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加藤浩子「名画が語る名作オペラ」

「宮廷道化師」の光と影〜「ラス・メニーナス」と「リゴレット」の間

ディエゴ・ベラスケス「ラス・メニーナス(女官たち)」

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 スペイン17世紀を代表する画家、ディエゴ・ベラスケスの代表作で、傑作の誉れ高い「ラス・メニーナス(『=女官たち』の意)」(1656年)は、「宮廷」の構成員を知るうえでも興味深い作品だ。

 画面のヒロインは、当時5歳のマルゲリータ王女。両親であるスペイン国王フェリペ4世とマリアナ王妃は、背後の壁にかかる鏡に映し出されている。扉のところからこちらを向いているのは王妃付きの侍従。王女の左手にはひざまずく侍女と絵筆を持つベラスケス自身が、右手にはもう一人の侍女が立ち、その背後には王女の目付役たちが、そして侍女の手前前景には二人のこびとが配されている。「宮廷」とはこういう人々が、主君にかしずく場だった。

 二人の「こびと」は、「宮廷道化師」と呼ばれるグループに属する。身体が奇形だったり精神を病んでいたりするため、「人間」ではなく「玩具」とみなされ、宮廷に雇われ、時に買われたひとびとだ。彼らはあざけられて笑いを提供し、子供のおもちゃになった。ベラスケスは何人もの宮廷道化師の肖像画を描いているが、彼の描く道化師はみな表情豊かで、今にも声が聞こえてきそうに人間的だ。

 「人間」とみなされていないのに、このうえなく人間的な宮廷道化師。それをオペラの世界で表現したのが、ジュゼッペ・ヴェルディの「リゴレット」(1851年)である。主人公のリゴレットは、北イタリアのマントヴァの宮廷に仕える道化師。主君の公爵は極め付きの放蕩(ほうとう)者で、リゴレットは彼に取り入るため、時に公爵が言えない本音――例えば妻を提供しない臣下の首を切ってしまえなど――を代弁して宮廷人から蛇のように嫌われている。だが、毒舌を吐いて宮廷のガス抜きをすることも、道化師の重要な役目だった。リゴレットはそのような身の上を、「人殺しと同じ」だと嘆く。彼の唯一の救いは亡き妻が遺(のこ)した一人娘だが、宮廷人にとって道化師に娘がいるなど想像を絶することだった。それを知るリゴレットは娘を周りから隠そうと必死になるが、その盲愛が悲劇へとつながってゆく。

 人間的な感情も、愛も、家族も、持ち合わせるはずがないと思われていた「宮廷道化師」。ベラスケスもそしてヴェルディも、歴史の闇にいた彼らに光を当て、人間として生き返らせたのである。

      ◇   ◇

ヴェルディ「リゴレット」公演情報

関西二期会第93回オペラ公演

https://kansai-nikikai.com/publics/index/82/

筆者プロフィル

 加藤 浩子(かとう・ひろこ) 音楽物書き。慶応義塾大学、同大学院修了(音楽学専攻)。大学院在学中、オーストリア政府給費留学生としてインスブルック大学留学。バッハとイタリア・オペラをテーマに、執筆、講演、オペラ&音楽ツアーの企画同行など多彩に活動。著書に「今夜はオペラ!」「ようこそオペラ!」「オペラ 愛の名曲20選+4」「名曲を生みだした女性たち クラシック 愛の名曲20選」「モーツァルト 愛の名曲20選」(春秋社)、「バッハへの旅」「黄金の翼=ジュゼッペ・ヴェルディ」(東京書籍)、「人生の午後に生きがいを奏でる家」「さわりで覚えるオペラの名曲20選」「さわりで覚えるバッハの名曲25選」(中経出版)、「ヴェルディ」「オペラでわかるヨーロッパ史」「音楽で楽しむ名画」「バッハ」(平凡社新書)。最新刊は「オペラで楽しむヨーロッパ史」(平凡社新書)。

公式HP

http://www.casa-hiroko.com/

ブログ「加藤浩子のLa bella vita(美しき人生)」

https://plaza.rakuten.co.jp/casahiroko/

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