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子どものときから、地元の鎌倉と逗子の間の小坪トンネルに出る幽霊の話をさんざん聞かされてきた。トンネルの山の上に火葬場があるからだろう。タクシーが空車で走っていると、小坪トンネルでいつの間にか後部座席に若い女の幽霊が乗っているという。運転手が恐怖のあまりスピードを上げて鎌倉市街に入ると後部座席から消えているらしい。川端康成の短編「無言」にもそのままの話が出ている。この若い女の幽霊の話は昔から定着しているようだ。
「無言」は、倒れて言葉が話せなくなった老作家の大宮を後輩の作家の三田が見舞いに行く話である。大宮は逗子の自宅で療養していて娘の富子が一人で面倒を見ている。相手が話すことを大宮はすべて分かる。自分から話せなくとも、字を指し示すことぐらいはできるはずだが、大宮はなぜか言葉を一切断ち切っている。
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