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オーケストラのススメ

~39~ 2020年、オーケストラ界で注目のコンサート

今年の来日オーケストラで筆者がもっとも注目する、サイモン・ラトル率いるロンドン響 (C)Oliver Helbig

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 新しい年がスタートし、カレンダーや手帳にコンサートの予定を書き込むことは、音楽ファンの大きな喜びに違いない。今回は、1年の始まりに際し、私自身が今年特に楽しみにしているコンサートについて述べたいと思う。

 2020年は、オリンピックイヤーということで関連のコンサートが催されたり、ベートーヴェンの生誕250周年ということでベートーヴェンの作品が例年以上に演奏されたりする。そんな中、8月6日には広島への原爆投下から75年を迎え、8月5、6日、広島での「平和の夕べ」コンサートで、藤倉大のピアノ協奏曲第4番「Akiko’s Piano」(広響委嘱)がマルタ・アルゲリッチの独奏、下野竜也&広島交響楽団によって世界初演される。アキコのピアノとは、広島で原爆のため19歳の短い生涯を終えた河本明子さんが愛用していたアップライトピアノ(米ボールドウィン社製)。その被爆ピアノは、調律師の坂井原浩氏によって当時の素材をできるだけ残すかたちで修復されたのであった。

 藤倉の新作ピアノ協奏曲では、カデンツァの部分がアキコのピアノによって演奏される(カデンツァ以外の部分は通常のグランドピアノで演奏)。ロンドン在住の藤倉は、昨年、広島に滞在し、そこに保存されているアキコのピアノでカデンツァを作曲した。

 アルゲリッチは、2015年以来、広響と協演を重ね、現在、広響平和音楽大使を務めている。世界的に注目されている藤倉が、被爆ピアノからインスピレーションを受け、アルゲリッチのためにどんな協奏曲を書いたのか、まさに興味津々である。

 このコンサートでは、広響に、シンフォニア・ヴァルソヴィア、DRデンマーク国立響、パリ管、ロサンゼルス・フィル、NDRエルプフィル、ウェスト=イースタン・ディヴァン・オーケストラのメンバーが加わり、広島インターナショナル・ピース・オーケストラが編成される。そして、藤倉のピアノ協奏曲第4番の世界初演のほか、ベートーヴェンの交響曲第9番が高らかに歌い上げられる。

広響の平和音楽大使を務めるマルタ・アルゲリッチは昨夏ワルシャワで広響メンバーと協演(左)。今回は下野竜也の指揮で藤倉の協奏曲を初演する

 2020年は、日本で藤倉大の大きな作品が次々と演奏される。新国立劇場では、11月にオペラ「アルマゲドンの夢」が大野和士&東京フィルなどによって世界初演される。全体主義や大量殺戮(さつりく)への不安をテーマとしたG.H.ウェルズの小説を原作とし、ハリー・ロスが現代的な視点で台本(英語)を作成。既に作曲は終えられているという。

 そのほか、「三味線協奏曲」(2019)が、5月に、本條秀慈郎の独奏、ジェフリー・パターソン&名古屋フィルによって日本初演され、7月に、やはり本條の独奏、大野和士&東京都交響楽団によって演奏される。

 また、ジョナサン・ノット&東京交響楽団は、藤倉自身のオペラ「ソラリス」の音楽を基に作られた20分ほどの管弦楽曲、「海」を取り上げる。

新国立劇場の委嘱作品「アルマゲドンの夢」を作曲した藤倉大(左)と初演を指揮する大野和士

 ベートーヴェン・イヤーで最も楽しみなのは、テオドール・クルレンツィス&ムジカエテルナ。彼らは、2018年にザルツブルク音楽祭でベートーヴェンの交響曲全曲演奏を行っている。今回の来日公演では、ベートーヴェンの交響曲第9番、ヴァイオリン協奏曲と交響曲第7番、という二つのプログラムが予定されているが、特に「第九」が楽しみだ。というのも、ムジカエテルナは、オーケストラと合唱団で一つの団体だからである(既にオペラなどで大きな成果を上げている)。昨年の初来日はオーケストラのみだったが、今回の合唱を伴った公演(しかも「第九」!)で彼らの全容が示される。ヴァイオリン協奏曲での独奏は、クルレンツィスの盟友というべき、パトリツィア・コパチンスカヤ。昨年のムジカエテルナとのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲での自由奔放な演奏が記憶に新しいが、今回のベートーヴェンでも即興性に富む演奏を聴かせてくれるに違いない。

 今年が創立30周年にあたるバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が、音楽監督・鈴木雅明の指揮で、ベートーヴェンの交響曲第5番とミサ曲ハ長調を取り上げるのも注目である。ピリオド楽器を使用し、バッハ作品をメインレパートリーとしているBCJが、定期演奏会でベートーヴェンの交響曲を演奏するのは異例といえよう(定期演奏会以外では、これまでにベートーヴェンの「第九」や交響曲第2番も演奏している)。鈴木のベートーヴェンは、情熱的でドラマティック。BCJとどんな「運命」を聴かせてくれるのか、大いに期待される。

今回は合唱団も伴い来日するテオドール・クルレンツィスとムジカエテルナ (C)Anton Zavjyalov

 アニバーサリーを離れて、今年とりわけ楽しみなのは、ノット&東響による、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」。今回の演奏では、「トリスタンとイゾルデ」を第1幕と第2、3幕の2公演に分け、第1幕にはシェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」をカップリングする。禁断の愛を描く、「ペレアスとメリザンド」と「トリスタンとイゾルデ」を組み合わせるところが、ノットらしい。シェーンベルクの音楽の中にワーグナーが見いだされることだろう。どちらの曲もオーケストラにとっては相当に負担になる作品であるが、今のノット&東響なら、見事な演奏を聴かせてくれるに違いない。そして、ノットのオペラ指揮者としての本領を聴くことができるであろう。今回の「トリスタンとイゾルデ」は、ノット&東響の長い関係(ノットは2014年に東響音楽監督に就任し、2026年まで契約延長)のなかで一つの頂点というべき公演になるかもしれない。

ジョナサン・ノットと東響はモーツァルトのダ・ポンテ3部作に次いで「トリスタンとイゾルデ」に挑む 撮影:池上直哉 提供:東京交響楽団=2018年12月9日 サントリーホール

 また、パーヴォ・ヤルヴィ&NHK交響楽団とチョン・ミョンフン&東京フィルとのマーラーの交響曲第3番の聴き比べも楽しみである。パーヴォ&N響も、チョン・ミョンフン&東京フィルも、すでにマーラーの第3番で名演を残しているが、一層関係性を深めたそれぞれのコンビがこの壮大な交響曲でより熟成された演奏を披露してくれるに違いない。

 今年の来日オーケストラでの私の一番の注目は、サイモン・ラトル&ロンドン交響楽団。2018年のこのコンビのハネムーンというべき来日公演は、音楽の喜びに満ちたものだった。今回の来日にも、バルトークの管弦楽のための協奏曲とオペラ「青ひげ公の城」を組み合わせた一夜やマーラーの交響曲第2番「復活」など、意欲的なプログラムを持ってくる。マーラーの「復活」は、6月のグスターボ・ドゥダメル&ベルリン・フィルとの競演となる。2020年もマーラーは最も重要な作曲家の一人となる。

筆者プロフィル

 山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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