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アンコール

1月の国内オーケストラ公演から、注目公演をリポート

N響1月定期でマーラーの「復活」を指揮したクリストフ・エッシェンバッハとソロを務めたマリソル・モンタルヴォ(左)、藤村実穂子=1月11日NHKホール 写真提供:NHK交響楽団

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 2020年1月に東京で開催された国内オーケストラの演奏会から注目の公演を振り返る。

【NHK交響楽団1月定期公演】

 NHK交響楽団、1月の定期公演はクリストフ・エッシェンバッハ(Aプロ、Cプロ)、ファビオ・ルイージ(Bプロ)の2人のビッグネームが指揮台に立った。取材したのはAプロ2日目(12日、NHKホール)とBプロ初日(22日、サントリーホール)。

 Aプロはマーラーの交響曲第2番。最近のN響のマーラーといえば、首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ、桂冠名誉指揮者のヘルベルト・ブロムシュテットとの数々の名演が頭に浮かぶ。両者のアプローチには共通点も多く、それがこのところのN響におけるマーラーの基本的なイメージを形作っているのだが、エッシェンバッハとの演奏はそれらとはやや趣を異にしていた。

 前者は作品の複雑な構造や構成を精緻に分析するように音楽を組み立てていくのに対して、エッシェンバッハのアプローチは響きの構築や旋律の処理に重きを置き、弱音から最強音までの幅を広く取り劇的に音楽を進めていくスタイル。弱音の美しさが際立っており、その分、フォルティシモも効果的に響く。演奏全体に高い緊張感が張り詰め、クライマックスの構築も壮大なものであった。ソリストはマリソル・モンタルヴォ(ソプラノ)、藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)、新国立劇場合唱団。コンサートマスターは伊藤亮太郎。

N響の1月定期でオール・ドイツ・プログラムを指揮したファビオ・ルイージ。左はゲスト・コンサートマスターのライナー・キュッヒル=1月22日サントリーホール 写真提供:NHK交響楽団

 一方、ルイージが指揮したBプロはウェーバーの歌劇「オイリアンテ」序曲、リヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」(ソプラノ=クリスティーネ・オポライス)、交響詩「英雄の生涯」というオール・ドイツもの。注目はやはり「英雄の生涯」であろう。ルイージは緻密な組み立てをベースに彼ならではの情熱を加味した質の高い演奏を披露。コンサートマスターはゲスト・コンマスのライナー・キュッヒル(元ウィーン・フィル第1コンマス)。曲の中盤から超絶技巧が要求されるヴァイオリン・ソロが延々と続く、コンマスの力量が試される難曲でもある。キュッヒルがN響コンマスとしてこの曲を弾くのは2度目。前回、2011年5月、尾高忠明指揮の時に比べると音程の跳躍時などに年齢的な衰えを感じさせられる箇所はあったものの、確信に満ちた表現と指揮者の意図をくんでオーケストラ全体を積極的に引っ張っていく様子はさすがのひと言に尽きた。世界最高峰のオーケストラで長年にわたって多くの名指揮者たちとの共演を積み重ねてきたからこそ生まれる表現の数々は、たとえ万全のテクニックを有していたとしても若いヴァイオリニストには決してまねできないものであろう。

十八番のひとつであるスメタナの「わが祖国」を指揮した小林研一郎と日本フィル=1月17日サントリーホール (C)山口敦

【日本フィルハーモニー交響楽団1月東京定期演奏会】

 日本フィルでは桂冠名誉指揮者の小林研一郎が、十八番のひとつであるスメタナの連作交響詩「わが祖国」を指揮し味わい深い演奏を披露した。取材したのは1月18日、サントリーホールにおける公演。

 今年80歳を迎える小林は、昨年末、鼻血が止まらなくなり救急搬送されたことで体調が心配されたが、日本フィル関係者によるとリハーサルから本番まで健康不安を感じさせることはなかったそうで、この日のステージでも足取りは軽く気力が充実している様子。安心して演奏に没頭することができた。1990年代にはチェコ・フィルの客演常任指揮者を務め、2002年にはチェコを代表する音楽祭「プラハの春」の開幕公演で「わが祖国」を指揮したことがある小林にとっては思い入れの深い作品である。かつて〝炎のマエストロ〟と呼ばれ情熱あふれる演奏で客席を沸かせた小林だが、この日の「わが祖国」はパッションで押すのではなく、ひとつひとつの旋律を慈しみながら丁寧に紡いでいき、しみじみとした感動を呼び起こす音楽に仕上げていた。こうしたアプローチは大みそか恒例のベートーヴェン全交響曲連続演奏会でも同様で、小林が巨匠への道を歩み始めたことを示す変化であるのかもしれない。小林の意図に応えて日本フィルは丁寧かつ美しい演奏を聴かせてくれた。コンサートマスターは田野倉雅秋。

昨年に続き尾高忠明の指揮で行われた大阪フィルの東京定期=1月21日サントリーホール(C)青柳聡

【大阪フィルハーモニー交響楽団東京定期演奏会】

 大阪フィルハーモニー交響楽団の東京定期は1月21日、サントリーホールで開催された。指揮は音楽監督の尾高忠明、演目はエルガーのチェロ協奏曲ホ短調(チェロ=スティーヴン・イッサーリス)、ブルックナーの交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」。

 この公演も「変化」がキーワードであった。こちらは指揮者ではなく、オーケストラの変化である。筆者は朝比奈隆の時代から大阪フィルを聴いてきたが、そのサウンドイメージといえば、とりわけブルックナーでは金管楽器が咆哮(ほうこう)し、全体は粗削りながらも豪放磊落(らいらく)というものであった。しかし、この日尾高が大阪フィルから導き出したサウンドは従来のイメージとは正反対、繊細にバランスを整えた柔らかい響きで深みのあるブルックナーの世界を描き出していた。エルガー、ブルックナーはともに尾高が長年にわたって力を入れて取り組んできた作曲家であり、作品に対する共感の度合いも深い。それがこの日の演奏に反映されているのであろう。その結果、大阪フィルが驚くほどの変化を遂げることにつながったのかもしれない。尾高の誠実に作品に向き合う姿勢はブルックナーの神髄に近づくには適しており、大阪フィルもそれにしっかりと呼応して完成度の高い演奏を繰り広げていた。コンサートマスターは崔文洙。

 最後に一点付記しておきたい。それは、ティンパニのロールの音があまりにも固かったこと。筆者は長年の取材経験から、ブルックナーのティンパニはハーモニーの土台を支えるパイプオルガンの低音部のような響きが求められるものと考える。だから、ロールの粒が聴き取れるのはいかがなものかと感じた。ドイツのオーケストラでは頭が大きくて柔らかいマレットで演奏されることが多い。ホームの大阪・フェスティバルホールとサントリーホールとの音響の違いも影響したのかもしれないが、雷鳴のようなトレモロが何度か出てきたのには違和感を覚えた。オケ全体が繊細な音色で素晴らしい効果を上げていただけに、余計残念に感じられた。(宮嶋 極)

公演データ

【NHK交響楽団 第1930回定期公演 Aプログラム】

1月11日(土)18:00、12日(日)15:00 NHKホール

指揮:クリストフ・エッシェンバッハ

ソプラノ:マリソル・モンタルヴォ

メゾ・ソプラノ:藤村実穂子

合唱:新国立劇場合唱団

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」

【NHK交響楽団 第1932回定期公演 Bプログラム】

1月22日(水)、23日(木)19:00 サントリーホール

指揮:ファビオ・ルイージ

ソプラノ:クリスティーネ・オポライス

ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲

R・シュトラウス:「4つの最後の歌」

R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」Op.40

【日本フィルハーモニー交響楽団 第717回定期演奏会】

1月17日(金)19:00、18日(土)14:00 サントリーホール

指揮:小林研一郎

スメタナ:連作交響詩「わが祖国」

【大阪フィルハーモニー交響楽団 第52回東京定期演奏会】

1月21日(火)19:00 サントリーホール

指揮:尾高忠明

チェロ:スティーヴン・イッサーリス

エルガー:チェロ協奏曲ホ短調Op.85

ブルックナー:交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」(第3稿)

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ)毎日新聞グループホールディングス執行役員、毎日映画社社長、スポニチクリエイツ社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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