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オーケストラのススメ

~37~ 来シーズンの日本のオーケストラⅡ~演奏会形式オペラを中心に

山田治生

昨年「フィガロの結婚」を演奏会形式で上演したジョナサン・ノットと東京交響楽団。両者は2020年10月、「トリスタンとイゾルデ」に取り組む=撮影:池上直哉 提供:東京交響楽団

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 2020年シーズンのプログラムのなか、前回は、ベートーヴェン・イヤーにちなんでベートーヴェンに注目したが、今回は、演奏会形式のオペラの公演について取り上げたい。

 近年は、オペラの演奏会形式での上演が面白い。演奏会形式とはいっても、タキシードとドレスを着た歌手たちが横に並んで楽譜を持って歌うよりも、自然な演技や動作を入れてオペラ公演のように歌うのが、トレンドとなっている。簡単な装置、小道具、映像、衣装を使う公演も増えている。本格的な舞台のように予算がかからないし、(演出に邪魔されず)音楽に集中できるというメリットもある。そして、オーケストラを聴くには、ピットよりもステージの上の方が、様子がうかがえ、音も細部までわかる。また、舞台を組んで上演するほどポピュラーではない、レアなオペラが取り上げられるのも特徴の一つだ

 来年の「東京・春・音楽祭」(3~4月)では、四つのオペラが上演される。同音楽祭の恒例となっているワーグナー・シリーズの「トリスタンとイゾルデ」、リッカルド・ムーティが若手歌手たちと手掛けるヴェルディの「マクベス」、来年から始まるプッチーニ・シリーズの「三部作」、そして「ベンジャミン・ブリテンの世界」の「ノアの洪水」である。

東京・春・音楽祭「トリスタンとイゾルデ」で指揮を務めるマレク・ヤノフスキ (C) Felix Broede

 「トリスタンとイゾルデ」の指揮は、このシリーズで「ニーベルングの指環」全曲を手掛けたマレク・ヤノフスキ。彼は、ポーランド出身ながら、バイロイト音楽祭でも「指環」全曲の指揮を担い、来年は同音楽祭でベートーヴェンの「第九」を振るなど、ドイツ音楽界の重鎮としてますます評価を高めている。トリスタンにアンドレアス・シャーガー、イゾルデにペトラ・ラング、マルケ王にアイン・アンガー、ブランゲーネにエレーナ・ツィトコーワなど、理想的なキャストがそろう。オーケストラは、このシリーズを初回から担う、NHK交響楽団。普段ピットに入ることのないN響がオペラを奏でる貴重な機会ともいえる。映像(中野一幸)付き。

ヤノフスキのタクトで「トリスタンとイゾルデ」に出演する(左から)アンドレアス・シャーガー(C)David Jerusalem/ペトラ・ラング(C) Ann Weitz/アイン・アンガー/エレーナ・ツィトコーワ

 「マクベス」は、2019年から始まったムーティの「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」の一環として上演される。ムーティが若い音楽家たちと作り上げる本公演のほか、巨匠によるコンサートホールでの作品解説や、アカデミー受講生の指揮による抜粋演奏会もある。

 読売日本交響楽団が演奏を務めるプッチーニ・シリーズは、「外套」「修道女アンジェリカ」「ジャンニ・スキッキ」の「三部作」で始まる。多彩な管弦楽法を駆使するプッチーニのオペラは演奏会式上演に合っているといえよう。ロベルト・フロンターリが「外套」のミケーレと「ジャンニ・スキッキ」のタイトル・ロールの2役を歌う。指揮はイタリア出身のスペランツァ・スカップッチ。

東京・春・音楽祭でプッチーニの「三部作」を振るスペランツァ・スカップッチ=(C) Silvia Lelli、2作品で題名役を歌うロベルト・フロンターリ(右)

 ブリテンの作品に取り組んでいる「ベンジャミン・ブリテンの世界」。4回目の来年はいよいよオペラを取り上げる。「ノアの箱舟」のストーリーに基づく「ノアの洪水」は、児童合唱が参加し、少人数のアンサンブルによって奏でられる、コンパクトなオペラ。ノア夫妻を宮本益光、波多野睦美が歌う。指揮は加藤昌則。

 「トリスタンとイゾルデ」は、ジョナサン・ノット&東京交響楽団も演奏する(10月)。東響の上演では、第1幕と第2&3幕とを2週に分け、第1幕はシェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」と組み合わされる。マーラーの交響曲やシェーンベルクの「グレの歌」で大きな成果を上げているコンビだけに、ワーグナーのオペラは非常に期待できる。トリスタンにブライアン・レジスター、イゾルデにリサ・リンドストローム、マルケ王にミハイル・ペトレンコ、ブランゲーネにクラウディア・マーンケ。彌勒忠史の演出が入る。

 東京フィルは、定期演奏会で、二つのオペラを取り上げる。ビゼーの「カルメン」(2月)とザンドナーイの「フランチェスカ・ダ・リミニ」(9月)である。

「カルメン」の指揮は東京フィル名誉音楽監督であるチョン・ミョンフン。バスティーユ歌劇場(パリ・オペラ座)やフランス国立放送フィルの音楽監督など、フランスでの活躍の長いチョンにとって、「カルメン」は十八番のオペラの一つ。カルメンを歌うマリーナ・コンパラートは、フェニーチェ歌劇場での「カルメン」でもチョンと共演するなど、マエストロの信頼が厚い。ドン・ホセにキム・アルフレード、エスカミーリョにチェ・ビョンヒョク、ミカエラにアンドレア・キャロル。

東フィルの「カルメン」より、指揮者のチョン・ミョンフン=(C)上野隆文、題名役のマリーナ・コンパラート(右)

 「フランチェスカ・ダ・リミニ」の指揮は、東京フィルの首席指揮者であるアンドレア・バッティストーニ。イタリア出身の俊英、バッティストーニは、これまでにも東京フィルの定期演奏会で、マスカーニの「イリス」(2016年)やボーイトの「メフィストフェレ」(2018年)など、イタリアの演奏機会の少ないオペラを紹介してきた。ザンドナーイはプッチーニよりも少し後の時代のイタリア・オペラ界を担った作曲家。「フランチェスカ・ダ・リミニ」はダンテの「神曲」によっている。タイトル・ロールにマリア・テレーザ・レーヴァ。

東フィル「フランチェスカ・ダ・リミニ」で指揮を務めるアンドレア・バッティストーニ=(C)上野隆文、題名役を歌うマリア・テレーザ・レーヴァ(右)

 パーヴォ・ヤルヴィ&N響も「カルメン」を取り上げる(9月)。バーンスタインの「ウエスト・サイド・ストーリー」、ベートーヴェンの「フィデリオ」に次ぐ、このコンビのオーチャードホールでのオペラ・コンチェルタンテ・シリーズの第3弾となる。まだ詳細は発表されていないが、今年の「フィデリオ」で国際的スター歌手たちによるキャスティングが組まれただけに、「カルメン」も楽しみだ。

 日本フィルが桂冠指揮者兼芸術顧問のアレクサンドル・ラザレフと取り組むオペラにも注目。今年はマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」だったが、来年は、ラフマニノフの初期のオペラ、「アレコ」を演奏する(5月)。タイトル・ロールにニコライ・エフレーモフ。ラフマニノフ交響曲ツィクルスで大きな成果を示したラザレフ&日本フィルだけに聴き逃せない。

日フィルとともにラフマニノフのオペラ「アレコ」に挑むアレクサンドル・ラザレフ=(C)堀田力丸、題名役のニコライ・エフレーモフ(右)

 読売日本交響楽団常任指揮者、セバスティアン・ヴァイグレは、フランクフルト歌劇場音楽総監督を兼務するなど、オペラ指揮者としての評価がきわめて高い。ヴァイグレは、十八番のワーグナーのオペラから「ワルキューレ」第1幕を演奏する(7月)。ジークムントにペーター・ザイフェルト、ジークリンデにジェニファー・ホロウェイ、フンディングにファルク・シュトルックマン。

 東京シティ・フィルは常任指揮者の高関健とプッチーニの「トスカ」に取り組む(3月)。トスカに木下美穂子、カヴァラドッシに小原啓楼、スカルピアに上江隼人、アンジェロッティに妻屋秀和ら、今が旬の日本人歌手を配しての上演。

 東京二期会もコンチェルタンテ・シリーズのタイトルで、オペラのセミ・ステージ形式での上演を行っている。来年はサン=サーンスの「サムソンとデリラ」(4月)。準・メルクル指揮東京フィルの演奏で、飯塚励生の舞台構成が入る。サムソンに福井敬と樋口達哉、デリラに池田香織と板波利加、のダブル・キャスト。

筆者プロフィル

 山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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