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加藤浩子「名画が語る名作オペラ」

スキャンダルはお好き?〜「椿姫(ラ・トラヴィアータ)」から「オランピア」へ

エドゥアール・マネ「オランピア」1865年

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 今月から、加藤浩子さんの新連載「加藤浩子「名画が語る名作オペラ」」がスタートします。世界のオペラ劇場と街の魅力をつづる「加藤浩子の『街歩き、オペラ歩き』」に続き、新連載のテーマはオペラと絵画。風刺や時代背景を映し出す二つの芸術を1本の線で結び、作品の魅力に迫ります。

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 パリのオペラ座で、その女性に会ったことがある。

 美しい裸体をこれ見よがしにさらけ出し、挑むような視線をこちらに投げている若い女性。黒人の小間使いが贈り物らしき花束を抱え、足元には黒い背景に溶け込むような黒猫が尻尾(しっぽ)を立てている。

 上演されていたオペラは「椿姫」(ブノワ・ジャコ演出)。パリに実在した高級娼婦(しょうふ)がモデルの、ヴェルディの人気オペラだ。その女性を描いた絵は、ヒロインが使っている天蓋(てんがい)つきのベッドのヘッドボードの上にかかっていた。ヒロインの正体をほのめかすように。

 エドゥアール・マネ「オランピア」。1865年に発表されると「不道徳」だ「ひわい」だと激しい非難を浴びた作品である。非難の理由はなまなましい裸体と、彼女の素性にあった。ヌードといえば神話の女神や歴史上の有名女性が一般的だった当時、「オランピア」は明らかに同時代の女性、それも娼婦を暗示していたからだ。オランピアという名自体が娼婦によくある名前だったことに加え、片方だけ履いているサンダルは処女喪失の象徴であり、猫は女性器の暗喩だった。その2年前、マネは「草上の昼食」でやはり裸の女性を描き、美術界に衝撃を与えている。「草上の昼食」も「オランピア」も、構図上は16世紀イタリアの画家ティツィアーノの作品を下敷きにしているのだが、「時代を先取りし、見た通りに描く」ことを身上としていたマネは、型通りの構図に新しい生命を吹き込んだのだった。

 「オランピア」に先立つこと12年、1853年に初演された「椿姫」もまた、同様の批判を浴びた作品である。絵画同様、オペラの題材も歴史物が定番だった当時、同時代の娼婦を主人公にした「椿姫」はあまりにも大胆だった。初演の反応が芳しくなかったのはそのせいで、ヒロイン役の歌手が太っていたから失敗したという説は今日では研究で否定されている。ヴェルディは、社会の偏見のために娼婦のヒロインが純愛を諦めさせられるという本作のテーマを通じて、社会を痛烈に批判したのだった。ちなみに「椿姫」の原題は「ラ・トラヴィアータ La traviata」。「道を誤った女(女としての道を踏み外した娼婦)」という意味である。

 それから170年近く。今や「椿姫」は世界で一番上演回数が多いオペラ(Operabase調べ)として、不動の人気を誇っている。マネが絵画の革命児として、不動の評価を確立したように。

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ヴェルディ「椿姫」公演情報

東京二期会オペラ劇場「椿姫」(新制作)

http://www.nikikai.net/lineup/traviata2020/index.html

筆者プロフィル

 加藤 浩子(かとう・ひろこ) 音楽物書き。慶応義塾大学、同大学院修了(音楽学専攻)。大学院在学中、オーストリア政府給費留学生としてインスブルック大学留学。バッハとイタリア・オペラをテーマに、執筆、講演、オペラ&音楽ツアーの企画同行など多彩に活動。著書に「今夜はオペラ!」「ようこそオペラ!」「オペラ 愛の名曲20選+4」「名曲を生みだした女性たち クラシック 愛の名曲20選」「モーツァルト 愛の名曲20選」(春秋社)、「バッハへの旅」「黄金の翼=ジュゼッペ・ヴェルディ」(東京書籍)、「人生の午後に生きがいを奏でる家」「さわりで覚えるオペラの名曲20選」「さわりで覚えるバッハの名曲25選」(中経出版)、「ヴェルディ」「オペラでわかるヨーロッパ史」「音楽で楽しむ名画」(平凡社新書)、「バッハ」(平凡社新書)。最新刊「オペラで楽しむヨーロッパ史」(平凡社新書)が3月刊行予定。

公式HP

http://www.casa-hiroko.com/

ブログ「加藤浩子のLa bella vita(美しき人生)」

https://plaza.rakuten.co.jp/casahiroko/

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