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先月のピカイチ 来月のイチオシ

コロナ禍の今こそ聴きたい「イチ盤」

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 新型コロナウイルスの感染拡大防止で外出自粛が求められ、「巣ごもり生活」が続いています。演奏会も中止・延期を余儀なくされ、新企画「先月のピカイチ 来月のイチオシ」もしばらくお休みに。でも、そんな今だからこそ、この新譜を聴いてほしい! 鑑賞の達人が「イチオシ」の代わりに「イチ盤」をご紹介くださいました。

※宮嶋極さんの「イチ盤」はこちら

東条碩夫(音楽評論家)選

◆ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲集

ヴィルヘルム・ケンプ(pf)、ヘンリク・シェリング(vn)、ピエール・フルニエ(vc)、カール・ライスター(cl)

(1969、1970年録音 グラモフォン UCCG-9171~3)

 かつてこんなにあたたかい演奏をした巨匠たちがいたのだ――ということを思い起こさせてくれる演奏がこれだ。半世紀前の録音だが、このSACDのリマスタリングでよみがえった音は、明晰(めいせき)ではありながらアナログ的な柔らかい雰囲気を残しており、ケンプ、フルニエ、シェリングのヒューマンな音楽を快く堪能させてくれる。「街の歌」のみはシェリングではなく、当時若かったライスターが加わった演奏だが、彼も巨匠たちに啓発された如く、見事な協演を繰り広げている。

◆ベートーヴェン:交響曲全集

アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

(1939年10月~12月ライヴ録音 ミューズ貿易新社 ATS-300/304-2)

 トスカニーニがNBC響との活動を開始していまだ間もない1939年秋――折しも欧州では第二次世界大戦が始まった時だった――8Hスタジオ(「第9」のみカーネギーホール)での公開ライヴにより行なわれたベートーヴェン・ツィクルスの記録。序曲も6曲収められている。録音は申し分なく(?)悪く、中にはちょっと悪すぎるものもあるが、それを補うものは、彼の指揮の並外れた迫力である。ベートーヴェンの強靭(きょうじん)な意志を余すところなく再現したかのようなこの猛烈な、たたきつけるような演奏は、好悪は分かれようが、ものすごい説得力を持つ。「第9」第1楽章は12分半というテンポの速さ。拍手入りで、一部には放送のアナウンスも入っている。貴重な記録だ。

柴田克彦(音楽ライター)選

◆︎ベルリオーズ:幻想交響曲

フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)、レ・シエクル

(ハルモニア・ムンディ KKC6109)

◆︎ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

テオドール・クルレンティス(指揮)、ムジカエテルナ

(ソニークラシカル SICC30561)

 いま最も刺激的なオーケストラ音楽を聴かせてくれるのが両コンビ。特にこの2枚は、さまざまなアプローチが出尽している超名曲で、さらになお衝撃的な新解釈が可能であることを示した、インパクト大なる演奏だ。いずれも、音色感、音のバランス、フレージング、アーティキュレーションが従来と異なり、あらゆる動きが耳に新鮮。そして「幻想」の生々しいエネルギーと迫力、「運命」の破格の推進力とダイナミズムは、聴く者に比類なきカタルシスをもたらす。

池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

◆「さすらい人」チョ・ソンジン(ピアノ)

シューベルト「《さすらい人》幻想曲」、ベルク&リスト「ピアノ・ソナタ」

(ユニバーサルDG UCCG40097)

 2009年の第7回浜松国際ピアノ・コンクール本選のオブザーバーとして中村紘子審査委員長(当時)に招かれた折、「とにかく15歳の韓国人の男の子がすごいのよ」と告げられた。ピアノを弾く技術、解釈の様式感すべてが妥当で自然なのは当然、どこか茫洋(ぼうよう)としながら「これはまだ、巨大な才能の片鱗(へんりん)でしかない」と確信させる奥行きに驚いた。2015年にはショパン国際コンクールで優勝。ドイツ・グラモフォン(DG)からの第5作に当たるアルバム「さすらい人」では、宇宙を視野に哲学するかの趣が生まれ、ベルクのソナタからも大きな「うた」を引き出している。

毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

◆「ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集」イゴール・レヴィット

(ソニークラシカル SICC30533―41)

 ベートーヴェン・イヤーに向けてリリースされた大作、後期ソナタ(No.28から32まで)で2013年にデビューし、そこを起点とした直近3年での全曲録音となっている。少年時代にミサ・ソレムニスを聴いてベートーヴェンに魅せられたという音楽への深い造詣に裏打ちされた聴き手の心を引きつけるレヴィットの音楽性は、彼が初期に取り組んだというOp.2-2 No.2イ長調ソナタで、純粋な喜びから深刻な思索まで作曲家の音楽の神髄を描き出す。最後のOp.111 No.32ハ短調ではまるで楽譜から離れて、いま即興で奏でているかのように心を自由に解き放ち、新しい世界への扉が開かれた幸福感に包まれる。いまだ遠い芸術活動の扉が開かれるまで、しばしベートーヴェンのピアノ・ソナタに心を委ねて光あふれる大空をかけ巡ってみようか。

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