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音のかなたへ

ゴミ捨て場のモーツァルト

東京都千代田区で=尾籠章裕撮影

 ベルリンやパリやヨーロッパの中心都市の石畳に人っ子一人いない映像が何度もテレビに映し出された。新型コロナウイルス感染の危険に対処するため、かつて私も歩いたこれらの都市から、人が消えた。続いて映った教会にも誰もいなかった。外出禁止になる前日には、ここで何人が歌を歌っていただろうか?と思った。

 かつて都市には、ドストエフスキーが描いたような、手記を書いている地下生活者が隠れていた。人が何を考えているか分からないことの象徴であろう。彼は都会の群衆の中にあっても、孤絶している。自分はちっぽけな虫けらにもなれなかったと自己を責め、しかるに、自分だけが知っている真実をもし口にするならばたちどころに世界が凍り付くだろうと思い込み、それでいて自分の周りの日常にはこだわり、自分が一杯のお茶を飲むためなら世界など滅んでもいい、とうそぶく。

 地下生活者でなくとも、今は、誰も、どこにも隠れおおせる場がない。○月○日には大阪から東京に何人が移動してそれぞれどこへ行った、あるいは、○月○日の銀座の人出は○月○日の○%である、など誰がどこで何をしているかすべて見られている。SNSでどの画面を開けているか把握され、何を考えているかも読み取られる。全員がマスクをして顔が分かりにくくなったのとは裏腹に、個人のデータは完璧につかまれる。かつて全国民…

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