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アンコール

マリインスキー・オペラ日本公演 チャイコフスキー:歌劇「スペードの女王」

「スペードの女王」より、中央は12/1に士官ゲルマンを演じたウラディーミル・ガルージン=東京文化会館 (C)Yutaka Nakamura

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 昨年11月末から12月初旬にかけて開催されたサンクトペテルブルク・マリインスキー劇場の日本公演からチャイコフスキーの歌劇「スペードの女王」のステージをリポートする。取材したのは、11月30日、東京文化会館での公演。

 日本で上演されたヴァレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場による「スペードの女王」はこれが三つ目のプロダクションになるそうだ。1993年のユーリ・テミルカーノフ演出版、2000年のアレクサンドル・ガリービン演出のステージ、そして今回、アレクセイ・ステパニュク演出版(2015年新制作)とのことで、それらを振り返ってみるとマリインスキー劇場とそれを取り巻く、さまざまな情勢や環境の変化がステージに色濃く反映していることが分かる。

 ステパニュクのプロダクションは、西ヨーロッパの音楽祭や最先端をいく劇場と同じく、ステージセットを最小限にして、光の強弱や色彩の変化で登場人物の心情や場の状況を象徴的に描いていくスタイル。天井から下がる十数本の円柱が自在に移動することで、さまざまな場の情景を表していく。少し現代的にアレンジされた帝政ロシア時代の衣装も美しく、ステージ全体に華を添える役割を果たしていた。

 筆者の記憶ではテミルカーノフ版は写実的でロシアの伝統を踏襲したもの(誤解を覚悟の上で言い換えれば、少し古びた舞台)であったし、ガリービンの演出もかなり写実的だったとの印象が残っている。それらに比べると今回のステージは現代的でかなり洗練されていた。その結果、音楽や歌手の演技に集中しやすかったようにも感じた。

 3枚のカードの秘密にとりつかれる士官ゲルマンを演じたミハイル・ヴェクワと、その恋人リーザ役のイリーナ・チュリロワ、カードの秘密を知る老伯爵夫人役のアンナ・キクナーゼら歌手陣は、いずれも水準を十分に満たす歌唱と演技を披露。特に主役2人の動的な役作りと、それ以外のキャストの静的なたたずまいの色分けは、とても興味深かったし出演者全員に徹底されていた点も見事だった。

終演後のカーテンコールで観客の拍手に応えるゲルギエフと出演者たち=12月1日・東京文化会館 (C)Yutaka Nakamura

 ゲルギエフを中心に紡ぎ出される音楽は繊細な美しさが際立つ上質なものであった。指揮者の意図が隅々にまで行き届いていて、登場人物の心の動きに合わせて歌唱も含めた音楽全体が一体となって微妙に移ろっていくことで、観客・聴衆を物語の世界へと強く引き込んでいった。オペラ指揮者としてのゲルギエフの手腕を改めて確認した思いがした。

 そういえば93年の来日の際、休憩時にオーケストラ・ピットの中をのぞいてみたところ、日本では中学校のブラスバンドでも使われないような粗末な中古楽器が並んでいて驚かされたことを思い出す。当時のロシアはソ連崩壊後の経済混乱のため、劇場の運営も困難を極めておりロビーでは募金活動が行われていた。彼らが奏でる音楽が発散する独特の熱気に心打たれた半面、粗さを隠し切れない点が随所にあったことも確かである。あれから四半世紀がたち、そうした欠点はまったく消えてなくなり、ピットの中に並ぶ楽器も世界一流にふさわしいものにグレードアップされていた。あらゆる面でマリインスキー劇場はかつての威容を取り戻し、芸術的にも世界有数のオペラ劇場の〝隊列〟に再び加わったことが今回の上演全体から伝わってきた。(宮嶋 極)

公演データ

【マリインスキー・オペラ日本公演 チャイコフスキー:歌劇「スペードの女王」(全3幕ロシア語上演、日本語字幕付き)】

2019年11月30日(土)15:00 12月1日(日)15:00

東京文化会館

指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ

演出:アレクセイ・ステパニュク

ゲルマン:ミハイル・ヴェクワ (11/30)、ウラディーミル・ガルージン(12/1)

トムスキー伯爵:ウラディスラフ・スリムスキー

エレツキー公爵:ロマン・ブルデンコ

伯爵夫人:アンナ・キクナーゼ

リーザ:イリーナ・チュリロワ

ポリーナ:ユリア・マトーチュキナ

管弦楽:マリインスキー歌劇場管弦楽団

合唱:マリインスキー歌劇場合唱団

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ)毎日新聞グループホールディングス執行役員、毎日映画社社長、スポニチクリエイツ社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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