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アンコール

ブロムシュテット指揮 NHK交響楽団11月定期公演

38年にわたって信頼関係を築いてきたブロムシュテットとN響=11月6日・サントリーホール 写真提供:NHK交響楽団

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 11月、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルなど海外の名門オーケストラの来日ラッシュとなった中、在京オーケストラの公演の中で特に注目を集めたのはヘルベルト・ブロムシュテットが指揮したNHK交響楽団の定期公演であった。ABC3プログラム、計6回の公演はいずれもチケットが完売か、ほぼ満席の盛況ぶり。そんな期待に応えるかのように、今年92歳のブロムシュテットは衰えを感じさせないどころか、若々しくすら感じさせる音楽作りで連日、客席を沸かせた。

 現在、第一線で活躍する現役指揮者としては最高齢のブロムシュテットだが、80歳を超えたあたりから作品への向き合い方が一層真摯(しんし)な姿勢となり、その芸術性の深みも増したことなどによって、世界中の名門オケから引っ張りだこの人気となっている。海外のオケを率いての来日公演も何度か聴いたが、38年間にわたってコンスタントに客演を続け、親密な関係を維持してきたN響との演奏が、今のブロムシュテットを最もクリアに映し出す〝鏡〟のように感じているのは筆者だけではないだろう。これほどまでに長いキャリアにもかかわらず、現状に満足することなく、常に変化、進化を標榜(ひょうぼう)する姿勢は称賛に値するものである。

 今回はAプロ(11月16・17日、NHKホール)がスウェーデンの作曲家ステンハンマルのピアノ協奏曲第2番(ピアノ=マルティン・ステュルフェルト)とブラームスの交響曲第3番。Bプロ(6・7日、サントリーホール)は前半が、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」、後半はリヒャルト・シュトラウスの交響詩「死と変容」とワーグナーの「タンホイザー」序曲。Cプロ(22・23日、NHKホール)はオール・モーツァルトで交響曲第36番「リンツ」とミサ曲ハ短調。これまでN響と演奏してきた彼のレパートリーの中から、ブルックナーとマーラーを除いた主要な部分を網羅したような構成となっていた。

Cプロではモーツァルトのミサ曲ハ短調を取り上げ、透明感あふれるサウンドを響かせた=11月22日・NHKホール 写真提供:NHK交響楽団

 中でも興味深かったのはBプロである。通常とは逆ともいえる演奏順であるが、同じことを19世紀末から20世紀初頭に活躍した名指揮者アルトゥール・ニキシュがやっていたそうだ。ニキシュの意図は分からないが、ブロムシュテットは単にそのまねをしているわけではないことだけは確かであろう。

 かつてブロムシュテットはベートーヴェンを取り上げる際、20世紀の巨匠たちと同じように大編成のオケを駆使して重厚壮大で、ロマンの香りすら漂う演奏を行っていた。ところが、近年は作曲家在世当時のスタイル、いわゆるピリオド奏法の要素を取り入れ、譜面も最新の研究結果を反映させた校訂版(ベ―レンライター版)を採用。これらに沿って弦楽器は小編成、管は譜面の指定通り、アーティキュレーション(音と音のつなげ方)やテンポ設定もすべて見直し、ロマン派の音楽とは明確に一線を画したシンプルで引き締まったアプローチで臨んでいる。

 この日の「英雄」もまさにそうした思想に立脚した演奏であった。そこに20世紀的な〝指揮者の解釈〟、言い換えれば好みや根拠のない作為は、まったく存在していなかった。数年前にN響とこの曲を演奏した時に比べても、その姿勢はさらに進化しており、筆者は清らかな泉から湧き上がる澄んだ水のような印象を受けた。

 一方、後半のシュトラウスとワーグナーの緻密かつ堂々たる音楽作りは、前半のベートーヴェンと鮮やかなコントラストをなしており、同じドイツ音楽といえども時代が少し違うとその演奏法は決して同じであってはならない、ということを示しているかのようであった。

 こうしたベートーヴェンに対するアプローチはCプロのモーツァルトにも共通しており、とりわけミサ曲では透明感にあふれた美しいサウンドで、作品の魅力を過不足なく伝える演奏を聴かせてくれた。〝私〟を一切排して作品に向き合うブロムシュテットが織りなす宗教曲を聴いていると、この指揮者が作曲家や作品というバイブルにひざまずく聖職者や求道者のように見えてきた。Cプロの取材日は今回の来日の最終日となる23日。オーケストラが退場後も喝采はやまず、ブロムシュテットがステージに再登場していた。なお、コンサートマスターはAとBが篠崎史紀、Cは伊藤亮太郎が務めた。また、ブロムシュテットのN響への次回来演は来年10月に予定されている。(宮嶋 極)

オーケストラの退場後、聴衆の喝采に応えて再びステージに上がるブロムシュテット=11月23日・NHKホール 写真提供:NHK交響楽団

公演詳細

【NHK交響楽団 11月定期公演】

Aプログラム

11月16日(土)18:00 17日(日)15:00 NHKホール

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

ピアノ:マルティン・ステュルフェルト

ステンハンマル:ピアノ協奏曲第2番 ニ短調 Op.23

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 Op.90

 

Bプログラム

11月6日(水) 7日(木)いずれも19:00 サントリーホール

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調Op.55「英雄」

R・シュトラウス:交響詩「死と変容」Op.24

ワーグナー:「タンホイザー」序曲

 

Cプログラム

11月22日(金)19:00 23日(土)15:00 NHKホール

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

ソプラノ:クリスティーナ・ランツハマー

ソプラノ:アンナ・ルチア・リヒター

テノール:ティルマン・リヒディ

バリトン:甲斐栄次郎

合唱:新国立劇場合唱団

モーツァルト:交響曲第36番 ハ長調 K. 425「リンツ」

モーツァルト:ミサ曲 ハ短調K. 427

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ)毎日新聞グループホールディングス執行役員、毎日映画社社長、スポニチクリエイツ社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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