第2回をBunkamuraオーチャードホール(東京)ほか大阪、仙台、札幌など全国6都市で開催している。2020年のベートーヴェン・イヤーを飾るこのシリーズでは、ベートーヴェンにシューベルトやモーツァルト、バッハなど見えない糸でつながる作曲家の作品を知的に組み合わせ、双方の魅力を紡ぎ出す6回のプログラムが予定されている。意外にもシリーズでの取り組みは初めてだというベートーヴェンへの思いや、モーツァルトと組み合わせた第2回公演「決意表明」について、小山に聞いた。 (正木裕美)

シリーズ第1回公演より=6月29日・Bunkamuraオーチャードホール (C) Rikimaru Hotta

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 全6回の本シリーズはリサイタルが5回、来年11月には協奏曲の回を予定。そのうちリサイタルでは、ベートーヴェンの六つのバガテルや28番以降のピアノ・ソナタを取り上げ、他の作曲家の作品と組み合わせている。

 「ベートーヴェンは楽器も移り変わった時期の作曲家であり、楽器の能力以上に作曲したい音楽があって、あらゆる意味で時代の改革者でした。でも耳が聞こえなくなるにつれ、身体の中で聞こえている音楽を作るようになったのだと思います。後期に差し掛かる頃の作品は時々本当に静謐(せいひつ)な瞬間が出てきますし、特に28番以降はベートーヴェンの集大成と言いますか、ある意味で音楽の結晶のようです。革新的でありながら、新しさだけを求め続けているのではない。だからフーガのような立体的な作りもあり、それでいて緩徐楽章の美しさは堪えられないほどになってきますしね」

 10月から11月にかけてのシリーズ第2回は、まさにそうした魅力を持つピアノ・ソナタ「ハンマークラヴィーア」に、モーツァルトの「デュポールの主題による変奏曲」とソナタ第13番を組み合わせた。

 「ベートーヴェンのピアノ・ソナタ29番『ハンマークラヴィーア』はピアノ・ソナタの概念を超えたともいえる偉大なソナタです。この曲と一緒に演奏する曲は何が良いだろうと考えました。対峙(たいじ)するのでもなく、引き立て役になるのでもない音楽。そこで、モーツァルトの音楽が良いと思いました。モーツァルトの音楽は、高潔さと自然な親しみやすさが共存しています。ピアノ・ソナタ13番は『ハンマークラヴィーア』と同じ変ロ長調です。『デュポールの主題による変奏曲』は、ベートーヴェンとデュポール兄弟とのつながりや、個人的なことですが、子ども時代の思い出深い作品でもあったので選曲しました」

インタビューに応じる小山実稚恵

 同じ古典派の作曲家として名を連ねるモーツァルトとベートーヴェンだが、小山から見て、両者のピアノ音楽の違いはどのようなところにあるのだろう。

 「2人とも、ピアノという楽器が激しく移り変わった時代に生きていました。楽器の進化が作品にも大きく関係しているので一概には言えませんが、ベートーヴェンは人間そのものが音楽になっていると感じます。心情や、精神的な部分が音楽の大きな要素になっているというのでしょうか。モーツァルトは、もちろん感情的な部分もありますが、ベートーヴェンのように直接的な表現というよりは、一度濾過(ろか)されて、モーツァルトの音楽となって語られているように感じます。

 言葉で表現するのは難しいですが、あえて言うならベートーヴェンは“燃えたぎる炎のうねり”、モーツァルトは“美しい玉のような物”に、それぞれの音楽がたとえられるように思えるのです」

 シリーズでは6月に行われた初回と2021年の最終回にシューベルトを組み合わせている。2回、しかも幕開けと終幕にシューベルトを配置するところに、この作曲家への思いが感じられる。

 「シューベルトは小さい時から好きでしたが、個人的にいよいよもって好きになってきました。子どもの頃はシューベルトの自然な歌にひかれ、それこそ発表会で自分よりも上の年代の人が弾くと、“ああいう大人の曲が弾きたい”とずっと憧れていました。

 年齢を増すにつれてまた違う感じ方をするようになり、言うに言われぬ微妙な1回目と2回目の違いなど、本当に大好きです。3度上がったり6度上がったりと、ちょっとだけ違ったりしますよね。和声も特別で、打ち震えて弾くような場所が本当に数えきれないほどあります。例えばシリーズ1回目に弾いたピアノ・ソナタ13番の第2楽章冒頭のいつくしむ感じと、同じように和音で始まるベートーヴェンのソナタ31番の出だし。ベートーヴェンは深々と温かく愛がありますが、シューベルトはまた違うのですよね。エキセントリックではなく、でも繊細で……。あれはシューベルトならではですね」

 

 最終回はいずれもハ短調のシューベルトのピアノ・ソナタ第19番とベートーヴェンのソナタ第32番を組み合わせ、「(シリーズ名を冠した)ベートーヴェンとシューベルト、どちらを最後に弾くか迷ってしまうほど」双方への思い入れが強いという。ベートーヴェンが他の作曲家たちとどのような影響を与え合い、ピアノ音楽の系譜を織りなしてきたのか。シリーズを通して堪能したい。

リリースしたばかりのミニ・アルバムは自身初のベートーヴェン・アルバムとなる (C) Wataru Nishida(WATAROCK)

 なお、10月2日にはベートーヴェンのミニ・アルバムを7インチのアナログ・シングルでリリースした。小山にとって初のベートーヴェン・アルバムとなる本作は、「エリーゼのために」やロンド イ長調 WoO49、バガテル ハ長調 WoO56などの小品が収録されている。素朴な味わいの作品を通じ、公演シリーズとはまた一味違う魅力を浮き彫りにしてくれるだろう。

公演詳細

【小山実稚恵ピアノシリーズ「ベートーヴェン、そして…」】第2回 決意表明

11月 8日18:45 三井住友海上しらかわホール(愛知)

11月10日14:00 日立システムズホール仙台 コンサートホール(宮城)

11月16日15:00 Bunkamuraオーチャードホール(東京)

11月24日14:00 いずみホール(大阪)

モーツァルト:デュポールの主題による変奏曲 K.573

モーツァルト:ピアノ・ソナタ第13番 変ロ長調 K.333

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第29番 変ロ長調 Op.106「ハンマークラヴィーア」

ディスク詳細

【「エリーゼのために」アナログ・シングル(7インチ)45回転】

(A面)

ベートーヴェン:バガテル イ短調「エリーゼのために」WoO59

(B面)

ベートーヴェン:ロンド イ長調 WoO49、バガテル ハ長調 WoO56

・品番:SIKC1000

・録音:2019年6月3日 ソニーミュージックスタジオ

筆者プロフィル

 正木裕美(まさき・ひろみ) クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災発生後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材に力を入れている。

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